モリサワ note編集部
サステナビリティ、ダイバーシティ&インクルージョン・・・富士通での「アクセシビリティ」実践論
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サステナビリティ、ダイバーシティ&インクルージョン・・・富士通での「アクセシビリティ」実践論

モリサワ note編集部

新しいビジュアルアイデンティティに合わせ、コーポレートフォントを刷新した富士通株式会社。採用の経緯などをお伺いしたモリサワのUser’s Voiceのインタビューで、検討段階における並々ならぬアクセシビリティに対するこだわりを感じたモリサワnote編集部。詳しくお伺いするとアクセシビリティにおけるさまざまな配慮や、ブランドマネジメント視点でのガイドラインの徹底ぶりの凄さに感銘を受けました!

そしてこのお話は、デザインに関わる方や、コーポレートブランディングに関わる方、ダイバーシティ&インクルージョンを考える方など、きっとみなさまに参考にしていただけるのでは、ということでnoteでご紹介します。

コーポレートフォントにモリサワのUD新ゴを採用した理由などをお聞きしたUser’s Voiceでは、富士通が2020年に新たなパーパス*1、「わたしたちのパーパスは、イノベーションによって社会に信頼をもたらし、世界をより持続可能にしていくことです」を策定し、持続可能な未来を視野に大きく舵を切ったこと、その一環としてブランドリフレッシュを目的にビジュアルアイデンティティを全面的に刷新したストーリーをお話しいただきました。 グローバルかつダイバーシティの視点でコーポレートフォントの再構築を進め、欧文、和文ともにフォントの選定には、
① インフィニティマーク(富士通のシンボルマークの「J」と「I」の上部にあしらわれた無限マーク)との相性
② ダイバーシティ*2を大切にする企業姿勢に沿ってアクセシビリティ*3やディスレクシア*4への配慮
の大きく2点が重要視されました。

*1 パーパス:企業の存在意義や果たすべき役割のこと。
*2 ダイバーシティ:人種や性別、ライフスタイルの違いなどを包括した人材の多様性。
*3 アクセシビリティ:障がいのある人を含め、誰にでも利用しやすい設計であること。
*4 ディスレクシア:文字の読み書きに困難さを抱える症状。


1.ダイバーシティ&インクルージョンを実現するためのアクセシビリティって?

国連のSDGs(持続可能な開発目標)や気候変動と脱炭素への動きが象徴するように、このままでは世界は立ち行かない、サステナビリティを重視しようという姿勢はビジネスの分野でも強く求められています。
そこでよく話題に上るのが「ダイバーシティ&インクルージョン」という言葉。人種や性別、ライフスタイルの違いなどを包括した人の多様性を尊重し活かすことを意味します。多くの人が心地よくモノを使ったり、過ごせたりできるよう設計されたユニバーサルデザイン(UD)は、多様性への配慮の典型ですね。モリサワのフォントも対応しています。さらには、障がいのある人の特性を理解して、もっと広い意味でのユニバーサルな設計に生かそうとする「アクセシビリティ」を大切にする機運が高まっています。
多様性を意識した企業コミュニケーションを実践するには、どのような考えや働きかけが必要なのでしょうか。富士通では、障がいのある社員が以前より当事者の視点を交えて製品・サービスの開発などに携わっています。アクセシビリティに対する取り組みをお聞きしました。

■お話を聞いた人
富士通株式会社
グローバルマーケティング本部 コーポレートマーケティング統括部
高橋 将さん(左)
土屋 由美さん(右)
松田 善機さん(中央)


2.富士通のアクセシビリティ活動

ブランドガイドラインで配慮への理解を深める

―まずは、デザインやフォントに関するお話から聞かせてください。新しいブランドガイドラインには、アクセシビリティへの規定が含まれているのですか。

土屋 はい、「アクセシビリティ」という独立したセクションを用意し、そこでアクセシビリティやインクルーシブデザインが重要な理由を説明しています。また、色や文字、フォントを中心に、ガイドライン全体を通して常にアクセシビリティを根底に考え、規定を設けています。
新しく設定したビジュアルアイデンティティは、以前と比べ鮮やかな色調に変わりました。そのため、色覚の多様性に配慮し、さまざまな方にとって文字が読みにくくならないよう文字色はそれぞれの背景色によって黒または白のどちらかに指定しています。

ウェブコンテンツのアクセシビリティに関する国際的なガイドラインをベースに文字色と背景色の組み合わせを定め、多くの人が読みやすくなるよう考慮している。

―プライマリーカラーと文字色を正しく使いこなすのは、覚えるまで大変そうですね。

土屋 そうした社員の声に対応するのに、富士通専用のアドインツールをパワーポイントに用意しました。独自のデザインテンプレートのカラーパレットを開き、使う色を選べば、自動的に使える文字色が選択されるようになっています。

