新聞広告に「書体名」を掲載したのはなぜ!? ファミリーマートの新プライベートブランド「ファミマル」のパッケージデザインの舞台裏に迫る
新聞広告は時代を映す鏡…なんて言われますが、そこで使われているフォントも気になるモリサワnote編集部です。 2021 年10月19日朝刊に掲載された全面見開き(30段と言われます)広告に、社内がざわめきました。ファミリーマートの新しいプライベートブランド(PB)「ファミマル」をお披露目する内容です。
今回、その広告をきっかけに、パッケージデザインの舞台裏を追いかけてみることになりました!
1. A1ゴシックの名が広告に!?
冒頭の広告では「社内資料ですが、広告します。」とのコピーとともに、パッケージデザインのコンセプトやガイドラインが細かく紹介されています。よくよく見てみると、そこに「書体名:A1ゴシック」との言葉が書かれているではないですか!?
パッケージに使用する書体名を公表することは珍しく、SNS上でも注目する声が上がりました。ファミリーマートの社内資料が元になっているようです。
どういった意図で書体名を表記することになったのか、そしてそもそもどういう意図でA1ゴシックが選定されたのか知りたい!と思い、ファミリーマートに問い合わせました。
すると、この広告やパッケージデザインを手掛けた「The Breakthrough Company GO」のご担当者をご紹介いただき、お会いすることができました。ファミリーマートの新しいPBに対する熱い思いとともに、パッケージデザインの開発にまつわる深いお話をお届けします。
2. 【インタビュー】 新PB「ファミマル」とA1ゴシック採用の背景
ー今日はよろしくお願いします。ファミリーマートの新PBを紹介する新聞広告は、インパクトがありましたね。
田中:ありがとうございます。伝えたかったのは「ファミマル」が家族にも安心してすすめられるファミリークオリティのブランドであることです。社内向け資料を用いたのは、あえてブランド開発の裏側を見せることで、製造過程から安心できるよい商品だと理解してほしかったから。実は、広告にはもう1つ、別のパターンがあって、競合PBのハンバーグとの消費者調査を示したものです。
田中:事前のイメージでは負けていたものの、実際に食べていただければ、おいしさでは負けていない。ファミリーマートでは、かなりの商品群で消費者から高い評価を得ています。それを世の中にも、ファミマの店舗で働く人にも伝えたかったのです。
ーファミリーマートには以前にもPBがありましたが、「ファミマル」ならではのコンセプトやパッケージを作る際に苦労されたポイントはありますか?
田中:ファミマルは、「おいしい◎うれしい◎あんしん◎」の二重丸(マル)品質をファミマと掛け合わせたブランド名称です。一つ一つの商品の特徴や良さを、お子様から高齢者まで誰にでもわかりやすい伝え方を目指しています。コンペで弊社が担当することが決まってから本格的に商品パッケージのデザインを進めているわけですが、総アイテム数は800以上に及びます。商品の価値をどう伝えていくべきか、ファミリーマートの各担当者とディスカッションしながら形づくっているところです。
ーなるほど。では改めてファミマルのパッケージデザインのコンセプトを聞かせてもらえますか。
小川:ファミマ(Famima)の考えるユニバーサルデザイン(Universal Design)という考え方から「F-universal」という言葉をデザインコンセプトに掲げました。冒頭の3文字にあるFunから、楽しさを作るという意味も込められています。店頭にファミマルの商品が置いてあることで、買い物が楽しくなればなと思っています。
ー実際、どんなことを意識されたのですか?
小川:シズル感あるビジュアルと、シンプルで直感的な言葉を用い「5秒でわかるパッケージ」を目標にしています。商品名やキャッチコピーは大きさを含め、徹底的に読みやすさに気を配りました。新聞広告にもあるようにパッケージデザインはフォントも指定しています。
ーユニバーサルがコンセプトとのことですが、商品名の指定フォントはA1ゴシックで、いわゆるUDフォントではないですよね。
小川:UDフォントは比較的小さな文字や文章での読みやすさを意識して使われることが多いのですが、商品名を大きく表記することで読みやすさ、ユニバーサルデザインを達成することを考えたため、UDフォントであることにはこだわりませんでした。それより、コンセプトに合致しているか、コンビニの商品にふさわしいか、など多岐から考えました。コンビニのPB商品は、紙コップやスポンジなどの日用品も含まれるほか、食品でも惣菜からお菓子など多種多様です。
ーなるほど。 “ファミマルの” ユニバーサルデザインコンセプトに合致しているかどうかが重要なポイントだったんですね。
小川:そうなんです。UDフォントにこだわることより、楽しさとの両方を兼ね備え、多様なターゲットにもフィットし、あたたかく、おいしそうだと感じてもらえる性格のフォントを検証してきた結果として、A1ゴシックとフリーフォント系丸ゴシックの2つに候補を絞りました。
ー最終的には2択からA1ゴシックが選ばれたわけですね。
小川:そうですね、フォント自体に、キャラクターというか温かみのある性格を持ち合わせている点を評価しました。文字の角に丸みがあり、大きくした際にも読みやすい。ファミマルの顔とするうえでも、最終的には親しみやすさと書体のクオリティの高さでA1ゴシックに決めました。私たちが考えるユニバーサルデザインは達成できたと感じています。
ー基本となる書体やコンセプトが決まっている中で、個別に商品パッケージをデザインする際に気を配っていることはありますか?
