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書体開発者が語る「秀英体」のこれまでとこれから〜にじみ新書体も大公開スペシャル〜

今日は4月10日、フォン410の日!というわけで、特別企画として大日本印刷株式会社の秀英体開発担当の方へのインタビューが実現しました!
明治初期から100年以上にわたり愛され続けてきた秀英体しゅうえいたい」の歴史や改刻秘話から、現代のニーズに合わせた新たな取組みまでさまざまなお話を伺いました。モリサワでも以前から秀英体を提供しており、中盤のインタビューでは今年リリース予定の新書体についてもふれているので、ぜひ最後まで読んでみてくださいね。

1.「秀英体」とは?

秀英体は、日本を代表する総合印刷会社「大日本印刷株式会社」(以降、DNP)が独自に開発したオリジナル書体です。広辞苑や新潮社の書籍などに書体が採用されているほか、ポスターやパッケージなどでも使われており、秀英体を詳しく知らなくても無意識に目にしている方も多いと思います。

DNPの前身にあたる「秀英舎」は1876年(明治9年)に創業。まもなく活字の自家鋳造ちゅうぞうを開始し、秀英体の開発が始まりました。活版印刷の時代からDTP、電子書籍へと文字を巡る環境が大きく移り変わった現代もなお、秀英体は親しまれています。

モリサワnote編集部では、これまで自社開発書体を取り上げることが多かったのですが、今回はユーザーの皆様の中でもファンが多い「秀英体」にスポットを当て、その魅力について深掘りしていきます!

2.秀英体の開発者さんに色々聞いてみた!

お二人の「アー写ください」とお願いしたら、まさに!な画像をいただきました

■お話を聞いた人
大日本印刷株式会社 秀英体事業開発部 
・左:伊藤いとう正樹まさきさん(書体:秀英にじみ四号太かな)
・右:宮田みやだ愛子あいこさん(書体:秀英にじみ丸ゴシック)

本⽇はよろしくお願いします。まずはお二人について伺います。どのような経緯で秀英体の部署へ入られたのでしょうか?

伊藤:私は当初違う事業部にいたのですが、DNPには社内人材公募の仕組みがあって、入社して3~4年目の時に秀英体の用途開発の担当者を募集していることを知ったんです。
元々美術大学出身でタイポグラフィの授業があったので秀英体のことも、DNPの活字の歴史も知っていましたし、関心もあったので応募しました。1998年頃から担当しているので秀英体歴としては23~24年になります。

宮田:私は情報系の出身でしたが、目に見えるものを作りたいと思ってDNPに入社しました。当時C&I事業部という部署がありまして、配属された先の部のテーマの一つが秀英体で、伊藤さんがテーマリーダーをされていました。

―そうなんですね!お二人は元々国語が得意とか読書好きとか、以前から文字になじみがあったのでしょうか?

伊藤:実は僕、読書が苦手なんです。あまり普段も本を読まないんですけど、職業柄気になりますね(笑)。
ただ、小さい頃から文字の形は好きでした。地元が関西なんですけど、阪急電車のサインが丸ゴシックで物心ついた時からいいなぁと思っていて。あとは野球が好きなのですが、甲子園球場のスコアボードが手書きの明朝体でかっこいいなぁと思っていました。

宮田:私の場合、小学生の時に初めて入ったクラブがレタリングクラブだったり、大学時代に文字やフォントの形と感性の関係を研究テーマにしていたりと、文字に惹かれるものはあったように思います。

2-1 秀英体のルーツ

―お二人とも書体にご縁があったのですね。早速なのですが、先日秀英体の全文字一覧が載ったポスターを入手したんです!ここに書かれている約2万3千文字、この一文字一文字にお二人が関わっていらっしゃるんですよね?

細かい…!ここに2万3千文字がギュッと詰まっています。

伊藤:はい。一文字一文字、一点一画を見ました。デザインのチェックだけでなく、宮田さんは漢字の、とめ・はね・はらいなどの字形が正しいかどうかをひらすら見てましたよね。

宮田:見てましたね(笑)。「平成の大改刻」以降も、書体を年々増やしていて、秀英体の書体ラインナップは、現在24書体になりました。

モリサワでは「秀英にじみ初号明朝」を除く23書体を提供中です(2022年4月現在)

―秀英体のルーツを辿ると活版印刷の時代(明治期)から始まっていますが、当時は金属活字だったんですよね?

