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【インタビュー】ECサイトのリブランディングを叶える、A1ゴシックの「伝える力」

実店舗ではないからこそ、そのクオリティーが売上に直結するといっても過言ではないECサイト。ただのお買い物を特別な体験に変えるのは、見やすさや使いやすさといったユーザビリティーだけでなく、商品の背景にある想いを「伝える力」なのかもしれません。
今回は、カスタムオーダー専門のレザーアイテムを販売するジョッゴ株式会社の藤村さんと、ウェブサイト制作を手がける株式会社インプレッシブの喜田さんに、昨年秋に行ったサイトリニューアルの経緯、ソーシャル・ビジネスへの想い、リニューアル後のサイトにA1ゴシックを導入された経緯などをうかがいました。

<お話を聞いた人>

ジョッゴ株式会社 WEBデザイナー 藤村塁さん(右)
株式会社インプレッシブ 取締役/クリエイティブディレクター 喜田豪人さん(左)


1.A1ゴシックとは

A1明朝の基本となる骨格を参照して作成された、オールドスタイルのゴシック体ファミリーです。線画の交差部分の墨だまり表現や、エレメントの端々に僅かな角丸処理を加えることで、温もりのあるデザインに仕上げています。 LからBまで4つのウエイトで展開されています。


2.事業は「社会問題を解決するために何ができるか」を考えるところから始まる


―「JOGGO」はどのようなブランドですか。

藤村さん:ブランド名の「JOGGO」はベンガル語で「その人に合った」という意味です。お客様に合わせた商品を提供するというコンセプトから名付けました。いずれの商品も形がスタンダードで誰でも使いやすく、カスタムオーダーができて、かつ手に取りやすい価格帯なのが強みです。

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―名入れ刻印もできるそうですね。世界に一つのオリジナルをリーズナブルに手に入れられるのが魅力的です。商品ラインナップを教えていただけますか。

藤村さん:財布やカードケースを中心に、現在は50商品くらい。今後14、5種類の新商品が控えていて、限定色も出る予定です。いまイチオシなのは「革の花」。枯れずにずっと置いておけるので、ギフトで人気です。SNSなどでの反響も大きいですね。

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―事業を通して社会問題の解決にも取り組まれているとか。

藤村さん:ボーダレス・ジャパン(※)の事業はすべて、「社会問題を解決するために何ができるか」というところからスタートしています。事業によって問題を解決するのではなく、社会問題から考えよう、と。
ジョッゴは『感動で繋がりを』というビジョンを掲げ、国境、宗教、障害を超えて人々が心で繋がる社会を目指しています。多くの日本人にとっては想像しづらいかもしれませんが、スタッフ達が自分で選択肢を持ち、その上で仕事を誇りと想える状態にしたい。その目指す過程のひとつとして、バングラデシュの雇用を創出するために立ち上げたブランドが「JOGGO」なのです。

※「ソーシャル・ビジネスで世界を変える」ことを目指し、社会起業家が集うプラットフォームカンパニーとして2007年設立。現在、貧困・環境問題など社会問題の壁を超える41の事業を世界15ヶ国で展開中。


―バングラデシュは働く場がなく、経済的に困窮している人たちが多いと聞きます。

藤村さん:「救う」のではなく、一緒に事業をやって利益を生み出すWin-Winの関係を目指していて、行き着いたのが革産業でした。バングラデシュには「イード」というイスラム教の祝祭があり大量の牛肉が消費されるのですが、同時に大量の牛革も発生します。

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喜田さん:もともと革産業が盛んではあるけれど、余った革が捨てられ、使われていない現状があって。

藤村さん:そこで革事業を立ち上げ、バングラデシュに自社工場を持つことになったのです。安心して働ける環境を整えるために、最近託児所も開設しました。この1年はコロナの影響もありましたが、幸い現時点で解雇する人もいなくて、なんとか維持している状況です。
工場の前に「雇ってほしい」と人が並ぶため、一人でも多く雇用したいのですが、現状はなかなか難しいです。

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―国内にも久米川(東京都東村山市)に工場がありますね。

藤村さん:国内工場として、ジョッゴの超特急便(最短で届ける商品)や、「ENISHI」という国内の革を使った、ハイエンドラインの商品を作っています。
久米川工場UNROOF事業部には、『障害を持っていても自分を信じて輝ける社会へ』というミッションがあります。
多様性(Diversity and Inclusion)を持った方たちが働ける場として立ち上ってはいますが、みなさん障害者雇用の枠ではなく、ジョッゴの1メンバーとしてステップアップを目標に働いています。
キャリアアップや職人としてのスキルを伸ばす環境が整っているので、個々が自発的にどう働きたいかを考えられる職場だと感じています。

