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【インタビュー】わたしの“推し”フォント 第1回 色部義昭(日本デザインセンター)「書体はブランドの見えない部分も伝える重要な素材」

いま、私たちは情報の多くを文字から受け取っています。メディアの中心が印刷物からスクリーンに変わってもなお、文字がコミュニケーションのひとつの要であることは変わりません。
「My MORISAWA PASSPORT わたしの“推し”フォント」では、さまざまなジャンルのデザイン、その第一線で活躍するデザイナーに、文字・フォントをデザインワークのなかでどのように位置づけ、どのような意図・考えで書体を選択しているのかをインタビュー。あわせて、「MORISAWA PASSPORT」“推し”フォントを紹介いただきます。
第1回は、グラフィックデザインをベースに平面から立体、空間まで幅広くデザインを展開する色部義昭さんにお話を伺いました。

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色部義昭
グラフィックデザイナー|株式会社日本デザインセンター取締役
東京藝術大学大学院美術研究科修士課程修了後、株式会社日本デザインセンターに入社。2011年より色部デザイン研究所を主宰。
主な仕事にOsaka MetroのCI、国立公園ブランディング、市原湖畔美術館・須賀川市民交流センターtetteなどのVIとサイン計画から、パッケージ、展覧会デザインまで、グラフィックデザインをベースに平面から立体、空間まで幅広くデザインを展開。
http://irobe.ndc.co.jp/

1.デザインにおける書体の位置づけ

ブランディングやサイン計画を中心にデザインを手がける色部さん。
個性も違えば役割も異なる、多種多様な仕事のなかで、文字、書体はどういった働きをするものと捉えて取り組んでいるのでしょうか。

「私は文字を素材と捉えて使っています。文字情報というのはあらゆるコミュニケーションに使われるものなので、あるブランドのための書体をひとつ選んだら、目に見える部分以外の情報も発信していくことができます。
たとえば、ブランドが人の身体だとしたら、書体は血液のようなもので、ブランドの隅々にまで意思やフィロソフィーといったものを循環させていくことができる。書体はそういった要素を担っている重要な素材だと思っています」

2.ブランディングという仕事と書体の選定

目に見える部分以外の情報も担う書体。それはつまり、ブランドやメッセージをより正確に、ふさわしいトーンで伝えるための役割を書体に持たせているということになります。
こうしたとき、色部さんはどのような視点、プロセスで書体を選んでいくのでしょうか。

「書体を選ぶときは、ロゴなどが決まっていればそれと同調する書体にするかコントラストのつく書体にするかで考えます。先に書体から考えていくような場合は、施設や部屋の名前といった大事なワードを候補になる書体で打って、イメージに近いトーンのものを比較していきます。
書体を選ぶ基準というのはプロジェクトごとに異なりますが、書体を選ぶことは自分のデザインのなかで楽しみな部分ではあります。クライアントやブランドにはそれぞれの個性がありますから、それを見極めて書体を選び抜くことが大切です。理想的にはプロジェクトごとに、毎回、違う書体を使いたいと思っています。
書体が決まった後は、それをターゲットのイメージに合わせて、どう組むか、レイアウトするか、アレンジするかを考えていきます。ただ、このときはタイプデザイナーによって作られた書体を自分なりにどう活かして使っていこうか、楽しんでいる部分もありますね」

“ブランドの血液”としての書体。多くのメディアにそのフィロソフィーを浸透させるためにはいま、フォントとしての文字は欠かせないものになっています。

「ロゴは点として存在するものですが、書体は線になり面を構成するものとなるものです。
MORISAWA PASSPORTとTypeSquareのように、デスクトップ用のフォントからWebフォントまで、共通のフォントが使えることで、サインからWebまで同じトーンで展開できるということは大事な要素だと思っています。
使いやすい書体をあらかじめ決めておくとか、いい書体、悪い書体という判断は自分のなかには持ってはいません。ブランディングではクライアントの個性やプロジェクトの性格に最適な素材であるかどうかが最も重要だと考えています」

3.色部さんのデザイン&書体実例

色部さんが手がけた仕事のなかで、フォントはどのように使われているのか。実際に見てみましょう。
ひとつめは「虎ノ門横丁」ブランディングです。

「ここは横丁のなかに立ち飲みのできるお店や自由に飲食ができる寄合席があったり、クラフトジンの蒸留所があるのですが、そういったクラフト感を表すために、カクミンを選びました。
横画の細い書体は繊細でやさしい印象になりますが、カクミンのように横画が太くごろっとした書体は、横丁のにぎわいにマッチしますし、横丁の歩きかたを説明するピクトグラムとも調和する、サインに使っても見やすい書体だと考えています」

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色部さんの仕事、ふたつめは天理駅前広場コフフン」のブランディング・サイン計画です。
このプロジェクトでは、サインからグラフィック、Webサイトにいたるまで、書体によって統一されたトーンを作り上げています。

「コフフンは、子連れで遊べる駅前広場があったり、イベントを開催したりできるスペースで、観光地への誘導もこの施設が担っています。
建物に合わせて、使いかたを案内するサイン板などは曲面の板で構成しているのですが、そのなかで子どもたちにも使いかたをやさしく伝えるために秀英丸ゴシックを使いました。
夜間照明をかねたポール状の屋外のサインは、内照式にして文字だけを光らせるようにステンシルのような一部を抜く処理をしたのですが、それが文字としておもしろい効果になったので、このアイデアをロゴやピクトグラムにも反映させています」

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最後にご紹介するのはアルヴァ・アアルト もうひとつの自然』のブックデザインです。

「この仕事ではヒラギノ角ゴオールドを使っています。
掲載している図版には紙焼けしたようなものが多かったこと、アアルト自身が人の手の感覚やヒューマニティを意識していたこと。そうしたクラシック、手触り感を継承したいという意味でも、ヒラギノ角ゴオールドの整理されすぎてない文字のかたちが、このテーマには合っていると考えて選びました」

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4.MORISAWA PASSPORT “推し” フォント

そんな色部さんがいま選ぶ、MORISAWA PASSPORTイチオシのフォントとは何なのでしょうか。
ここからは3つの“推し”フォントをオススメポイントと合わせて紹介します。

1.秀英角ゴシック金・銀 L/M/B
「いろいろと縁があって使うことの多いのが秀英体で、その中では秀英体の骨格を残しながらも、ちょっとクセのある部分も持っているのが秀英角ゴ金・銀だと思います。ちょっと個性を持たせたいときには比較的好んで使うことが多い書体です」

2.秀英丸ゴシックL/B
「秀英丸ゴシックは自分のなかでは事件でした。それまでの丸ゴシックというと、書体の骨格が四角いものが多く骨格が端正なものばかりでしたが、秀英丸ゴシックはあまくなりすぎないように骨格が引き締めてくれています。子どもっぽくならない書体だと思います」

3.カクミン
「おもしろい使いかたができる書体だと思います。ゴシック体では味気なくなってしまうところに情緒を出せて、横画がしっかりしてるとサインにも使えます。広く使われている書体ではないので、個性を出すときの優位性が出せるのもいいですね」


書体はただ読むためだけのものではなく、場面に合わせて適切に選ばれた書体があってこそ伝えられる情報があり、ブランディングやサイン計画ではその点がもっとも重要になってくるもの。
色部さんが手がけている仕事は、隅々にまで気が配られ、最適な書体が選ばれていることが伝わってきます。

*この記事は2020年9月に発行された、マイナビ出版『+DESIGNING』vol.50掲載のものを加筆・再構成したものです。