宮田:そうですね。今でこそ活字は懐かしさや温かみ、レトロな雰囲気が魅力なんですけど、当時は活字しかなかった時代なので、そもそも印刷するための道具の一つでした。

伊藤:当時は拡大・縮小ができなかったから、見出しは見出しなりの形、本文は本文用の形、初号や一号、二号とサイズによって職人が1文字ずつ彫っていたんです。サイズごとに文字の形を作っていたことと、その活字にインクをつけて紙に押し当てていたことが、アナログで印刷していた時代の魅力なのかなと思います。

今だからこそ見直したい活字の魅力……!

2-2 一大プロジェクト「平成の大改刻」

平成の大改刻で開発された10書体

■平成の大改刻
新時代の利用環境に対応するため、2005年(平成17年)からスタートしたプロジェクト。DNP、朗文堂、字游工房、リョービイマジクスからなる開発プロジェクトチームを結成し、7年かけて10書体12万字もの書体リニューアルを行った。

参考文献:『100年目の書体づくりー「秀英体 平成の大改刻」の記録』

―秀英体の歴史を語るうえで、リニューアルプロジェクトである「平成の大改刻」は欠かせないですよね。中心メンバーとしてお二人も関わっていらしたそうですが、膨大な数の文字を改刻する日々で正直辛くなることはありませんでしたか?

伊藤:その当時は辛さを感じなかったです。それよりも文字を生み出せる喜びの方が強かったですね。宮田さんはもしかしたら辛かったかも(笑)。

宮田:いえいえ(笑)。その時はモリサワさんから秀英体を販売する準備も並行して進めていたので、単に文字を作っているだけの苦しみというよりは、それをたくさんの方に使ってもらえるんだっていう嬉しさが勝っていました。

伊藤:それまで秀英体はDNPの工場内でしか使わない書体だったので、工場で出力するためのメンテナンスはしても、デジタルフォントとして一般販売できるような開発はしていなかったんです。
秀英体もモリサワフォントみたいに世の中に届けられたらいいのにな…とずっと思っていました。ですから、モリサワさんとの連携でそれが叶う喜び、楽しみな部分とドキドキする部分、そういう期待と不安が合わさった感じでしたね。

―平成の大改刻プロジェクトで一番苦労された点、意識された点はどこでしょうか?

伊藤:コンセプトや設計はDNPで行い、監修に朗文堂さん、アウトラインデータの制作は字游工房さんやリョービイマジクスさんに協力して頂いて進めました。それぞれに複数の方が携わっていらしたので、みんなの意見を束ねないといけない。僕らも初めてで不勉強な部分がありましたが、わかるようになってくるとこうしたい!という思いがありましたし、各担当会社さんにも思いがあって、それを調整するのが難しくもあり、楽しくもありました。

当時の開発会議の様子

―書体の修正のみならず、デジタル化や新書体開発も同時に行われていたんですよね?

宮田:はい。オープン化するにあたって、OpenTypeフォントフォーマットへの対応が必要だったり、アウトラインデータ制作をお願いしていた2社のデータ形式が異なっていたので、フォントファイルにするまでの変換フローをどうするか検討したり。開発と一言で言っても、ただ十何万字作りましたっていうだけじゃなかったことを今思い出しました(笑)。

―途方もない作業の連続だったと思いますが、開発の皆さんの文字に懸ける情熱が伝わってきました。元は社内でしか使用されていなかった秀英体が広く認知されるようになったのも、皆さんの努力があったからこそですね。

宮田:書体の開発はもちろんですが、モリサワさんが「MORISAWA PASSPORT」を展開してくださっていたおかげで、一度にたくさんのお客様の手元に秀英体フォントをお届けすることができるようになったので、とても感謝しています。

―ありがとうございます!続いて、近年リリースされている「にじみ」シリーズについて伺いたいのですが、いつどのような経緯でデジタル化に至ったのでしょうか?

伊藤:「にじみ」シリーズは、2013年に企画書1枚から始まりました。改刻をする時にこれまでの秀英体を振り返る機会がたくさんあって、明治の秀英体、大正・昭和の秀英体を見て、これからの100年に使える書体を見極めていったんですけど、過去の秀英体にはアナログならではの魅力があったんです。インクがにじんだ書物を見て、これをデジタルフォントで再現できないかなと思ったのがきっかけでした。 

上段:秀英明朝 L、下段:秀英にじみ明朝 L

伊藤:平成の大改刻できれいにした秀英体を壊すようなアプローチではあるのですが、活版で刷られた印字物をルーペで見て、どこがどうにじんでいるのか特徴を洗い出し、画像処理ができる社員ににじみ加工を行うプログラムの開発を依頼しました。
書体に詳しい方からは秀英体の評価は高いのですが、詳しくない方やデザイナー以外の方にも秀英体の魅力を感じてほしいと思ったんです。「新しいファンを作る」みたいな。にじみ書体を知ったことで「あぁ、これの元は秀英体なんだ」という入り口を作りたかったのもあります。

