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【座談会】 デザインと技術のプロ集団フェンリルに学ぶ「フォント選びのコツ」

大手スーパーのポイントアプリから国内最大級の動画配信サービスまで、日常に欠かせない数々のデジタルサービスのデザイン・開発に携わるフェンリル株式会社。
デザイン業務に携わる全社員にモリサワのサブスクリプションサービス「Morisawa Fonts」のライセンスを⽀給しています。その活⽤はクライアントワークだけでなく、⾃社制作物や社内レクリエーションなど多岐にわたります。

そこで今回はフェンリルでデザインやディレクション業務に携わる3名にご登場いただき、フォント選びのポイントや社内での活⽤⽅法、MORISAWA PASSPORT からMorisawa Fontsへ移⾏した感想など、フォントにまつわるお話をざっくばらんに語っていただきました!



左から、児玉さん・中西さん・宮地さん

■お話を聞いた⼈
フェンリル株式会社
ブランディング部 デザイナー 児⽟論哉さん
デザインセンター デザイン戦略部 アートディレクター 中⻄弘樹さん
デザインセンター デザイン部 課長/ディレクター 宮地祥太さん

1.フォント選びは難しいから⾯⽩い

― 先端的ウェブブラウザ「Sleipnir」の開発をはじめ、これまで400社600種類以上ものアプリ開発などを⼿掛けるフェンリル。まずは皆さんの簡単な業務内容を教えてください。

中⻄ 私はデザイン戦略部で、アートディレクターとしてクライアントとの共同開発事業に携わっています。

宮地 私も共同開発担当で、ディレクターをしています。社内で使うツールの導入や運用ルールを定義することもあります。

児⽟ 私はフェンリルのブランディング部⾨でデザイナーをしています。

― 早速ですが皆さんは、フォント選びのマイルールやコツってお持ちだったりするんでしょうか?

中⻄ プロジェクトにもよりますが、目的や要件に合うことを前提に、意味性・情緒性、機能性、利便性などの観点から、最適なフォントを選びたいと思っています。
モリサワの公式Webサイトには字形のサンプルや書体の特徴が紹介されていて、デザインされた背景なども書かれているので、そういった情報も確認するようにしていますね。

リュウミン L-KL|書体見本

宮地 フェンリルは⼤⼿クライアントの案件が多いので、プロジェクトのルールとして使⽤可能なフォントが決まっていることがほとんどです。UDフォントを使う場合もありますね。

中⻄ UDフォントといえば、JR⻄⽇本様(⻄⽇本旅客鉄道株式会社)の列⾞運⾏情報をリアルタイムに提供するWebアプリ「JR⻄⽇本 列⾞⾛⾏位置」の開発を⼿掛けたときに、駅名標で使われている「新ゴ」に合わせて「UD新ゴ」を選びました。
UDフォントにした理由は、さまざまなデバイスで視認性が高く保てて、ユーザーの誤認識を防ぎやすいと考えたからです。

UD新ゴを使⽤した「JR⻄⽇本 列⾞⾛⾏位置」

JR ⻄⽇本様にUDフォントの良さを体感してもらおうと提案書にもUDフォントを取り入れて作成したところ、視認性の高さが伝わり満場⼀致で採⽤していただきました。

宮地 提案書に使うフォントってかなり重要ですよね。社内向けの提案書だと、オチとしてインパクトを与えたかったり、ユーモアな印象を与えたい場合は、スライドの内容に合わせて個性的なフォントを選ぶことがあります。

児⽟ どうやって探しているんですか?

宮地 Webのフォント⽐較サービスなどで⼤量に⽂字を並べて、気になるものをピックアップしています。

デザインセンター デザイン戦略部 アートディレクター 中西弘樹さん

児⽟ 私はフェンリルのコーポレートブランディングに携わっているため、選ぶフォントもガイドラインに沿うことが多いです。

宮地 ⾃社の広報物はテキストが多くを占めるので、フォントの印象がかなり重要になりますよね。

児⽟ そう。だから⽂字に表情が欲しくなるんだけど、やりすぎると⼤げさになってしまう。声に出して何度も読んでみるなど、際どいラインを⾒極めながらフォントを探していく作業がすごく楽しいし、思い描いていたニュアンスが狙い通りに伝わると嬉しいです。

中⻄ マイルールはありませんか? その時々で推しフォントもありますが、私の場合、⾒出しは「⾒出ゴMB31」、本⽂は「游ゴシック」を選びがちです。Adobe Illustratorのデフォルトのフォントも「游ゴシック」に変えています。

児⽟ 分かります! 私もキャプションは「中ゴシックBBB」に決めています。

宮地 明朝なら「A1明朝」ですね。たまには変えてみようと思って別のフォントも検討してみますが、やはり「A1明朝」に戻ってきてしまう、不動の存在です。

A1明朝|書体見本

児⽟ 安⼼感がありますね。

中⻄ 著名なタイプディレクターが「フォント選びは、教科書的に考えなくても、フォントの印象や雰囲気から選んでいい」といったような話をされていて、感銘を受けました。
⾃分が選ぶときもそうですし、後輩のデザインをチェックするときにも、理屈だけではなく感性も大事にして、バランスの取れたフォント選びができたらいいなと思います。


2.名刺から部内運動会のロゴまで! 社内におけるフォント活⽤術

中⻄ フェンリルではMorisawa Fontsが社内の標準ツールになっているので、社内の制作物でもよくモリサワのフォントを⾒かけます。

児⽟ 例えば、フェンリルに⼊社した⼈全員に配るウェルカムシートもそうですよ。名刺、社章、名札、ICカードをすべてオリジナルで制作していて、初めて⾒た⼈には喜ばれます。

フェンリルに⼊社すると配られるウェルカムシート。
シンプルなデザインだからこそ、フォント使いに気を配ったのだそう。

中⻄ 最近だと「デザインセンター⼤運動会」のロゴにも使われていました。

宮地 クライアント業務では出番が少ない個性的なフォントが使い放題だからか、業務以外でも楽しみながら本気でデザインしていましたね。

レンタルスペースを貸し切って⾏われた、部内運動会のキービジュアルがこちら。
1⽇だけの社内⾏事にもロゴを作るという!