小川:PBのパッケージデザインは、広告に記載したようにデザインのルールを決めるまでが重要だと思われますが、実際は個別の商品パッケージに適用させることが肝要なのです。ルールベースで進められるかなと甘く見ていた部分がありましたが、いざはじめてみると、パウチの存在や動かせないバーコード位置などパッケージや商品特性ごとのイレギュラーな要素がたくさんあることに気付かされました。
ールールを基に商品特性に合わせていく…なかなか、大変そうですね。
小川:飲むヨーグルト1つ取っても、いろんな味付けのものが並んだ際に個性が際立つ見映えを考えたデザインが求められます。一部が透明になった包材のおせんべいは、中身が入って棚に並んだ状態を意識して、細かな粉が目立たないようパッケージの下部分は不透明なデザインにするなど、固有の配慮が必要です。そもそも商品は三次元なので、平面的なグラフィックとは印象が異なることをイメージしないといけません。
ーパッケージデザインの標準に据えている商品はありますか?
小川:ファミマルのロゴやキャッチコピー、商品名のバランスはポテトチップスを基本にしています。ただ、このルールを米菓に適用すると、同じPBであるとは見えますが和風らしさが削がれてしまう。その際には「A1明朝」を用いることにしています。おつまみの場合は、それでも不十分でかつ縦型のパッケージが多いことから、縦書きでの筆文字にして独特のシズルを表現しています。
ー商品によってはフォントも変えて、同じPBの中でもデザインの差別化を図るんですね。
小川:その通りです。例えば同じナッツでも、おつまみと低糖質食品では購買者が異なるので陳列も別の棚に変えるべきで、デザインで明確に区別する必要があります。PBとしての統一感を図りながら、商品のよさを最大限引き出すパッケージが大切で、フォントを含めてデザインにはやはり神経を使います。
ー店頭での陳列を意識したデザインにするということですね。
小川:他のコンビニを含め、店頭に足を運んで陳列を研究しました。店舗の規模や商圏によって商品内容は異なり、什器を含め陳列はだいぶ違います。チルドや冷凍品、日用品、お菓子、おつまみなどコーナーごとにデザインや基調を変えて、その中でファミマルの商品の個性が伝われば、消費者のコンビニ体験のストレスが減らせると思っています。加えて、店内で働くスタッフは外国人の方も多く、デザインの違いでカテゴリーが判れば品出しで混乱することなく済むでしょう。
ー奥が深い世界ですね。店舗や消費者からの反応はいかがですか?
田中:おかげさまで広告でも用いた「鉄板焼ハンバーグ」は、旧商品比約150%の売上と聞いています。女性に人気の冷凍スイーツシリーズのフォンダンショコラも好調で話題になりました。消費者を意識したパッケージは書体にも助けられている部分があるなと感じています。
ーありがとうございます。今後の商品展開も楽しみですね。
田中:今後ほかのカテゴリもファミマルで展開できるか検討されています。ファミリーマートでは現在の売上比率で30%のPBを、2024年末に35%以上にすることを目指しています。また、現在はこれまでの商品(ファミリーマートコレクション・お母さん食堂)と混在している状況で、少しずつファミマル商品を拡大させている段階です。これも従来商品から新商品への展開を急がず、廃棄を極力少なくするための展開です。正直さや誠実さが愛されるブランドとして広まっていけばうれしいです。
ーファミリーマートとファミマル商品のコンセプトと商品への心遣いが感じられるお話でした。 また、書体公表についての詳しいお話をお聞かせいただきありがとうございました!
3. 取材を終えて
コンビニの店頭で何気なく目にする商品にも、その魅力を最大限引き出せるようなパッケージデザインの工夫がちりばめられているのがよく分かりました。ましてやPBはコンビニ各社が特に力を注ぐ商品たち。デザインのこだわりもひとしおです。
デザインのルールを定めるだけではなく、商品の個性それぞれに適合させていく重要性が伝わってきたのではないでしょうか。
モリサワとしては、ブランドイメージを作っていく上で、コンセプトにあったフォント選びがいかに重要であるかを改めて感じるインタビューでした。
皆さんもファミリーマートに足を運んだ際はぜひ、ファミマルのデザインに秘められた工夫に思いを巡らせてみてはいかがでしょうか。(担当:Y)
※記事内に掲載されている商品は取材時のものです。一部店舗では取り扱いがない場合がございます。
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