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3.技術的な問題解決とイメージの統一を目的にウェブサイトをリニューアル


―今回のサイトリニューアルの経緯を教えていただけますか。

藤村さん:僕がジョッゴのウェブサイトに関わるようになった時点で、システム面に手を加えづらい領域が多かったんです。見た目だけは変えたのですが、肝心な商品をカスタマイズするシミュレーターの使い心地が良くなかったこともあり、実際の商品とイメージのずれが生じている状態でした。
このままだと売り上げも見込めないし、なんとしても変えたいと言い続けて、ようやく社内の理解が得られ始めたタイミングでいいパートナーさんに出会えたこともあって、「やりましょう」という流れになったんです。

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―喜田さんとの出会いがリニューアルを後押ししたわけですね。お客様の使い勝手をよくするのが一番の目的だったんですか。

藤村さん:安心して商品が買えるECサイトにするのが一番の目的でした。安心の中にはシミュレーターの使い心地も含まれていて、使いやすく、そこで作ったイメージが実際の商品とかけ離れていないこと。それから、カスタムメイドなのでお届けまでにタイムラグがあるのですが、待っている時間も楽しめて、届いたときに幸せを感じられ、次は誰かにギフトとして贈ってみる、という流れを体験できるECサイトにしたいと考えていました。

―以前のウェブサイトはどのような雰囲気だったのですか。

藤村さん:18〜24歳くらいの若い世代にターゲットを絞って、しっかりとそこに寄せていましたね。キャッチーかつポップな色使いで、今とはかなりイメージが違います。

―フォントは何を使っていましたか。

藤村さん:ベースはシステムフォント(予めデバイスにインストールされているフォント)の游ゴシックです。ただ、ユーザーの環境によっては他のフォントに変わってしまう仕組み上の問題があって。
デザイナーとしては、ブランドの雰囲気に合って見た目も全デバイスで統一できるWebフォントを入れたい気持ちもありましたけれど、踏み切れなかった。あまり考えないようにしていたかな……(笑)。

喜田さん:よく言えばポップで、悪く言えば統一感を持たせづらい形で運用していました。そういった問題をリニューアルに合わせて刷新して、ウェブサイト全体の雰囲気もすべてコントロールするというのが目的のひとつでしたね。

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―技術的な問題の解決とビジュアルイメージの一新がテーマだったんですね。

藤村さん: LPと広告でそれぞれ異なるターゲットに向けて発信しているものも多かったので、ウェブサイトもSNSもイメージがバラバラで、しっかり統一したいという気持ちがありました。同時にロゴも変えて。

喜田さん:以前はひげのついたセリフ体でしたよね。

藤村さん:太いところと細いところのコントラストがはっきりしていたので、箔が取れやすいという生産上の問題もありました。離れて見ると読みづらい、そういった点がブランド価値を下げているのではとも感じていました。


4.「A1ゴシック」を軸にビジュアルをリブランディング


―そこで、まずはロゴを刷新してリブランディングを図ったわけですね。

藤村さん:ウェブサイトのビジュアルと違和感がないように、A1ゴシックのイメージにマッチするロゴを作りました。

―リニューアル後のウェブサイトで採用されたA1ゴシックには思い入れがあったとか。

藤村さん:僕自身、前からA1ゴシックが好きで、ずっとJOGGOで使いたいと思っていたんです。

―好きになるきっかけはありましたか。

藤村さん:僕の妻がデザイナーでフォントマニアなんですけれど、「A1ゴシック、最近増えてきたね」という会話をよくする程、あちこちで目にするようになって。もともと刻印や孔版印刷のようなレトロ系の印刷が好きだったこともあり、気に入っていたんです。そのうち、見れば見るほど「ジョッゴに合っているんじゃないか」と思うようになりました。。

喜田さん:にじみの感じがエンボスにしたときの刻印に似ていて、革商品との相性がすごくいいですよね。

藤村さん:リニューアル前はロゴとも合っていないし、イメージがさらにバラバラになるだけだったので、使いたくても使えない状況にありました。

喜田さん:フォントだけ先行して変えてもあまり意味がない。ブランディングという大きなくくりの中でフォントを統一していかないと良いものにはなりませんからね。ですので、リニューアルのタイミングでA1ゴシックに変えるよう、かなり説得しましたよね。