中⻄ 今回の運動会ロゴは若手のデザイナーに作ってもらいましたが、普段の仕事では使わなさそうなフォントを選ぶので、見ていて楽しい気持ちになりました。
イベントそのものにもこだわっていて、参加チームごとにチームロゴ⼊りのTシャツを制作したり、会場装飾のガーランドをオリジナルで作ったりと、全⼒投球でしたよ。

児⽟ 最近は、バックオフィスの⼈たちがモリサワのフォントを使ってイベントポスターを作ることもあります。みんなが⾃由に使えるフォントがあると、可能性が広がります。

ブランディング部 デザイナー 児⽟論哉さん

宮地 しかも、そういった活動が自主的に行われるのがフェンリルの良さですよね。

児⽟ フェンリルの「デザインと技術」っていうカルチャーが社内全体に根付いているのを強く感じます。その⽂化を今後も継承していくにあたって、Morisawa Fontsは⽋かせない存在になっていますね。


3.Morisawa Fontsが企業の未来を変える?

― Morisawa Fontsをこんなにも活⽤していただいてうれしいです! 元々は、前⾝サービスであるMORISAWA PASSPORTから移⾏していただいたんですよね。

宮地 そうですね。今回私は、社内でMorisawa Fontsに移⾏するプロジェクトを取り仕切りました。こういった移行対応ではマニュアルを作成してメンバーに配布することもありますが、その必要がないほど簡単でした。15分ほどで移行を完了できた⼈が多かったんじゃないでしょうか。
全体で70名ほどが対応しましたが、⽬⽴ったトラブルもなく無事に終えられました。

<参考>
・MORISAWA PASSPORT「Morisawa Fontsへ移⾏の⼿順」
https://www.morisawa.co.jp/products/fonts/passport/migration/

・MORISAWA PASSPORTからMorisawa Fontsの移⾏の流れ
https://mf-migration.morisawa.co.jp/hc/ja/articles/14559671614233

宮地 私⾃⾝はMORISAWA PASSPORTでインストールしていた書体をそのまま引き継ぎました。
Morisawa Fontsではアクティブなフォントがひと⽬で分かるようになったのですが、利⽤可能なフォントは全部で3,050個(2023年12⽉時点)あるうち、インストール済みは1,930個だったんですよね……。

打ち合わせなどで「あのフォントを〜」って話が出たときにすぐに対応できるだろうし、近いうちにすべてのフォントをアクティベート(有効化)しようと考えています。

デザインセンター デザイン部 課長/ディレクター 宮地祥太さん

中⻄ 今回の移⾏作業で、ひとつ⼼残りがありまして……。

児⽟ えっ?困ったこと?

中⻄ いえ、MORISAWA PASSPORTで使っていたフォント環境を、Morisawa Fontsに移行するのは⾮常に簡単でした。
ただ、せっかく新しいサービスを導⼊するのだから、まっさらな状態からスタートしても良かったかなと感じていて。今まで使ってこなかったフォントをアクティベートする機会だったと思うと、じっくり見直しても良かったかもしれません。

児⽟ なるほど。⾃分の選んだフォントを使いたい⼈と、使えるものは全部使ってみたい⼈といずれにも対応できて、⾃分でカスタマイズできるのがメリットのひとつなんでしょうね。

中⻄ フォント探しもアクティベートも簡単になりました。プロのデザイナーが使いやすいのはもちろんですが、学⽣時代にMorisawa Fontsが欲しかったですね。

児⽟・宮地 確かに!

中⻄ 今と違ってフォントの情報を得ることが⼤変で、書体見本帳や清刷集から探したり、デザイン誌の特集などを読んで、ちょっとずつ覚えていきました。当時はいいなと思うフォントがあっても気軽に試せなかったですし。

児⽟  「どんなフォントを使っているのかな?」って、作業している先輩のMacを盗み見たりしましたね。

中⻄ Morisawa Fontsなら、すぐにフォントが探せるし、好きな⽂章を試し打ちできるし、なによりボタンひとつでアクティベートして使えるようになる。フォントの情報収集も、モリサワの公式サイトやnoteに役立つコンテンツがたくさん載っているから、デザインに活用しやすく助かります。

右端のスライダーを操作することで、アクティベートが可能

宮地 作業的にも、気持ち的にも「フォントを選ぶ」ハードルはかなり下がりましたよね。⾮デザイナーでも使いやすいというか、裾野がかなり広くなった気がします。

中⻄ そうですよね。プロもアマチュアも垣根なく使いやすいサービスだから、Morisawa Fontsを通して、言葉や文章の表現が今よりずっと豊かになるといいなと思っています。



お話の中にあった、選んだフォントの良さを伝えるため提案書に同じフォントを取り入れる、フォントの印象を確かめるため声に出して読んでみるという視点は、大変参考になりました。
中西さん、宮地さん、そして児玉さん、フォント愛にあふれた楽しい時間をありがとうございました!