見出し画像

Chatworkのリブランディングで生まれたコーポレートフォント『Chatwork Sans』の開発ストーリー

突然ですが、コーポレートフォントを制定するプロセスをご存知でしょうか?難しそう?時間も費用もかかりそう?そもそもどうやって決めるの?さまざまな疑問をお持ちの方もいるかも知れません。
既存のフォントをコーポレートフォントに指定するケースもあれば、ゼロから新たにフォントを作るケース、既存のフォントをベースにカスタマイズして開発するケースもあります。
今回は、ビジネスチャット「Chatwork」を提供するChatwork株式会社の企業のリブランディングに際し、コーポレートフォントの制作をモリサワがお手伝したお話です。
同社のみなさまに、コーポレートフォントができるまでのストーリーを伺いました。

■お話を聞いた人
Chatwork 株式会社
ピープル&ブランド本部 BX部 クリエイティブチーム
リーダー 新免タカノリさん(写真中央)
小野寺 愛 さん(写真左)
一戸 等 さん(写真右)



1. Chatworkの目指す世界観や働き方に共感してもらう

ー 会社では、どんなお仕事をされているのですか?
新免 Chatwork株式会社は、メールや電話、会議・訪問など仕事で必要なコミュニケーションをより効率的にする中小企業向けビジネスチャット「Chatwork」を提供しています。私は、ピープル&ブランド本部のBX(ブランドエクスペリエンス)部に所属しています。クリエイティブチームのチームリーダーとして、ブランドに関わる制作物全体を統括するとともに、プロジェクトの進捗確認などのマネジメントを行っています。

小野寺 主に会社のブランディング開発を行っています。全社総会などの社内向けインナーコンテンツのデザインや、新しい社外向けコンテンツのLP(ランディングページ)制作を手掛けています。

一戸 新免、小野寺と同じくBX部のクリエイティブチームに所属し、デザイナーを務めています。主に、ブランディングのサポートやインナーコミュニケーション、カルチャーブックなどの印刷物をはじめ幅広く担当しています。

ー 2021年の8月にサービスのリブランディングを発表しました。どういった想いからブランドを刷新されたのでしょうか。
新免 一言でいえば、「Chatworkの目指す世界観に共感してもらい、選ばれるサービスにしたい」という想いです。当社がビジネスチャットをリリースしたのは2011年3月のこと。発表当時はサービスの先進性や使い勝手から、多くのユーザー様にご支持をいただきました。
しかし、さまざまな競合サービスが増えてきた昨今は、機能や価格面だけでは選ばれにくくなっていると感じ始めたのです。この間、社員数も大幅に増え、社外への情報発信も増えてきました。
ブランドの一貫性を保ちながら、ユーザーの皆様に当社のサービスを選んでいただくためには、ブランドに関する確固とした軸が不可欠だと考えました。そこから、Chatworkの目指す世界観や働き方に共感してもらうべく、新たなブランド戦略を練っていきました。

2. 約20種類のフォントをピックアップして検証

ー 新たなブランドを確立するために、どのくらいの期間がかかったのですか。
小野寺 プロジェクトがスタートしてから発表するまで、8カ月くらいの時間がかかりました。社内にブランディング開発の知見も少なかったため、社外のブランド戦略の専門会社と協同し、プロジェクトを進めていきました。
私たちの中では、それぞれのChatworkの世界観らしきものを認識していましたが、これを具現化していくことは、非常に難しいものがありました。
最終的なデザインコンセプトは、Chatworkがユーザー1人ひとりにフォーカスし、創造的な働き方を提供するという意味を込めた「Focus & Create Your Vision」と決定しました。

ー リブランディングに合わせ、コーポレートフォントの選定も検討されたそうですね。
新免 当社では、これまでモリサワの「UD新ゴNT」のほか、英字は古典的サンセリフ書体を基本とし、Webサイトにも UD新ゴNT をWebフォントで使っていました。UD新ゴNT を選んだ理由は、丸みを帯びているChatworkのロゴとの相性やフォントとしての視認性の高さなどです。
その一方で、使用するシーンによっては必ずしもベストではないという声もありましたので、フォントの変更も含めた検証に取り掛かりました。

小野寺 社名ロゴとの親和性の観点から約20種類のフォントをピックアップし、会社がよく使うキャッチコピーを当てはめて見え方を検証しましたが、なかなか私たちのイメージにピッタリ合うものはありませんでした。検証を通じて、新フォントのイメージがより固まっていったものの、それに合うフォントに巡り合えずにいました。


3. 既存フォントを利用したカスタマイズフォント

このような課題に対して、モリサワはどのようなソリューションを提案したのでしょうか。当社のChatwork様担当営業の吉野氏と『Chatwork Sans』制作に携わったタイプデザイナーの榛葉氏にも話を聞いてみました。

『Chatwork Sans』組み見本

ー フォントの完成まで、どんなフローで進められたのでしょうか?
吉野 ChatworkさんはこれまでUD新ゴNTをお使いいただいていた中でのリブランディングということで、新しいタイプフェイスへの具体的なイメージをお持ちだったことが印象的でした。
今回は限られた時間で最大の効果を発揮すべく、既存フォントのカスタマイズをすることで理想のコーポレートフォント制作を目指すことになりました。
コーポレートフォント完成までのおおまかな流れとしては、はじめにChatworkさんがコーポレートフォントに求めるイメージや要望をヒアリングしました。
「ゴシック体」「和文欧文の印象」「Webで多用したい」「ロゴとの相性」等お聞きした上で、和文と欧文フォントを数種類ご提案しました。この際に、文字のカスタマイズができることや、和文と欧文フォントをひとつに合成することも提案の中に加えました。社名がアルファベットであるため、ニーズを感じたためです。
Chatworkさんにてベースとなるフォントを選定いただき、和文と欧文を合成するため、太さや混植比率のマッチングを調整しました。次に一部の文字をカスタマイズするにあたり複数のサンプルを作成し、Chatworkさんの意見を伺いながら最終的なデザインを決定しました。

