文字の魅力よ伝われ!異色のコラボレーション Vaundy × Morisawa Fonts 「置き手紙」 MV制作裏話
2022年11月28日16時、Vaundyさんの「置き手紙」のミュージックビデオ(以下、MV)が公開されました。書体見本帳を軸に物語が展開していく、その名も「Font Specimen Music Video」。
百聞は一見にしかずということで、まずはこちらをご覧ください。
サムネイルからもわかるように、どのシーンからも溢れ出そうな文字、文字、文字……!そう!!文字が主役のMVになっているんです!!(つい気持ちが盛り上がってしまいました、失礼しました。)
今をときめくVaundyさんの楽曲が素晴らしいのは言わずもがなですが、ぜひとも注目していただきたいのがアナログとデジタルが融合した文字表現。
この記事では、MV制作の背景をはじめ、ここでしか見られない小道具のご紹介などの裏話をお届けしたいと思います。
モリサワを知らない人にこそ、文字の魅力を知って欲しい
この企画が動き出したのは、遡ること1年半前。モリサワのフォントのサブスクリプションサービス「MORISAWA PASSPORT」の後継サービスである「Morisawa Fonts」のプロモーションをWhateverさんにお願いしたことがきっかけでした。
モリサワnoteの読者のみなさんは、少なからず文字のデザインに興味を持ってくださっていると思うのですが、まだまだ一般的にはニッチな分野だと思います。
しかし、書体はあらゆる制作物のクオリティを大きく左右する重要な要素であり、書体から生まれるインスピレーションは、どんな表現手法であっても制限はありません。そしてそれは日常に溶け込み人々の生活や心を豊かにします。
モリサワのことは知らなくても、まずは文字の可能性を、文字の魅力をもっと多くの人に知っていただきたい。そのためにはどんな表現やアプローチができるだろうか……。そんな思いを形にしていただいたのがこのMVでした。
MVにあふれる文字をみて「なんかいいな……」と思ってもらえたら、ぜひこの後に続く記事や書体見本ページなどものぞいてみていただけたら嬉しいなと思います。
歌詞を彩るフォントたち
使われている書体、その数なんと!
突然ですが問題です。歌詞で使われた書体は全部でいくつだと思いますか?
(背景などに使われている書体を含めると膨大なので、今回は歌詞に絞ってカウントしてみてください。)
正解は、77書体!
「フォントは声色である」とたとえられることがありますが、今回のMVではまさに、歌詞の意味やVaundyさんの多彩な歌い方にあった書体を、選定いただきました。そしてそのすべてのフォントを、クラウド型フォントサービス「Morisawa Fonts」でご提供しています。
フォントをひとつずつ解説していくのは野暮なので、印象的に使われているシーンをピックアップしたいと思います。
ちなみに……特設サイト内の「Lyrics」では、タイピングされているような演出で歌詞書体を確認することができます。ぜひご覧ください!
サビの書体、見破れましたか?
サビに「言っちゃいな」というフレーズがあるのですが、最初のサビでは何書体が使われているでしょうか!
なんとこの1フレーズで、合計14書体もでてきているんです。
当初サビ部分は1書体のみで表現する予定だったのですが、制作を進めていく中で、たくさんの書体を使うこの案になりました。
曲の盛り上がり・スピード感や、Vaundyさんの力強い歌唱に合うように書体が切り替わることで、映像・音楽・文字の相乗効果がさらに高まっていますよね。
特設サイトでは1書体ずつ選んでレイアウトしているので、こちらを公式の答え合わせとさせていただきます!MVをコマ送りし、目を凝らして確認して見てみてください(笑)。
また、2回目の同フレーズのサビではまた別の書体が使われており、全15書体で構成しています。こちらもぜひ推理のうえ、コメントいただけたら嬉しいです。
こだわりが詰まった、新しい文字表現
美術スタッフのプロ魂
特設サイトでのインタビューで、牧野監督はこうおっしゃっていました。
文字をバラバラにして撮影とは、一体どういういうことなのか?!
