ケーススタディで見る!字形を正しく表示させるために大事な3つのポイント
「自分はちゃんと伝えたはずなのに、相手には正しく伝わっていなかった……」
そんなちょっとしたすれ違いからトラブルになる、なんてことは誰しも経験があると思います。
文字の世界でもそれは同じ。
手書きなら「書き間違い」や「字の形の癖」などで間違って伝わることがありますが、PCをはじめとした電子機器で文字を扱うことが多い昨今、
「同じ内容を見ているはずなのに、なぜか自分と相手で表示されている文字の形が違う……」
ということが起こりえます。
これは怪奇現象?システムトラブル?
いいえ。これは、PCで文字を扱う「仕組み」が関係しています。
PCで文字を扱う仕組みって何……?と追求していくと、アマゾンの奥地のごとく深い専門的なところまでたどり着いてしまうのがこの分野。
ひとまずこの記事で、具体的なトラブル例を見ながらざっくり理解し、つまずきやすいポイントを押さえましょう!
ケース①:テキストデータをやりとりした時
Aさんはテキストエディタで原稿を作成しました。
Bさんにテキストを送付し、確認してもらいました。
ところが、Bさんの環境ではこう見えていました。
Bさんから「人名や地名の漢字が違うんだけど……」と指摘が入りましたが、Aさんの画面では正しく表示されていて、困ってしまいました。
なぜかというと……フォントが違う!
さて、画像を見て「フォントが違う?」と思った方はご名答。
Aさんの環境では「リュウミン Pr6」が設定されていますが、Bさんの環境では「MS明朝」で表示されています。
まず1つ目のポイントは、
「フォントが違うと字形が変わる可能性がある」ということです。
以前フォントの名前の解説記事でも少し触れましたが、そのフォントが沿っている規格によって、最初にでてくる漢字の形が一部違います。
文の意味としては変わっていないものの、人名などの固有名詞で漢字の間違いが起こるのは避けたいですよね。
今回の例では分かりやすいように、フォント自体を違うものにして比較をしましたが、同じ書体名のフォントでも沿っている規格が違うと出てくる文字の形が一部異なります。
同じリュウミンでも「Pr6」と「Pr6N」では出てくる漢字が一部違う、というわけです。
文字の規格の見分け方を詳しく知りたい方は以下記事もチェック!
少し専門的なところに踏み込むと……
PCの中では、文字は「文字コード」として扱われます。これは文字の背番号みたいなもので、それぞれの文字に番号が付いています。
しかし実は、すべての文字に固有の背番号があるわけではありません。
例えば先ほどの「葛」「鰯」「飴」など、意味が同じで形のバリエーションがある漢字類(異体字、と呼びます)は同じ背番号が振られてしまっています。
この「同じ背番号が振られている」状態を「包摂」といって、文字コード上では同じ文字としてまとめて扱われています。
「包摂」が起こる文字については、文字コード上で形の区別をすることができず、何か指定がない限りはそのフォントが最初に出す形が表示されてしまう……という仕組みです。
よって、テキストなどの文字データをやりとりするときは
・自分と相手が同じフォントを使って表示ができるか?
・フォントが沿っている規格が同じかどうか?
を確認することが大事になってきます。
補足:これは日本語に限った話ではありません。
日本語や中国語では、一部の文字の形が微妙に異なりますが、同じ文字コードが振られてしまっているものがあります。
よってこのように同じ文や単語でも、中国語フォントを使って表示させた場合は漢字の形が微妙に異なってしまいます。
もっとも、日本語を入力するときは日本語のフォントを使う必要がありますが……
文字コードについてもっと詳しく知りたい方は、ぜひ以前のnote記事も見てくださいね!
ケース②:昔のデータを引っ張り出してきた時
データをやりとりするとき、同じフォントであればOKと学んだAさん。
昔の原稿が必要になり、Windows XP時代に使っていたテキストデータを掘り起こしました。
これは当時からMSゴシックで作成されていたので、自分のWindows11でもMSゴシックを使用し開きました。
「よしよし、フォントが同じならトラブルは回避できるぞ……」
しかし、昔のデータと見比べてみるとまたもや漢字が変わっていることが分かりました。
「フォントが同じなのに、どうしてまた漢字が変わってしまったの?」
なぜかというと……使用OSが違う!
ここでポイントになってくるのが「使っているOS」です。
保証期間が大昔に切れたXPがなぜAさんの手元にあるのか、システムセキュリティ的に甘いんじゃないか、といったツッコミは一旦置いておいて……。
MS明朝やMSゴシックなどOSの標準フォントは、過去のバージョンと今のバージョンで「フォントが沿っている規格」が違います。
ただややこしいことに、変更前と後で標準フォントの名前が「同じ」です。
Pr6とPr6Nのようにフォントの名前で変化が分かれば良いのですが、見た目だけでは区別がつきません。
よって、2つ目のポイントとして
「昔のデータを使いまわす」かつ「OSの標準フォントを使っている」
といった場合は、最新のOSで開くと字形が変わって表示される可能性があるので注意が必要です。
字形変更後のOSが出た当時、世間(特に印刷業界)は大混乱を極めました。
このあたりの詳しいことを知りたい方は以下もご覧ください。
ケース③:ソフトウェア上での見え方
字形はフォントによって異なる、昔のテキストデータにも気を付ける……と学んだAさん。
ある日、先輩から引き継いだInDesignデータを編集していたら不可解なことに気が付きました。
「この部分、フォントはPr6Nのものを選んでいるはずなのに、なんでJIS90字形が表示されているんだ……?」
「N」が付いている規格のフォントは最初にJIS2004字形が表示されるはずですが、他のN付きフォントに変更してみても、字形は依然としてJIS90のままです。
なぜかというと……ソフトウェアの設定が違う!
3つ目のポイントは「ソフトウェアの設定」が関係します。
Aさんが操作しているAdobe InDesignは「異体字の字形指定」ができるソフトです。
文字コード上では異体字の区別がつけられない、と先ほど書きましたが、実は文字コードとは別に、フォント自身で「字形の管理番号」を持っています。
InDesign上では、そのフォントの管理番号を使って1文字ずつ区別して使えるようになっていて、今回のケースでは「JIS90の字形」を呼び出す設定がされている……というわけです。
段落スタイルの中を見てみると、異体字の項目が「JIS90字形」に設定されていました。
このように、ソフトウェアの設定で字形が指定できる場合もあります。
InDesignやIllustratorでは、段落スタイルでの指定以外にも「字形パネル」などを使って異体字を呼び出すことができます。
いかがでしたでしょうか。
お読みいただいた3つのケースのように、「同じ文章データであれば文字の形も同じ」とは限りません。
フォントやOS、ソフトウェアの設定が異なっていたりすると、出てくる字形が変わってしまうことがあります。
少し専門的な話も挟まって、文字コードの深淵を覗くような気持ちになったかもしれません。しかし、文字コードもまたこちらを覗いているが如く、コンピューター上で文字を扱ううえでは避けて通れない内容です。
大事なポイントを押さえ、制作上のトラブルを回避していきましょう。
それではまた次回!