知っていると便利な和欧混植アイデア集 〜定番から個性的な組み合わせまで〜
この度、モリサワは公式 Pinterestを開設しました!
新書体などフォントの紹介やデザインのTipsなどを発信して、みなさんの制作のヒントをお届けしてまいります。
そして今回のnoteでは、Pinterestでも公開中のTips「和欧混植のアイデア」から、おすすめの8選をご紹介。
「和欧混植のアイデア」は、モリサワのタイプディレクターTさんとグラフィックデザイナーDさんが、ぜひみなさんに試してほしい和文・欧文書体の組み合わせを選定し、それを使ったデザインのサンプルを制作した特別企画です。
みなさんの制作時の参考にしていただけるように、Tさん・Dさんからの解説もインタビューしました。どうぞ併せてお読みください。
「和欧混植のアイデア」の担当者
1. セリフ書体で和欧混植 お店のロゴ編
書体の雰囲気からイメージして、お店のロゴを作ってみました。
「リュウミン」×「Pistilli Pro」のパン屋さん
― 架空のパン屋さんのロゴですが、この混植のコンセプトについて教えてください。
ディレクターのTさん 和文の明朝体と欧文のセリフ体を、見出し用の組み合わせとして選びました。どちらの書体も細い横線、太い縦線で構成されていて、繊細さと豪快さを併せ持つ書体です。
Dさんは、使ってみてどうでしたか?
デザイナーのDさん Tさんが選んだ「リュウミン」でしたが、私はこのような太いウエイト(U)を使ったことがなかったんです。でも意外とコントラストが高くて、「Pistilli Pro」のコントラストの高さに合うなと思いました。
「Pistilli Pro」については、太いウエイトなのでゴツそうに見えますが、正円の部分がコロコロしていて愛らしいなと思っていました。特に店名にした「kongari」にある、「g」「r」の文字。玉の部分と細い線の接号部分が離れていて、くるくる内巻いているように見えるところもかわいいと思います。
― なぜ、Dさんはこの混植で、「パンのお店」のロゴにしようと思ったんですか?
Dさん 骨太だけどかわいい要素を持っている「Pistilli Pro」を活かしたい…というところから連想しました。正統派で実直な美味しさを追求する真面目なイメージと、かつ海外のおしゃれさも漂う、ドイツパンのお店のロゴはどうかと思いついたんです。
ー 書体の特徴から、パンのジャンルにまでイメージが辿り着いたんですね!
混植ではなく、例えば定番書体「リュウミン」だけを使っても、近いロゴが作れるのでしょうか?
Tさん 「リュウミン」にもあらかじめ欧文がセットされていますが、あえてそれを使わずに、ニュアンスがある別の欧文書体を組み合わせることで、「ロゴ」としてのオリジナリティが向上するのではと思います。
実際に、Dさんがデザインした「kongari」という店名も、「Pistilli Pro」と「リュウミン」ではこんなに違います。
漢字も「リュウミン」の場合、金属活字由来のシャープで洗練されたハネやハライが特徴的ですが、今回のような太いウエイトだとその特徴がより際立ちます。「Pistilli Pro」のハイコントラストでシャープなセリフとは、相性がとても良いですね。
ー ロゴのデザインは、できるだけ印象強いものにしたいですよね。混植することの大きな意義がよくわかる例でした。
他の組み合わせも見ていきましょう!
「モアリア」×「LatinMO Pro」のレトロな工房
― 雰囲気のある工房のロゴですね。制作したDさんは、この混植についてどう感じましたか?
