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「約物」のアキと調整

「日本語組版は難しい……」
こんな言葉を聞いたことがありますか?
その要になるのが「約物やくもの」と言われる記号類です。

例えば私達が当たり前のように使用している句読点
縦組みでは「、。(テン・マル)」の組み合わせが使用されますが、横組みでは「,。(カンマ・マル)」や「,.(カンマ・ピリオド)」の組み合わせを使用することもあります

昭和26年(1951年)に国語審議会が定めた「公用文作成の要領」では、公文書において横書きでは「,。(カンマ・マル)」を用いるよう定められていました。
しかし令和4年(2022年)上記に代わって「公用文作成の考え方」が定められ「、。(テン・マル)」が横書きにおける句読点の原則となりました。
※横書きでは「,(カンマ)」を用いてもよいとされていますが、一つの文書内でどちらかに統一する必要があります。

これら句読点は、文の区切りを示す役割を果たしています。私達にとっては身近な存在ですが、実は昔は使われていませんでした。
日本ではじめて句読点が登場したのは明治時代です。明治39(1906)年に文部省が句読点の使い方を標準化し、同じ頃に括弧など他の記号類も定着しはじめました。

『句読法案・分別書キ方案』,文部大臣官房図書課,明39.3. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/903921 (参照 2023-10-31)

こうして見ると、日本語の長い歴史の中で、句読点を始めとする約物はまだまだ新参者です。
組版という観点で見ると、非常に重要な役割を果たしていると同時に、組版を難しくしている要因であると言えるかもしれません。

今回はそんな約物についての組版をご紹介していきます。


日本語で使用する文字の種類

冒頭で挙げた「日本語組版は難しい」と言われる理由として、非常に多くの文字の種類が存在することが挙げられます。
日本語には漢字やかなのほか、アルファベットや数字、記号類などが使用されます。文字の種類によって組むときに細かいルールが異なるため、難しく感じられるのではないでしょうか。

こうしたルールに基づく調整は、原則はアプリケーションなどが自動処理を行います。使っているアプリケーションによって、自動処理の際のデフォルト設定や、設定変更が可能な範囲が異なります。
まずは基本の考え方を押さえたうえで、実際に組版作業をする際は設定を確認しましょう!

日本語組版で使用される文字の種類の例

この中から「約物」と呼ばれる記号類について、日本語組版の行中でどのように組版をするのかを見ていきましょう。

※行頭や行末ではまた異なるルールが適用されます。
「行頭」括弧類の扱いについては、下記の記事をぜひご参照ください。
「行末」の扱いについては今後の連載にてご紹介しますので、お楽しみに。

約物のアキ

約物やくもの」は、文章を区切る句読点や、語句を区切ったり強調する括弧類などのことを指します。約物以外の記号は「印物しるしもの」と呼ばれます。
しかしそれら印物も含めて、記号類全体のことを「約物」と総称することもあります。

日本語組版で使用される約物の例

約物は日本語の文章中で数多く使用されています。どのような約物が使用されるかは文章の内容によっても異なりますが、このnoteでも使用しているように、句読点や括弧類はごく一般的な約物と言えるのではないでしょうか。

見ての通り、約物そのものが占める幅は文字の大きさに対して半角です。 ですが、本文組版の行中においては、前か後ろにアキを入れて正方形(全角幅)で扱われるのが一般的です。約物の役割は区切りを示すことですので、アキが入ることで視覚的にも区切りが分かりやすくなります。
もっとも組版アプリケーションのデフォルト設定やWebサイトでは、このアキの処理をほとんど自動でやってくれています。現代の組版作業において、句読点ごとに手動で半角アキを入れる……といったことはほぼ無いはずです。

約物が連続した場合のアキ

文章の内容によっては約物が連続して並ぶケースもあります。
その際に約物のアキが連続すると、その箇所だけが非常に空いて見えてしまいます。
そのため、約物が連続した場合は並んだアキをまとめる処理をアプリケーションが行います。

疑問符や感嘆符のアキ

約物の中でも、疑問符と感嘆符は全角幅を持っています。これらは句読点と同じく、文章の終わりにつくことで区切りを示す約物です。
句読点は後ろに半角アキを入れるように、疑問符や感嘆符も後ろに全角アキを入れるのが一般的です。これによって、文の区切りであることがより明確になります。

ただし、疑問符や感嘆符の後ろで文が切れずに文脈として続く場合や、行末に配置される場合、他の約物と連続する場合は、例外としてアキを入れません。

また、このnoteのようにWeb媒体の場合、全角アキを入れると空きすぎて見えてしまうこともあります。(それってつまり? こういうことですね)
そういった場合の明確なルールは存在しませんが、アキを半角にしたり、場合によってはアキを入れずに組むことも考えられます。

行中の約物に入れるアキの例外

約物のアキを入れない組版(約物半角)

今回、本文組版の基本は、約物は前か後ろに(あるいはその両方に)アキを入れて、全角幅で扱うこととお伝えしました。
しかし、組版を行うアプリケーションによって、また制作する媒体によっては、アキを入れない場合もあります。代表的なのが、キャプションなど、狭いエリアに組版を行うようなケースです。
エリアとの兼ね合いでどうしてもアキが確保できない場合も、本文中の約物が本来の役割を果たせているかを考えて、アキやツメを調整します。
たとえば句読点であれば、文の区切りを示すことができているかに注意して組版を行うことが必要です。

約物のアキをまとめない(まとめることができない)ケース

アプリやプラットフォームによっては、約物が連続していてもアキをまとめることができない場合があります。
例として、このnoteが挙げられます。約物が連続する箇所で、「アキ」がまとめられていません。そのため「少し」「アキ」が広く見えてしまうことにお気づきでしょうか?
※今後のnoteのアップデートで変更される可能性があります。

こういった約物の制御を細かく行えるのが、Adobe InDesignなどの本文組版を行うためのアプリケーションです。
文字をただ並べるだけなら、一見どんなアプリケーションでも簡単にできるように思えます。ただし、より読みやすい日本語組版を実現するためには、約物の調整が特に重要であることを認識しておきましょう。


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