ー カスタムフォント制作のポイントを教えてください。
榛葉 
一番難しかったのは和欧混植の設計です。それぞれ別々に開発された和文と欧文を合成する必要があったのですが、フォントが使用される環境や用途によって最適な混植比率は変わってきます。今回のコーポレートフォントでは主にコーポレートサイトで本文から見出しまで幅広くお使いになるということでL, R, B, EBの4ウエイトをご用意しました。細いウェイトは文章や長めのキャプションが組めるように和文と欧文の大きさの差を少なく、一方で太いウェイトは大きなサイズでの利用を想定して欧文をやや大きめに設計してコピーや見出しでまとまり感が出るように気をつけました。

和文と欧文のサイズとバランスをウエイトごとに調整

ー デザインのカスタマイズについてはどのような工夫があったのでしょうか?
榛葉 Chatworkさんからのご要望で、アルファベットの「a」と数字の「1」「7」の合計3文字のデザイン改変を行いました。まず「a」についてはロゴデザインにあわせて、double-storey(2階建て)からsingle-storey(1階建て)へと変更しました。

「1」「a」「7」も企業ロゴとマッチしたデザインに変更



数字の「7」についてはChatworkさんからいくつかデザインパターンを見たいというご要望を頂き、最終的には3種類をご提案し現在のデザインに決定したのですが、実は社内では5種類作成していました。自社製品の制作だと数字のデザインだけでここまで多くのバリエーションを検討することはあまりないので、私自身も多くの気づきがありました。

数字「7」は社内にて5種類検討


ー 最終的に選定されたフォントはどのような特徴なのでしょうか?

吉野 和文は2021年にリリースされたばかりの「あおとゴシック」、欧文は幾何学的で明るい印象を持つサンセリフがベースとなっています。あおとゴシックはWebサイトをはじめ主にオンスクリーン利用を想定したややモダンでこぶりな、モダンゴシック体です。
これまでChatworkさんで使用されていたUD新ゴNTと比べ、より長文組版に最適化されていることもあり、様々なコンテンツを一貫してオンラインで展開される用途に合致したのではと考えています。
欧文はジオメトリックサンセリフと呼ばれるジャンルで、Chatworkさんのロゴともテイストが近いことが採用の決め手となりました。ロゴタイプとコーポレートフォントに統一感をもたせることで発信されるメッセージのトーンにも一貫性が生まれます。

完成したコーポレートフォント『Chatwork Sans』

新免 書体デザインがおおよそ完成した際にフォントの名前はどうしようという話になり、①Chatworkの名を冠する、②呼びやすさを重視する――などの条件に当てはまる『Chatwork Sans』と命名しました。

一戸
 社内でも、自社の名前を冠したフォントが使用できるとあって、盛り上がりました。新フォントは、程よく字面が空いており、文字の癖も感じません。フォント自体にかっこよさがあり、Chatworkのブランドイメージに非常にマッチしていると思います。

新免 当社の社名は「Chatwork株式会社」で英語と日本語が混ざっています。実務上、それぞれをバラバラで使用するのは大変だし、1つのフォントで運用できる利便性と、Webフォントとして使用できる点も、選定にいたった理由です。完全オリジナルでフォントを制作するとコストも時間もかかると聞きましたが、既存フォントのカスタマイズなら、これらを抑えながらオリジナリティも加えたフォントが制作できることを実感しました。


4. オリジナルのコーポレートフォントでブランド力向上へ

ー 新しいフォントは、どのようなものに使われていきますか。
一戸 Webサイトや印刷物、またその他の制作物、ほとんどすべてのプロダクトに『Chatwork Sans』を使用していく予定です。従業員向けに、社内のミッション・ビジョン・バリューなどをより深く理解してもらうために、カルチャーブックを作成していますが、こちらにも『Chatwork Sans』を使用しています。

カルチャーブックにも『Chatwork Sans』を使用
「Chatwork_ブランドサイト」こちらでもWebフォントで『Chatwork Sans』を利用

新免 まずは、日本の製品サイトやコーポレートサイトに新フォントを反映し、フォントの統一に取り組んでいきたいと思います。製品サイトやコーポレートサイトはWebフォントを採用しているので、閲覧するデバイスに依存せず、『Chatwork Sans』で表示することができます。

小野寺 時間をかけてChatworkのブランディングを固めましたので、今後は、社内への浸透に努めていきたいと思います。社内でアセット制作を担当していますが、まだ反映しきれていない媒体も少なくないため、そこも更新
し、Chatworkサービスのブランド向上に取り組んでいきたいと思います。


企業が目指す世界観をデザインやフォントを通じて表現することの難しさを知ったと同時に、Chatworkの担当者の皆様のユーザーへの強い想いを感じる取材になりました。ありがとうございました。


モリサワ×Chatworkコラボキャンペーン

オリジナルフォントのお披露目を記念し、2022年7月27日(水)〜2022年8月19日(金)の期間、モリサワ公式Twitterにてフォロー&リツイートキャンペーンを開催中です。
※キャンペーンは終了いたしました。たくさんのご応募ありがとうございました。

詳細はこちらの画像をクリックください

「Chatwork」サービスサイト

「Chatwork」ブランドサイト

「Chatwork」 note


※掲載されている情報は2022年7月時点のものです。