本編02:11〜の歌詞を例にとってみてみましょう。
例えば最初の「ゆるい」というフレーズには「霞白藤」という書体が使われていて、こんなところでバラバラになっていました。
普段書体を作っている身としては書き順を意識してしまうのが性なのですが、こんな風に組み合わせて表現ができるのだ、と目から鱗でした。
書き順もさることながら、驚いたのはそのアウトラインの綺麗さ。デジタル上で編集しているのでは?!と思うほどなめらかで、美術スタッフの方のプロ魂を感じます。
なめらかさにたいそう感動していたのですが、こんなものではありません。02:15〜の「絡み暖かい」にいたっては「秀英にじみ角ゴシック金」が使われています!!何がすごいのか。そう、書体名にある通り「にじんで」います。ということは、アウトラインが真っ直ぐではない!!(興奮気味)
活版印刷による紙面上のインクのにじみ、すなわちアナログならではの表現が、フォントとしてデジタル化され、それがさらに印刷されてアナログに切り出され、さらにさらにデジタルに取り込んで映像化する。
MV全体を通しての「アナログとデジタルの融合」という魅力がよく表れているシーンのひとつですね。
やっぱり王道です、MV内の書籍も要チェック!
書籍と文字、というのは王道の組み合わせだと思いますが、冒頭の「置き手紙」という楽曲タイトルが印字された書籍もインパクトがありました。
和文は「A1明朝」、欧文は「Pietro Display Pro」で組まれています。
映像だと少し分かりづらいのですが、実は箔押し(箔を熱と版を使って紙に圧着、転写させる特殊加工)になっているというこだわりっぷり。たまりません。
「Pietro Display Pro」は2022年の新書体でして、MV内では他にもいくつか2022年の新書体が登場します。noteでも新書体を取り上げているのと、新書体特設サイトも公開していますので、合わせてご覧ください。
ちなみに、実写の世界で出てくる様々な書籍(架空のタイトルです)の背表紙にも全てモリサワのフォントが使われているのでここにも注目してみてくださいね!細かいところまで文字で溢れた作品になっていることを、感じていただけるかと思います◎
文字好きの心がくすぐられる、あのシーン
ここからは細かい話になるのですが、ぜひともご紹介したいシーンをちょこっとだけ取り上げたいと思います!
紙質が絶妙に違うしおり
MVの後半で、しおりにのって主人公たちが登場するシーンがありました。
実物をよく見てみると……
なんと、使っている紙がそれぞれ違うんです!
一瞬しか映らないような細部にまでこだわっているからこそ、このような圧巻のMVができるのだなと改めて感じる1枚でした。
手にとるともっと感動するので、ぜひとも公式でグッズ化していただけたら……(笑)。
粋なフォントクレジット
映像などのクレジットタイトルにはキャストや制作陣の情報が出ると思いますが、このMVではフォントもクレジットされています。
フォントは、あくまで写真やイラストなどと合わせる素材の1つであることが大半です。しかし今回はMVの中でフォントがたちがキャスト・登場人物のように躍動していたこともあり、このような粋な演出をしていただきました。
我が子のように育ててきた書体もあったので、出来上がったクレジットを初めて見たときは、誇らしい気持ちでいっぱいになったのを覚えています。
また、改めて書体名を見てみると「リュウミン」や「ゴシックMB101」などのスタンダードな書体から「くろまめ」や「ココン」などの2022年新書体を含むデザイン書体まで、色々なジャンルの書体が使われていることがわかります。MVをみて気になる書体があれば、ぜひ特設サイトなどからアクセスしてみてくださいね!
あとがき
演出素材のこだわりを知るたびに見返したくなり、記事の執筆中何回再生したかわかりません。MV制作期間中は、思わず楽曲を口ずさみそうになりハッとする(当時は未発表曲だったので)というのが何度もありました(笑)。
「モリサワのことは知らなくても、文字の魅力を知って欲しい」と言いましたが、少しでも文字に興味をもってくれるだけでも嬉しいですし、もし!このMVを通して創作意欲がわき、その創作をフォントでお手伝いできたなら、もっと嬉しく思います。
これからも、いち文字好きの心を忘れずに記事を更新していきたいと思いますので、応援&スキ♡よろしくお願いします!(担当:M)