秀英にじみシリーズのラインナップ

―私もにじみシリーズの独特な風合いが好きです。これをデジタルで表現しているのが素晴らしいですね。

伊藤:こちらの提案を受けてモリサワさんが思い切って世に出してくださったのはありがたかったのですが、実は少しビビってたんですよ(笑)。もちろん僕らはいいと思っていましたけど、何人かのデザイナーさんに事前にヒアリングした際、意見が半々に分かれていたこともあって、批判されるんじゃないかって。

宮田:にじみをデジタルフォントで再現することで、Webや電子書籍でも、活版印刷のようなアナログ感を表現できるのではと考えていたので、それまでのDTPや印刷に携わるユーザーの皆様にお見せするのは不安な面がありましたね。
最初は2016年にWebフォントのサービスに提供して反応をみていたのですが、その後にMORISAWA PASSPORTでも提供できるというお話になってドキドキでした。

伊藤:今では「にじみシリーズ好きです!」と言ってもらえることも多くあるので、やりたいことは間違っていなかったのかなと思います。

2-3 「秀英にじみ四号太かな」「秀英四号太かな+」が新規リリース!

―ここで、記事を読んでいる皆さまだけに新情報です!今年はモリサワから「秀英にじみ四号太かな」と「秀英四号太かな+」をリリース予定です。そこで、これらの書体のベースとなった「秀英四号太かな」について詳しく伺っていきたいと思います。

宮田:平成の大改刻が終わってから、にじみ書体の開発と並行して検討していたのが “かな書体の復刻” で、そのうちの一つが「秀英四号太かな」です。

金属活字時代のかな書体を復刻した3書体
下段は、漢字の組み合わせ推奨書体

宮田:平成の大改刻では、秀英角ゴシック金秀英角ゴシック銀秀英丸ゴシックは共にL・Bの2ウエイトを開発して、リリースしました。その後『秀英明朝はL・M・Bと3つのウエイトがあるのに、なぜ角ゴシックはL・Bしかないの?』『本文用に秀英角ゴシック Mくらいの太さが欲しい』というお声をいただいて、角ゴシックのウエイト拡充をしました。
今まで「秀英といえば明朝」というイメージだったのが、改刻でのゴシック系の拡充によって、より幅広い場面で使っていただけるようになったんです。

当時の “秀英体コンセプトマップ” 

宮田:秀英体の可能性は広がって、多くの人に知ってもらえた。じゃあ次は歴史ある秀英体の良さも伝えていきたいよね、という思いから、代々広辞苑の見出しで使っていただいているアンチックや、秀英明朝のルーツである四号かなの復刻をすることまではすぐに決まりました。

―四号太かなは最後に制作が決まったんですね。
宮田:そうですね。明治や大正の頃に作成された活字見本帳を見ると、普通のひらがなの見本の隣に “太かな” というゾーンがあります。デジタルフォントでウエイト展開というと、単純に同じ骨格で太らせるイメージですが、ここには全然違うすごい形のひらがながあったんですよ。

「明朝四号活字見本帳」(昭和3年10月印刷)

宮田:おそらく、今だと強調する時に明朝の中に角ゴシックを入れたりするのと同じ感覚で、当時骨格の違う書体を当てていたのかなぁという印象があって。また、昔の絵本を見ると、角ゴシックの漢字と組み合わせて太かなが使われている例があるんです。昔の使われ方をデジタルフォントで再現するというか、そんなフォントデザインを提供できたら面白いねということになりました。

強調するところに別の骨格のデザインをあてていた?

伊藤:太かなは筆の流れの特徴もつかんでいて、現代人が思い浮かばないような個性のあるデザインなんですよね。それが結果的に強調されて見えて、目を引くのかなと思います。うねった書体で他の号数活字の三号、四号、五号とそれぞれ太かながついていて、それぞれの中での強調の役割をなしていた書体だと思いました。

宮田:当時、既に復刻を決めていた四号かなに合わせて「四号太かな」を復刻することにしました。普通のかなデザインと太かながあることを昔の歴史や当時のコンセプトと共に紹介できたらなと思っていたので、良い機会でした。

伊藤:そんな四号太かななんですが、今年モリサワさんからリリースされるのは、元々かな書体だった「秀英四号太かな」に初号の漢字を組み合わせて総合書体とした「秀英四号太かな+」と、これににじみ加工を施した「秀英にじみ四号太かな」になります。

2022年にリリースされる「秀英にじみ四号太かな」と「秀英四号太かな+」

宮田:復刻した他のかな書体についても、かなに漢字を組み合わせた “総合書体” として、モリサワさんから秀英アンチック+」「秀英四号かな+をリリースしています。今まではユーザーの皆様のお手元で漢字と組み合わせていた手間がなくなって、より使いやすくなっているので、ぜひダウンロードしてみてください!

