【イベントレポート】FONT COLLEGE vol.4[オンライン] 〜夏のトーコー日〜
モリサワでは、MORISAWA PASSPORTユーザ様限定公開の講座「FONT COLLEGE」を不定期開催しています。
8月7日(金)にオンラインでの開催となったvol.4では、大日本タイポ組合の秀親さん、塚田哲也さんのお二人を講師としてお招きし、フォントの使い方やデザインへのこだわりを語っていただきました。
「か」と「な」はちょっと似ている
まず初めの話題では、今年5月に偕成社より出版された『もじかけえほん かな?』が取り上げられました。
オレンジ色の表紙には大きく「か」が書かれていて、裏表紙には「な」の文字が。そしてそれぞれの文字の半分くらいの位置まで帯が重なっています。なんと、この帯をめくると「か」に見えていたはずの表紙は「な」に、「な」に見えていたはずの裏表紙は「か」に変身。表紙そのものがこの絵本のコンセプトです。ちょっぴり似ている文字同士を並べて、文字の形そのものをじっくりと味わう、なんとも新しい絵本です。
見開きに書かれた「さ ら」の文字。
上半分しかないページをめくってみると、なんと「も ち」に。
「さ」と「も」、「ら」と「ち」、それぞれ下半分が同じ形のまま、別の文字に変わってしまうことに驚きます。
次のページでは、こんどは上半分が同じ形のまま、「い ぬ」が「か め」に変わりました。「昨今はすぐに電子書籍で文字を読める時代だけど、実際に紙を加工して、手に取らないと楽しめない絵本を作りました。続きはぜひ実際に見て楽しんでもらいたい。」とお二人は語ります。
実際の制作過程も紹介してくれました。
本誌では“言葉としてわかりやすく、小学1年生でもわかる言葉の組み合わせであること”を意識した言葉たちが採用されていますが、そこに至るまでに膨大な数の文字の組み合わせと試行錯誤がありました。
アイデアスケッチ。
一文字ずつ半分に分割して、文字同士の共通点を見つけます。
共通点がある文字をデータ上でまとめていきます。膨大な数です。
ちなみにベースとなった書体は「学参 中ゴシックBBB 」。大きさ「350Q」のときに線の太さは「2mm」とし、少し太らせて角に丸みを持たせました。“文字の幅が一緒で加工がしやすく、なるべくニュートラルで形が主張しすぎない文字を”という意図と厳密なルールがあります。
子どもたちが文字に触れること
大日本タイポ組合のお二人は、他にも子ども向けの様々なプロジェクトに参加されています。
『小学一年生』(2020年4月号, 小学館)に掲載された「うんこ20めんそうあらわる!」では、「う」「ん」「こ」の文字の先に伸びた点線を塗りつぶすと別の言葉があらわれる、クスッと笑える文字のぬりえを制作。
水戸芸術館「おうち・こらぼ・らぼ」のプログラムでは、イラストの中に隠れた水戸芸術館のロゴを探しながら、ぬりえも楽しめる「もじさがしぬりえ」と、同ロゴにお絵かきを描きたして楽しむ「もじかくしおえかき」を制作。いずれもちいさい子どもたちがおもいっきり楽しめるコンテンツとなっています。
書体に関していえば、遊び方の説明や施設の概要など、子どもたちがひらがなの正しい形を認識できるように、という意図から主に学参書体が使われていますが、漢字についてはデザインを重視し1文字だけでも別の書体が用いられていたりします。また、「UDデジタル教科書体」はひらがなも漢字もアルファベットも、コンテンツにぴったりマッチしてお気に入りの書体とのことです。ポップでゆるやかな表現の中にも、タイポグラフィユニットとしての細かな気遣いが満載です。
作字へのこだわり。時には合成フォントの乱れ打ち!
話題は、最近取り組んだデザインの話へ。展覧会のフライヤー、漫画の装丁など、幅広いデザインと書体選定にまつわるあれこれがたっぷりと紹介されました。
一つ目は町田市民文学館ことばらんどで開催された「東京クロニクル1964-2020」のメインビジュアル。赤で「東京クロニクル」と書かれた周辺、網点処理が施された部分には「東京」の周りに「クロニクル」が、「クロニクル」の周りには「東京」が浮かび上がります。サブタイトルでは1964年当時の雰囲気を出すために「秀英角ゴシック金」をフォトショップ で滲ませて「墨だまり」っぽさを演出したり、概要部分では同フォントに「Futura」を掛け合わせた合成フォントを採用したり。雰囲気づくりが徹底されています。
2015年にギンザ・グラフィック・ギャラリーで開催された「字字字」展のチラシには、裏面いっぱいにたくさんの書体、文字の乱立。「UD新ゴ」の異なる長体率のコンデンス書体をウエイトと大きさを変えながら全て同じ太さで統一させたり、文中の「字」「じ」「ジ」「G」「g」が入った時だけ文字のウエイトが変わるという合成フォントを作成するなど、大日本タイポ組合らしい絶妙なテクニックを盛り込んだ作品となっていました。
清野とおる作の『まあどうせいつか死ぬし〜清野とおる不条理ギャグ短編集〜』(小学館)では、漫画のコマ割りのようなレイアウトになっている目次にて、各短編のノンブルの書体を選定されました。例えば『曲がれない男』のノンブルは角ばったロゴデザインに合わせて「竹」、『みんなの桃論』のノンブルは「プリティー桃」と言ったように、直接的な着想を元に選定されていました。
これらの書体は実際に、各話の掲載ページでもノンブルにきちんと用いられていて、まさに、清野氏が言うところの“おこだわり”が満載な一冊となっているようです。
トーコー(登校)日のトーコー(投稿)作品
後半は視聴者の皆さんから事前に投稿された作品が紹介されました。
お題一つ目は「時字ネタ」。
「謎の種」「サブスクリプション」「新型コロナウイルス」など、最近話題のトピックを文字を使って表した作品を紹介。お二人が特に気に入っていたのは「なつやすみ」がテーマの作品。「ゼンゴN」で書かれていた「なつやすみ」という文字、よく見るとあちこちが欠けています。本来通りに楽しめない感じ、夏休みがあるような無いような、手放しで休みを喜べない今年ならではのムードが表現されていました。
お題二つ目は「文字なぞかけ」。
「“文字組”とかけて“新米ビジネスマン”とく。そのこころは、どちらも“じかん(時間・字間)”にこだわると良いでしょう。」文字を扱う人ならきっとピンとくる着眼点。その他にも文字にまつわるテーマを用いた渾身の謎かけが紹介されました。
終わりに
言葉そのものの意味、伝わりやすい形、表現に最もふさわしい文字選びを心がけている大日本タイポ組合のお二人。
最後のまとめでは、「書体の好みや、イメージにふさわしい文字選びをすることも大事だけど、せっかくたくさん書体があるんだから、見出し一文字だけでも今まで使ったことがないようなものを使ってみたりして、違う表情にチャレンジするといいと思う。」と語ってくれました。
こだわりと遊び心を持つお二人の自由な制作スタイルは、デザインと文字を取り巻く多くのデザイナーにとって制作のヒントになったのではないでしょうか。
途中、機材トラブルはあったものの、2時間にわたるオンライン講座は、穏やかに締めくくられました。秀親さん、塚田さんありがとうございました。
FONT COLLEGEはこれからも不定期に開催し、noteでレポートを掲載していきたいと思います。