Dさん ここで使った和文の「モアリア」は、程よくクラフト感があって、ハイカラという言葉が自然と頭に浮かぶおしゃれな書体だなと思います。
実際に「モアリア」と欧文の「LatinMO Pro」を組み合わせると、絶妙に手書き感というか手作りのイメージが出て、なんだか化学反応が起きたような気持ちでした。組み合わせてみると⼀⽅の書体の雰囲気が変わるのがすごく⾯⽩かったです。
Tさん この2つの書体はどちらも、19世紀後半の様式や文化を感じる書体で、落ち着いた雰囲気の中に華やかさがありますね。
ー どうりで、レトロな香りがしますね。ロゴになった、大正時代や工房、というテーマとぴったりです。
Tさん 「モアリア」と「LatinMO Pro」は、どちらも筆のニュアンスがあるところや、楔形のうろこや打ち込み・セリフなどの構成要素が似ているので、自然とマッチしたのかもしれません。
ー 書体の個性を合わせることで、レトロなイメージの相乗効果が生まれた例ですね。シックな美しさがあって、汎用性もありそうです。
2. セリフ書体で和欧混植 海外文学編
海外の名作を題材に、タイトルやセリフの端々に和文・欧文を取り混ぜて、物語の世界観を出してみました。
「ナウ(明朝)」×「Role Slab Banner Pro」のミステリー
ー 見出しだけではなく、長い文章の混植からも、マッチした組み合わせということがよく分かりますね。
Dさん 「ナウ(明朝)」と「Role Slab Banner Pro」はどちらも、ひと癖ありそうな感じ。でも怖いというのではなく、なんだか小難しいことを考えていそうで、推理小説などに合いそうだと思って作りました。
この混植は、ぜひミステリーの小説や漫画などのタイトルに使ってほしいですし、科学実験や数学の問題集など、知性を感じさせるものにも相性がいいかもしれません。
Tさん この2書体は、和文・欧文それぞれ「横太書体」というテーマで選んだんです。
「Role Slab Banner Pro」のようなスラブセリフは、横画が太いことにより、力強さや無骨なニュアンスを出したいシーンで使われることが多いですが、その視認性の高さから新聞組版などでも使われてきたスタイルでもあります。それで、「小難しい」「知性的」という印象につながったのかもしれませんね。
一 和文の「ナウ(明朝)」も、しっかりした横太で、強い印象ですね。通常の明朝体は、横線が細いものが多いと思うのですが…。
Tさん 「ナウ(明朝)」も、視認性のために横線があえて太くデザインされていて、スラブセリフと似ているエレメント構造なんです。そのため、「Role Slab Banner Pro」と混植しやすいのだと思います。
ー 「太い横画」という、2書体の特徴が共通しているからこそ、雰囲気がさらに際立つ混植例ですね。真面目さの中に、ミステリーにふさわしい不思議な引力があるので、続きを読みたくなります。
「ちさき」 × 「Zingha Pro」の古典
ー この混植も、独特な2書体がしっかり馴染んでいる組み合わせだと思いました。
Tさん 柔らかい和文の「ちさき」と、やや無骨でエッジのある欧文の「Zingha Pro」は、真逆なエレメント構造です。それだけを見ると突飛な組み合わせかもしれないけど、「意外と合うのでは…?」と思って選びました。
Dさん 「ちさき」は横長、かつ広めの文字間を持っているので、デフォルトで入力するだけでも、何か言いたげな怪しい雰囲気が出るので好きです。
そしてこの混植は、タイトルよりも本文で使った時に、書体の親和性の高さを実感できるところがとても良いなと思っています。
「ちさき」の「に」「な」「け」などのねばっこい感じが、「Zingha Pro」の「g」の右上の跳ね上げや、「a」「c」の打ち込みの粘度の高さとマッチしているような気がします。
Tさん どちらも伝統的で、古風なスタイルをベースにしているものの、プロポーションやエレメントからは現代的なニュアンスが感じ取れる部分がマッチしているのかなと思いました。
個性的な骨格やコンセプトを持っていることも似ていますね。
「ちさき」は平体気味の形状で重⼼も少し低め、「Zingha Pro」はエックスハイト(小文字の “X” を基準とする高さのこと)がやや⾼めなスタイルなのですが、混植した際に粒がそろったようなニュアンスもあって、個人的にとても気に入ってる組み合わせです。
ー 特徴が異なるように見える書体でも、いざ組み合わせてみると意外な発見があるところも、和欧混植の興味深いポイントですね!
3. サンセリフ書体で和欧混植 メニュー編
飲食店メニューの広告をテーマに、欧文書体をポイント使いしてみました。
「ソフトゴシック」×「Role Soft Display Pro」のハンバーガー
ー どちらも、丸ゴシック体同士の組み合わせです。カジュアルで明るい、ハンバーガーのファストフード感が出てますね。
Dさん 「cheese」のイタリック部分が気に入っています。「e」の穴や「s」の隙間の狭いぷっくり膨らんだ感じが、チーズのジュワッととろけるような感じ、食品関係のデザインに欠かせないシズル感が出たと思います。
「ソフトゴシック」は四角い感じがかわいくて、親しみやすい書体のイメージがあり、「Role Soft Display Pro」は、オーソドックスな丸ゴシックなのかと思っていました。