―ありがとうございます!今年リリースの太かなシリーズは、どんなシーンで活用してほしいですか?

※残念ながらここではお見せできませんが、商品のパッケージやテレビ番組のタイトル、お店のチラシなどお二人が見つけたさまざまな活用事例を紹介していただきました。

伊藤:これまでの事例を見ると、お笑い系が強いみたいです。伝統的なお店や居酒屋のメニューや広告での利用は想定していたんですけど、びっくりでしたね。お笑い芸人のYouTubeのサムネイルとか、映像の中のテロップにも結構使われているんですよ。

宮田:字幕系だと秀英初号よりも四号太かなくらいの太さとインパクトが合うんだろうなって。1文字でも目立つので、数文字使われているだけで「あ、いる!」っていう(笑)。

伊藤:特徴があるのに字面が大きくて正方形なんですよね。だから使いやすいのかな。初号って平たい文字とか縦長の字とかベタに組むと空間が空き気味でツメ組みが基本になることが多いんですが、四号太かなは癖があるのに四角いので使いやすい。

並べてみると違いがよくわかります

―確かに!街で四号太かなを見つけたら嬉しくなってしまいそうです。ちなみに、お二人が好きな文字はありますか?

宮田:「な」とかいいですよね。独特な筆のつながり方をしています。

伊藤:
「な」いいですね〜。独特の形というと、ひらがなの「ぎ」がすごい形をしていて。一回「うなぎ」で使われていたのを見たことがあるんですけど、歯ぎしりしているような食いしばってるような「ぎ」なんですよ。あと「も」もすごいんですよね。横線が突き出してないっていう…。 

「な」の形はとても独特。「ぎ」はたしかにうなぎ感がスゴいですね
(書体:秀英にじみ四号太かな)

―老舗のおいしいうなぎ!が出てきそうです(笑)。書体の話をもっと伺いたいところですが、次の話題に移りましょう。

2-4 活版印刷の歴史を今に伝える「本と活字館」

長きにわたり、日本の書籍や雑誌を製造してきた大日本印刷の市谷工場。その象徴として「時計台」の愛称で親しまれてきた建物を1926年(大正15年)竣工当時の姿に復元し、2020年(令和2年)に誕生したのが本づくりの文化施設「市谷の杜 本と活字館」です(DNP市谷加賀町ビルの隣にあります)。活版印刷の歴史や印刷工程の案内、秀英体に関する展示などを見ることができます。

一般の方も予約フォームから見学予約が可能です
本や文字が好きな人にはぜひ一度訪れていただきたい……!

―「本と活字館」の見どころを教えてください。

宮田:自分たちで言うのも変ですが、見どころはすべてです!2階で開催している企画展示もおすすめです。本と活字館はVRで館内をまわることもできます。企画展示のアーカイブも含まれているので、昨年開催した秀英体の企画展もぜひ見てみてください。

伊藤:活字館の中では、活字が並んでいる様子や組版の様子も見られますし、ワークショップもあります。あと館内のサインがいいんですよ。壁から大きな活字が飛び出していて、初号明朝で “一階” とか “二階” って書いてあったり。そうした細部まで見ていただきたいです。

筆者も思わずパシャリ。ぜひ実物をご覧ください!

宮田:あと秀英推しでいうと、2階に秀英体の活字ベンチがあるので、活字に座るという体験をしていただければ(笑)。

―あっ活字ベンチ座りました!なかなか貴重な経験でした……

“あの” 初号の見本帳が自分のものに……

宮田:それと、今年リリースする「秀英四号太かな+」は「秀英初号明朝」の漢字を組み合わせているのですが、この “秀英初号明朝の見本帳の復刻版” が2階の購買コーナーで販売されています。手に取って見本帳を毎日眺められるようになりますよ!

伊藤:寝る前などにぜひ読んでほしいですね(笑)。

―いい夢が見られそうです!!本と活字館では「四号太かな」の活字は見られますか?