藤村さん:「なぜいいのか」ってところをね(笑)。
カジュアルさは保ちながらも、商品のよさをきちんと伝えるビジュアルにするために、A1ゴシックが持つ整った感じやふところ感、アキ感がぴったりだと思ったんです。

―社内プレゼンをされたのですね。反応はいかがでしたか。

藤村さん:「フォントを変えて、実際どう影響するの?」という反応だったので、これはもう見てもらうしかないと。ビジョンを一枚絵のビジュアルにして、先行して作ったロゴと一緒に見せて説得しました。ビジョンというのは、僕たちがどのような想いでお客様に商品を届けたいかをまとめたものです。伝えたいメッセージとフォントが合っている、これってすごいことだと思うんですよね。「どうですか、やりましょうよ、進めていいですか」と、喜田さんにも一緒に説得してもらいました(笑)。

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社内を説得する際に用意した資料をベースに作成したJOGGOのブランドストーリーのWebページ。ビジュアルとともに想いを伝えるメッセージはA1ゴシックのWebフォントで表示されている。
https://joggo.jp/brand/


5.モリサワWebフォントの魅力


―お二人の熱意と苦労の上に実現したものだったんですね!ところで今回、モリサワのWebフォントを導入するにあたって気になる点はありましたか。

喜田さん:ローディング時間ですね。日本語は漢字・ひらがな・カタカナと文字数がとても多いので、フォントの読み込みでユーザーを待たせてしまうかもしれないというのが一番のボトルネックで。ウェブの世界は読み込みが遅いとユーザーが離れていくため、ストレスを与える表示速度にならないかが一番の懸念点でした。

藤村さん:Webフォント自体は以前から、グラフィカルなフォントを使いたいとき、画像をいちいち作り直す手間を減らすために使っていました。ただ読み込みの問題もあるので、あくまで部分的でしたね。

喜田さん:今回、ウェブサイト全体でモリサワさんのWebフォントを導入してみて、読み込みは気になりませんでした。ローディング時間によってユーザーが離脱するケースも現状ないので、そういう意味でもよかったなと。

―完成したウェブサイトをご覧になったときはどんなお気持ちだったんですか。

喜田さん:まとまったというか、統一感がでたなって思いましたね。

藤村さん:理想のフォントが自分のデザインで使えて、間違いないものができたなと。Webフォントを使うまでは、僕の起こしたデザインがデバイスによって見え方が違うことが歯がゆかったんですが、同じビジュアルで統一できたのは、デザイナーとしてすごく満足度が高いです。

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―反響はありました?

藤村さん:同業の友達には「A1ゴシックって、感情が伝わりやすいフォントだよね」と言われました。

喜田さん:ジョッゴでは「想いを伝える」ことが重要なメッセージになっていて、そこにすごくこのフォントがマッチしていると思います。コンピュータの画面では、固いゴシックなんかが読みやすかったりするんですけど、そういう側面を持ちながら、優しさや柔らかさもある。デジタルで商売していても、ブランドの持つ温かみを伝えられると感じました。

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―今回ウェブサイト全体でモリサワのWebフォントを導入されてみて、おすすめできる点があるとしたらどんなところでしょうか。

喜田さん:フォントはブランディングする上で不可欠で、より直感的に伝わるツールだと思うんです。印象って文字だけではなく、全体の雰囲気で伝えるものだから、きちんと伝わればブランドユーザーのロイヤリティー、「好き」という気持ちがどんどん高まっていく。
ウェブサイトって一番ユーザーと近いインターフェースなんですよ。そのすみずみまで自分たちの意思をほどこせるのだから、ブランディングにWebフォントを使わない手はないですよね。

藤村さん:フォントに触れている時間って、実は人生の中の大半を占めているのに、一般的には「そのへんにあるもの」としか認知されていないんです。
ウェブサイトの文字は、その向こうにいるお客様との会話だと思う。だから、気持ちに寄り添ったフォントを使うと、ウェブサイトの質がぐっと上がるはずです。

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喜田さん:いまお話ししたとおり、フォントはとても優秀なブランディングツールなんですが、日本語フォントの場合、導入のしづらさがハードルになっているケースが少なくない。その点モリサワさんのWebフォントはそこを解決してくれているので、みなさんにもぜひ使っていただきたいです!


―社会問題解決にむかう真摯な姿勢や、A1ゴシックへの愛など、お二人のさまざまな熱い想いに心を動かされました。本日はありがとうございました!