【インタビュー】わたしの“推し”フォント 第7回 木村浩康(Rhizomatiks Design)「ポスターからオンスクリーンまで、一貫したデザインが可能になったことで書体に対する意識が変わった」
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【インタビュー】わたしの“推し”フォント 第7回 木村浩康(Rhizomatiks Design)「ポスターからオンスクリーンまで、一貫したデザインが可能になったことで書体に対する意識が変わった」

いま、私たちは情報の多くを文字から受け取っています。メディアの中心が印刷物からスクリーンに変わってもなお、文字がコミュニケーションのひとつの要であることは変わりません。
「My MORISAWA PASSPORT わたしの“推し”フォント」では、さまざまなジャンルのデザイン、その第一線で活躍するデザイナーに、文字・フォントをデザインワークのなかでどのように位置づけ、どのような意図・考えで書体を選択しているのかをインタビュー。あわせて、「MORISAWA PASSPORT」“推し”フォントを紹介いただきます。
第7回は、最新のテクノロジーを取り入れたオンスクリーンメディアから紙媒体まで幅広く手がけるRhizomatiks Designの木村浩康さんにお話を伺いました。

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木村浩康
アートディレクター/インターフェイス・デザイナー
東京造形大学卒業後、Webプロダクションを経て株式会社ライゾマティクス(Rhizomatiks Design所属)に入社。最新のテクノロジーの知見を取り入れ、さまざまなデータを活用したテックドリブンなデザイン制作を行う。文化庁メディア芸術祭最優秀賞など多数受賞。


1.Webフォントで文字に対する意識が変わった

先進的なデジタル技術をエンターテインメントと融合し、常に新しい表現を生み出し続けているRhizomatiks社。その中で木村さんはどのようなかたちで関わっているのでしょうか。

「Rhizomatiksはデザイン、リサーチ、アーキテクチャーの三本柱でやっています。僕が所属しているRhizomatiks Designは、世の中の問題に対して作品をもとにデザインの力で問題解決をしていく部門。Webサイト、デジタルサイネージ、デジタルアート、インスタレーション、グラフィックの仕事などメディアの境界なく横断的にクリエイティブディレクターとして関わっています」

木村さんのフォントについての認識が変わったのは、ここ数年のこと。特に大きかったのがWebフォントが普及したことだそうです。

「これまで書体にこだわってポスターやチラシのデザインを作っても、Webに展開する際にはデバイスフォントに置き換わるのを諦めるしかありませんでした。たとえば見出しを見出ゴMB31、本文を中ゴシックBBBにする場合には、見出しは画像にして貼り付けて、本文のほうはデバイスフォントを指定して…という話です。
でもTypeSquareならMORISAWA PASSPORTのアカウントがあれば使えて、見出しは見出ゴMB31で、本文は中ゴシックBBBでそのまま表示させることができるじゃないですか。
グラフィックとスクリーンで一貫したデザインが可能になることで、書体の持つ雰囲気を活かして、文字によるデザイン全体の構成を考えられるようになり、書体への意識が変わりましたね」

2.木村さん流のフォントの選びかた

木村さんの作品には、タイトルなどによく欧文が使用されています。和文フォントを選ぶ際の基準に、まず欧文フォントとの相性を挙げてくださいました。

「たとえば見出ゴMB31や中ゴシックBBBのデザインは、Helveticaに近いんです。そうするとHelveticaを使ったデザインになじみやすいし合わせやすい。タイトルやグラフィカルに扱う文字にはHelveticaを適用して、和文の中の欧文はそのまま従属欧文でとか、そういうなじませかたができます」

Webの場合、和文の文中に出てくる欧文は従属フォントで表示することになります。そのため従属欧文のデザインも、フォント選択のポイントのひとつになるのだそうです。

「グラフィック用のレイアウトツールと違い、Webには合成フォントの機能がありません。欧文だけ110%に拡大するといった調整もできないんです。ですから従属フォントのかたちはよく見るようにしています。MORISAWA PASSPORTの書体は従属欧文も和文とラインが揃ってきれいに見えますね。
従属欧文以外でも、メディア間での一貫性を出すためにWeb表現に相性が良いフォントを、あらかじめグラフィックでも使っておくようなこともしています。一貫性を出すためにはフォントごとの相性や知識、使える機能やそれを実装する技術などを持っていることも大切だと思います」

3.木村さんのデザイン&書体実例

木村さんが手がけた仕事のなかで、フォントはどのように使われているのか実際に見てみましょう。ひとつめはPerfumeの映画『Reframe』のポスターとWebサイトのデザインです。

「このときはB1、B2のポスターとパンフレット、Webサイトを作っていて、全部書体を揃えています。Reframeは再構築っていう意味なので、3つの書体でReframeのロゴを組み上げてそれを表現しました。いつものPerfumeのテクノっぽい印象よりは、トラディショナルなものを選ぼうということで、欧文はGaramond、和文は秀英明朝を選んでいます」

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もうひとつは、2019年の11月から12月まで開催された暗闇でアートを見る展示会『Sense Island』のアートディレクションです。

「生っぽい手触りがこの展示のコンセプトに合ってるのかなと思い、見出しにはA1明朝を使ってます。墨だまりの雰囲気が生っぽい感じかなと。欧文はHelvetica。それ以外の場所は見出ゴMB31です。
デジタルデバイスでは明朝体はあまり相性がよくないというか、隠れがちになってしまうんですが、Webで明朝体を使用する際はそれを見越して大きめのサイズに設定するようにしています。
グラフィックに慣れている人がWebを見ると、文字組みが気になることが多いと思うんですが、従属欧文のかたちに注意を払ったり、サイズなどの使いかたを工夫することで解消できます。TypeSquareでMORISAWA PASSPORTと同じフォントを使えるようになり、Webの文字による表現力も格段に上がったと思います」

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4.MORISAWA PASSPORT “推し” フォント

1. A1明朝
「Sense Islandでも大きなサイズで見出しとして使用しました。Webフォントが普及し始めたことで、改めて良さを実感したフォントです。墨だまりの柔らかい印象が、今の高解像度なスクリーンで見るとよく感じられるように思います」

2. 見出ゴMB31
「Helveticaとの相性がいい書体です。グラフィックと比べて解像度の低いパソコンやスマホのディスプレイでも、文字のプロポーションがはっきりと見えて、読みやすい。使用するメディアが違っても、同じ印象を与えてくれる書体としてつい選びたくなります」

3.UD新ゴコンデンス80
「きちんとバランスが取れたコンデンス書体で、ウエイトも豊富に揃っているので、積極的に使っていきたいと思っています。正体よりも見慣れないプロポーションで、目に引っ掛かりができるように感じます。ポップな世界観が表現できるフォントですね」


グラフィックだけで完結するのか、Webやそのほかのメディアも含めて同じトーンで整えていくのか。メディアごとのフォント表現を見極めることで、書体選びも変わると言えるでしょう。

*この記事は2020年9月に発行された、マイナビ出版『+DESIGNING』vol.50掲載のものを加筆・再構成したものです。

書体:くれたけ銘石
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