伊藤:実は四号太かなは見られません…。四号は母型(※)も残っていなくて、見本帳のみです。唯一、号数系で残っているのが初号ですね。明治から使っていた母型が残っていて、初号の母型とそれに鋳込んで作られた40ポイントの活字は見られますが、三号も四号も五号も残念ながらないんです。
でも、活字はたくさん見ることができるので、ぜひご来館ください。

※母型:活字の鋳造のために作成する型のこと。

「その手が文字をつくるまで -活版印刷の職人たち- 活版印刷の流れ」より
文章を組むために、膨大な量から活字を「選ぶ」体験ができます
これがなかなか難しくて面白いんです!

2-5 これからの秀英体と新たな取組み

―現在DNPさんでは “感情表現フォントシステム” という取組みを始めていらっしゃるそうですね。詳しく教えてください。

宮田:改刻や拡充によって、フォントの提供はある程度デザイナーさんをはじめユーザーの皆様にアプローチできたと思いますが、次のステップとして普段私たちが暮らしている中にあふれている書体を楽しんでもらいたいという思いから、この取組みが始まりました。

宮田:文字を読む側が自分で選ばなくても、テキストの内容に応じて自動でフォントが切り替わることで、合うフォントを知ったり体感したりしてもらえればと思って始めたんです。チャットやメールなどコミュニケーションツールで使っていただこうと2018年に発表しました。
その反響として放送局さんからお声掛けをいただいたんです。放送字幕の表示で使用できれば聴覚障害の方にも内容の感情的な部分が伝わりやすくなるんじゃないか、ということで。実用化にはまだクリアしなければならない壁があるので、展開に向けて今検討しているところです。

変換前:一般的な表示フォント(ゴシック体)
変換後:システムで変換される感情フォント(12種)

伊藤:感情表現フォント以外の取組みで言うと、「ディスレクシア」という文字の読み書きが苦手な方が人口の数パーセントいらして、そういう障害のある方たちにとって読みやすいフォントの研究開発を進めています。

秀英体の今までとこれから

伊藤:元々改刻では明治由来の伝統書体を現代に伝えるために、デザイナーさんのニーズを叶える形で進めてきましたが、そもそもDNPが秀英体を開発してきたのは美しい紙面を作ることはもちろん、情報を伝えるという目的がありました。
万人が読みやすい文字もそうですが、読む方やシーンに合わせた文字をシステムと含めて提供できるような取組みをしたい。その一つが感情フォントであり、障害のある方にも読み取りやすい文字の開発です。後者はモリサワさんもたくさん手掛けていらっしゃって実用化まで進めておられるので、今度ご相談できたら嬉しいですね。

―時代のニーズに合わせて進化していく秀英体の取組みに、これからも注目したいと思います。最後の質問となりますが、お二人にとって秀英体とは?

伊藤:「DNPの誇り」です。それを継続して後世に残していく。これからも豊かな文字を作っていきたいと思います。

宮田:伊藤さんは入社前から秀英体を知っていたそうですが、私はそうではなかったので、大日本印刷に入って出会ったものです。今も仕事を続けられているのは秀英体のおかげかもしれないと思うと、秀英体は「なくてはならないもの」ですかね。すみません、いいまとめになってないかも(笑)。
秀英体を今後ともよろしくお願いします!

―今日は貴重な機会と素敵なお話をありがとうございました!

3.あとがき

筆者はモリサワ社内で秀英体を担当していて、かれこれ3年目になりました。街を歩けば自社書体よりも先に秀英体を見つけてしまうほど、目に焼き付いていて大好きな書体の1つになりました。
特に四号太かなはその愛くるしさが魅力的で…モリサワから「秀英にじみ四号太かな」をリリースできることを楽しみにしていたので、今回お話を聞けて個人的にはとてもアツかったです。

次の機会があれば、初号のお話を聞く記事秀英体の見分け方記事なども書いてみたいな…と妄想は膨らむばかりなのですが、初号に関しては今回インタビューを受けてくださった伊藤さんがひたすら初号の見本帳を眺めていらっしゃるYouTube動画がございますので、そちらもぜひご覧ください。
他にもトークイベントのアーカイブ動画などがアップされており、掘れば掘るほど面白く、とっても “沼” な内容でおすすめです。

フォントの日特別コラボ記事にご協力いただいた、秀英体事業開発部の伊藤さん宮田さん、この度は本当にありがとうございました!(担当:M)

【イベント情報】
フォントの日にAdobeさんが主催のイベントが開催されます!
秀英体事業開発部とモリサワも一部参加予定ですので、ぜひご覧ください。 
➡︎詳細はこちら

「フォントの⽇だよ全員集合 〜こんなに増えてるってフォント!?〜」
開催⽇時:2022年4⽉10⽇(日)13:00〜15:00
2時間のオンライン番組(※アーカイブでの公開もあり)