富士通専用のアドインツール「Fujitsu Standard Tool (F_Tool)」

―これは便利ですね。このツールを使うだけでアクセシビリティに対処しているわけですね。

土屋 そうですね。そのほか、グラフを使用する際には、色分けだけでなく引き出し線で項目名を入れるなどさまざまな色覚の多様性に配慮するよう、ガイドラインに記載しています。
社内向けの教育コンテンツとしてE-ラーニングも提供していますし、何か迷った際にはブランドワークルームに問い合わせることができる体制としています。

高橋 文字を強調したいときに赤い文字を使ってしまいがちですが、色覚の特性によっては、赤色は黒色よりもむしろ目立たなく見えてしまう場合があります。社内向けの教育コンテンツでは、赤色がどんな色に見えるかのシミュレーションの画像を入れて理解を深めてもらっています。
そもそも、色を多用しすぎると、強調したい内容が分かりづらい”資料あるある”につながりますので、色数を絞ることで整理した情報を発信したいという意図もあります。

―スライドのレイアウト名にも色名を入れているのですね。

土屋 資料を作成する際に、既存の資料をベースにつなぎ合わせることがあると思いますが、異なるカラーのスライドを組み合わせても、それが何色のテンプレートを使用しているかが分かるように配慮しています。

色覚の多様性に配慮したガイドラインやツールの整備を行なっている。

―フォントのサイズは規定があるのですか。

土屋 コーポレートフォントを基準に見出しと本文でポイントやウエイトを規定しています。冊子を前提にしたデザインフォーマットを用意しています。

フォントの色や情報の階層分け、サイズ、ウエイトについてサンプルで示している。

―User’s Voiceでは、新コーポレートフォントについてお話を伺いました。フォント選定においても、アクセシビリティやディスレクシアへの配慮にこだわられた点が印象的でした。

土屋 欧文フォントのアレンジにおいては、以前より交流のあった、北陸大学国際コミュニケーション学部心理社会学科の河野俊寛教授にアドバイスをいただきました。和文フォントは、モリサワが大学との研究で発表されているエビデンスを参考にさせていただきました。採用したモリサワのUD新ゴは、新しい欧文フォントとの親和性が高く、社会で使われている実績があり、研究機関など第三者の評価も得ている点を評価したかたちです。


日本での字幕付与率は15%から100%に!

―ブランドガイドラインでは、アクセシビリティの観点で、フォントのほかにどのようなことを規定しているのですか。

高橋 動画のテロップ(字幕付与)について記載しています。コロナ禍でオンラインによるコミュニケーションが増加したこともあって動画の活用も増えました。富士通では「Fujitsu ActivateNow(富士通 アクティベートナウ)」という国際的なイベントを毎年、実施しています。動画コンテンツを多用しているのも特色ですが、以前は15%の字幕付与率が、2021年は日本で100%、海外でも80.4%まで高まりました。

松田 字幕は、音声オフで動画を見ている人と聴覚障がい者、日本と海外の方などさまざまなシチュエーションを意識し、表示する文字数や秒数だけでなく、読みやすさや表現に配慮しガイドラインで示しています。こちらのコンセプトムービーも同様に配慮し、こうした字幕の有無を選択できるかたちで動画を提供しています。


「動画アクセシビリティガイドライン」から一部抜粋。
字幕表記の基本ルールを詳細に設定している。


字幕を交えた富士通の時田隆仁社長の動画によるプレゼンテーションの一部


障がいのある当事者の声も反映した活動に

―2020年には新たなパーパス、「わたしたちのパーパスは、イノベーションによって社会に信頼をもたらし、世界をより持続可能にしていくことです」が策定されたと伺いました。その後、社員の方々の意識の変化はありましたか。

高橋 グローバルでのビジネス展開を考えると、ますます社内外の多様な方々とのコミュニケーションが大切だと感じています。特に2020年にパーパスを策定してからは、”自分達から変わらないといけないよね”といった空気が社内で広がっています。

―富士通のアクセシビリティへのこだわりについてお聞きします。そもそも、スタート地点はどのあたりにあるのでしょうか。

土屋 富士通では、従来からATMや携帯電話、パソコンなど公共で使用されるハードやソフトも多く、あらゆる場面であらゆる人に使いやすいユーザビリティが求められてきました。
単純にキーが押しやすいといったヒューマンセントリックなデザインはもちろん、高齢者向けのスマートフォンとして音声読み上げ機能を開発するなどユニバーサルな製品づくりが底辺にありました。