あまり個性を主張しない書体同士だったので、制作中は色々と触って試していたのですが、「Role Soft Display Pro」のイタリックが特徴的でかわいいことに気づいて、ポップな食べ物に組み合わせたいと考えました。
Tさん この2つは「個性を主張しない」書体に見えるかもしれませんが、線の端々に注目してください。どちらも正円ではなく、ややへしゃげたようなラウンドになっているんですよ。
しっかりとした丸みのある丸ゴシックと、角アールの中間という雰囲気で、甘くなりすぎない丸みになっているのが、この「ソフトゴシック」と「Role Soft Display Pro」です。
ー 絶妙な丸みの具合から、ピリッと辛い黒胡椒のスパイシーさまでも伝わってくる気がします。
書体にこだわると、細やかな味まで表現できるんですね。
「くれたけ銘石」×「Citrine Pro」の珈琲
ー レトロ風の書体が効いて、手が込んだ昔ながらのハンドドリップ感が演出されていると思いました。
Tさん 「くれたけ銘石」と「Citrine Pro」は、どちらも歴史のあるスタイルを参考に開発された、レトロなニュアンスを持つ書体です。加えて、どちらの書体もエレメントが角丸で、滲んでいることも共通しているので、相性がとても良かったです。
Dさん 「くれたけ銘石」は、真面目でこだわりのあるお店や料理名に使われていそうなイメージがあったので、自家焙煎のコーヒーのモチーフを思いつきました。
このメニュー画像は、文字のチョイスで、二つの書体の相性の良さを強調できたのではないかなと思っています。「くれたけ銘石」の「き」の終筆と、「Citrine Pro」の「C」「e」の下部の、先端が少し広がっていくエレメントが似ているんです。
ー 確かに、親和性が高いのがよくわかります。どういう文字を並べると効果的か、という着眼点も、混植のデザインには欠かせないですね。
4. サンセリフ書体で和欧混植 番組ロゴ編
子供向け・食べ歩きルポなど…遊び心を加えつつ、架空のテレビ番組のロゴを作ってみました。
「プフ ピクニック」×「Backflip Pro」の子ども向け番組
ー ほんわかと、コロコロした感じが、難しい内容もとっつきやすくなる子ども向けの教育番組風ロゴです。
Dさん 元々、二つは同じ書体なのかと思うくらい、馴染んでますよね。
「プフ ピクニック」は、動きがあって元気でかわいいイメージ。それと「Backflip Pro」も、それぞれのパーツが末広がりだったり、ぷくぷくと動きのある感じがマッチしたのかもしれません。
Tさん どちらも軽快で遊び心を感じる書体ですよね。
「プフ ピクニック」は絶妙な骨格のバランスで楽しさを演出しているし、「Backflip Pro」のリバースコントラストな設計もユニークです。リバースコントラストとは、太くなる部分と細くなる部分が普通とは逆の関係になっていることを指しますが、躍動的で、新鮮な表情を演出してくれます。
あと、私は「備えあれば憂いnothing!」という、Dさんが作ってくれた高度なダジャレの混植がお気に入りです。
Dさん そこに注目してくれたんですね(笑)。
― 書体の個性がお互いに響きあって、急なダジャレも可愛らしさで許せてしまいます…。遊び心がある書体の混植も魅力的ですね!
「プフ ホリデー」×「Rocio Pro」でぶらり食レポ
― 欧文の「Rocio Pro」 は、スワッシュ(※)の機能がある書体です。どちらもペン字みたいな雰囲気の書体で、緩い休日に見たいような楽しい番組ロゴですね。
Dさん 大阪の「大」の字も「Rocio Pro」に寄せて加工して、スワッシュの可愛さをうまく取り入れた表現ができたかなと思います。
「プフ ホリデー」はゆるりと丸くて、あまり主張の強い文字ではないと思いますが、よく見ると「ま」の最終画が下がり切っていなかったり、「ん」が跳ね上がりきっていなかったり、寸足らずでかわいい部分がある書体だなと思っていました。
「Rocio Pro」のスワッシュのバリエーションを活用したかったのと、洋風のイメージが合う番組タイトルにしたいと思いました。また、「Rocio Pro」の持つ独特の楽しげな感じが出したくて、おしゃれだけど気取らない感じのロゴを作ろうと考えました。
Tさん どちらも手書き由来の書体なんですが、「プフ ホリデー」はメモ書きのようなラフでスピード感のある作風、一方で「Rocio Pro」は遠くの友人にしたためる手紙でゆっくり丁寧に書いたようなスタイルですね。
二つの書体の個性の違いを、「Rocio Pro」のスワッシュや「プフ ホリデー」の「大」の表現を通してうまく調和させていて、素敵なロゴだなと思っています。
Dさん よかった!ありがとうございます!
― 混植をどうやってデザインに活かしていくか、無数のアイデアがありそうですね。
みなさんも、お気に入りの組み合わせをぜひ見つけてみてください!
おわりに
ロゴやタイトル、印象的な見出し、もちろん本文も、欧文(ラテン文字)を見たり使用する機会は日常に溢れています。
フォントサブスクリプションサービス「Morisawa Fonts」でも、欧文書体のラインナップを強化中。多くの魅力的な欧文書体が、身近な存在になってきました。
ぜひこれからも、欧文フォントを使って混植を楽しんでください。
そして、本記事に掲載した以外の「和欧混植のアイデア」も、モリサワの公式Pinterestでご紹介中です。随時更新していきますので、ぜひご覧いただけると幸いです!