―なるほど。コミュニケーションの分野に関しては、いかがですか。

土屋 ウェブコンテンツのアクセシビリティ活動が黎明期に当たります。2002年には、The W3C Web Accessibility Initiative (WAI)のWeb Content Accessibility Guidelines1.0 (WCAG 1.0)や米国リハビリテーション法508条など、既存の基準、ガイドライン等との整合性を重視した、「富士通ウェブ・アクセシビリティ指針」を策定しました。以降、10年ほど、自社のウェブページをはじめ、割と積極的に活動してきたと思います。

高橋 SDGsの広がりとともに社会全体が多様性を重視する傾向が強まり、富士通のパーパスの策定につながります。

―聴覚障がいのある松田さんは、社会の変化についてどのように感じていますか。

松田 2016年に障害者差別解消法が制定され、社会にあるバリアを取り除いていこうという配慮が事業者にも求められるようになりました。富士通がパートナーを務めた、東京2020オリンピック・パラリンピックの一環として、国を挙げた「心のバリアフリー」*5運動も盛んになり、私たちのような当事者の思いや意見も届きやすくなったと思います。
障がいのある人もそれぞれで、社会での困りごとも違います。たくさんの当事者の声が、富士通のアクセシビリティ活動に反映していけばよいなと思っています。

―事業面でも成果は表れていますか。
松田 いま、このインタビューでも用いている「LiveTalk(ライブトーク)」*6は、私も開発に携わりました。人の声を音声認識し、即座に画面上に文字で表示するソフトウェアで、46の言語の自動翻訳機能もあります。私のように聴覚に障がいがある人や多様な国籍の人とのスムーズなコミュニケーションを助けてくれます。
その他、振動と光によって音の特徴を伝える「Ontenna(オンテナ)」は、ヘアピンのように髪の毛に装着するユーザインタフェースで、聴覚障がい者と健聴者が共に音楽やスポーツを楽しむことができます。

高橋 障がいのある当事者起点のICTによる研究開発は、これまでも富士通として取り組んできた分野です。重度の弱視のメンバーの声を携帯電話のカメラ機能と音声読み上げ機能を使った色を調べるソフトウェアの開発に活かしたり、発達障がいのある人の感覚過敏をVRで疑似体験するといったプロジェクトが生まれています。

松田さんも開発に携わったLiveTalkでの当日の取材風景。日本語認識と同時に翻訳も可能。

*5 「心のバリアフリー」について
様々な心身の特性や考え方を持つすべての人々が、相互に理解を深めようとコミュニケーションをとり、支え合うこと。2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会を契機として、共生社会の実現に向け内閣官房が推進した。

*6 Fujitsu Software LiveTalkについて
総務省の「デジタルディバイド解消に向けた技術等研究開発」(2013年~2015)でLiveTalkを開発、商品化。現在まで改良を重ね、今は多くの顧客に聴覚障害者だけでなく外国語話者と翻訳を用いリアルタイムな会話をサポートするなどダイバーシティ・コミュニケーションツールとして利用されている。また、LiveTalkをWindows10以降で動作させるとモリサワのUD デジタル教科書体を使うように設定。ディスレクシアの方々など、文字がリアルタイムに流れるときの読みやすさにこだわり、UDデジタル教科書体を選定した。
2015年度グッドデザイン賞「グッドデザイン・ベスト100」受賞

―マスク姿が標準となったコロナ禍で、聴覚障がいのある方にとっては、口の動きが見えず、コミュニケーションを取りにくいという話を耳にすることがあります。そうした際「LiveTalk(ライブトーク)」は活躍してくれそうですね。

松田 そうですね。翻訳機能もあるため海外の方とも意思疎通ができ、とても助かっています。アクセシビリティ活動を通じて、さまざまな障がいへの理解が深まれば、富士通での新たなコミュニケーションツールの開発につながり、それによって社会での多様性が豊かになっていくことを希望しています。

―本日は、貴重なお話をいただき、ありがとうございました。


3.おわりに

ダイバーシティを標榜する日本企業がだんだんと増えてきているように思えます。ただ、広告やウェブ、ドキュメントなどでのコミュニケーションで実践するには、社内での意識の高まりと実践的なルールづくりの両輪が必要なのだと、インタビューを通じて感じました。
特にアクセシビリティに関しては、松田さんのような当事者の視点や思いをどこまで投影できるかが大きなポイントと言えそうです。フォントを活用する際にもヒントになるお話でした。

今回お伺いした富士通のCorporate Brand Identity Systemは
「iF DESIGN AWARD 2022」を受賞

富士通のパーパス


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書体:解ミン月
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