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多⾔語の組版ルール【欧⽂編】第2回 欧文組版の考え方

第2回ではさっそく、欧文組版をするにあたって重要となる基本ルールをお伝えします(欧文組版で用いるラテン文字や文字セットについては、「第1回 欧文の基本」で説明しています)。

1. 文字/単語のとらえ方の違い

日本語の和文組版に慣れている方が、欧文組版に取組むときに、念頭に置かなければならないことは、組版のしくみの違いです。

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和文組版では、基本的に図1のような四角い仮想ボディを持つ文字を、前に送っていきながら配置していく考え方をしています。
文字単位で揃えていく組版ですので、行末を揃えやすく、多くの場合「箱組み*」が採用されます。和文組版は、「文字」単位で組版を考える仕組みを持っているといえます。

*箱組み
左右版面に均等に流し込み、最終行のみ左揃えになる組み方のこと。
ジャスティファイとも言う。

しかし欧文組版の場合は、和文のように1文字単位で考えることはありません。和文の1文字単位にあたるものは「1単語(ワンワード)」です。
たとえば「I(アイ)」のように1文字であっても、1単語として考える感覚が必要になります。

欧文の各単語間には、1スペースが入ります。
このスペースの間隔はすべて同じになればよいのですが、「箱組み」を採用した場合、図2のように単語の間隔(ワードスペース)が行ごとに違うものになります。

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「ラグ組み*」の場合は、ワードスペースは均等になりますが、その行が含む単語の長さに、行末が大きく影響を受けます(図3)。そのため、行末が行によって不揃いになります。

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*ラグ組み
テキストを左揃えにし、行末は成り行きで改行される組み方のこと。
アンジャスティファイとも言う。

欧文組版は、行末やワードスペースの不揃いが、読み手の邪魔をしないように整えていく作業ともいえます。

「読み手の邪魔をしない行末」の調整のためには、「ハイフネーション」の設定が重要です。
また、「読み手の邪魔をしないワードスペース」を整えるためには、「ジャスティフィケーション」の設定が重要になります。
この2つの設定は、欧文組版をする上で欠かすことができません。

ハイフネーションとジャスティフィケーションは、3・4章で詳しく説明します。

2. 欧文組版は「段落単位」で考えよう

そして、もうひとつ重要な組版の考え方が「行単位」「段落単位」です。
和文の考え方では、図4のように「行単位」で組版を考えていきます。

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これは、欧文組版でも有効ではありますが、欧文組版では、文字ではなくスペース部分を調整していくことが重要ですので、図5のように、「段落単位」で組版を考えると、より調整がしやすく効率的です。

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たとえば和文組版では通常、「2行目のワードスペースを整える」ために、1行目のワードスペースをツメて、2行目の先頭の単語を1行目の行末に入れる、ということを行います。
しかし欧文組版の場合、段落全体を見渡し、一番ワードスペースの広いところとせまいところを見つけ、その間の行を少しずつ調整します。「段落全体」の行で助け合い、調整するのです。
このように工夫することで、読者の邪魔にならないワードスペースを作るように努めます。

3.行末調整の「ハイフネーション」

 3.1 音節で正しく区切る

欧文組版で、最も重要な作業が「ハイフネーション」の設定です。
ハイフネーションは、行末で単語を分け、2行にまたがって組版することで、日本語では分綴(ぶんてつ)ともいいます。

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*英文は『MORISAWA PASSPORT 英中韓組版ルールブック』p.9より転用

ハイフネーションを、「どこで切ればよいかわからない」という理由で、「ハイフネーションをしない」という選択をしている欧文組版を、日本ではよく見かけます。
この選択は、欧文組版としては正しい選択とはいえません。ネイティブの人たちから見れば「ハイフネーションをし忘れている」と思われてしまいます。

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ハイフネーションは、上図のように音節によって区切られる箇所にのみ入ります。この場所は、一般的な英語辞書などに掲載されています。
また、InDesignなどの組版アプリケーションには、各言語に対応したハイフネーションの辞書が搭載されていますので、正しく設定をして使えば、とても有効的です。
英語では『New Oxford Spelling Dictionary』などハイフネーション専用の辞書も販売されています。これらの辞書では、ハイフネーションの優先順位も表記されています。

 3.2 ハイフネーションの設定

ハイフネーションを使用するために、次の7つの設定を最初に決めておくとよいでしょう。

(1)何行まで続けて入れてOKとするか
(2)単語頭/末尾は何文字から入れるか
(3)何文字の単語から入れるか
(4)ラグ組みの場合、行末のどの範囲から入れるか
(5)段落末には入れるか
(6)段間末には入れるか
(7)大文字はじまりの単語には入れるか


(1)何行まで続けて入れてOKとするか
一般的には、3行までが許容範囲とされています。 4行以上も続けて行末にハイフネーションがされていると、だらしのない組版の印象を与えてしまいます。
2行までを基本として、やむを得ない場合に3行まで続けて入れる、という設定を基本に考えるとよいでしょう。

(2)単語頭/末尾は何文字から入れるか
単語頭/末尾ともに2文字目からハイフネーションを入れることが可能な単語であっても、短くこまごまハイフネーションされてしまうケースが増え、読みづらくなります。
前後「3文字から入れる」を基本にして、例外的に2文字を許可する設定にするとよいでしょう。
ただし、スピード感を持って作業を進める必要がある場合や、組幅が狭く単語間隔の調整が難しい場合は、「2文字から入れる」としても問題ありません。

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(3)
何文字の単語から入れるか
単語を構成する文字数による設定をします。
あまり短い単語はハイフネーションをしないほうが望ましいので、5文字または6文字の単語からハイフネーションさせるとよいでしょう。

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(4)
ラグ組みの場合、行末のどの範囲から入れるか
ラグ組みの場合、行末の版面から何mmの範囲でハイフネーションを許可させるか、という目安をつけておくと、行末の不揃いをほどよくさせることができます。

(5)段落末には入れるか
(6)段間末には入れるか
(7)大文字はじまりの単語には入れるか

上記3つについては、基本的には入れないようにするとよいですが、欧文組版はその行の単語の長さに左右されますので、場合によっては、ハイフネーションせざるを得ない場合があります。
(5)(6)については、ワードスペースまたは行末のアキ具合とのバランスをみながら、適宜判断をしましょう。
(7)については、固有名詞の場合は初出のハイフネーションを避け、2回目以降は、ハイフネーションを許可するというルール設定などが考えられます。

なお、固有名詞のハイフネーションには、注意が必要です。特に日本語の固有名詞の場合は、正しい母音で区切れていることを必ず確認しましょう。

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また、「Japanese」という単語には要注意です。
「Jap-」でのハイフネーションは、辞書では正しい位置ですが、「Jap」という言葉は差別用語ですので、ここでのハイフネーションは避けましょう。
辞書を確認せずに「Japan-ese」とハイフネーションしている例も時々見かけますが、これは間違いです。「Japa-nese」でのハイフネーションを心がけましょう。

欧文組版では、組版が終わったあとには必ず「行末の確認」をします。これは、ハイフネーションに問題がないかを確認するためです。
この「行末の確認」はとても大切な作業です。きれいな組版の実現のために、習慣づけるようにしましょう。

4. ワードスペースを調整する「ジャスティフィケーション」

「箱組み(ジャスティファイ)」で欧文組版をする場合には、必ず「ジャスティフィケーション」を設定します。これは、QuarkXpressやInDesignなどの組版アプリケーションには必ず搭載されている重要な機能です。

余白や文字サイズなどにより、フォントが持つ本来のスペーシングでは、文字と文字の間隔(レタースペース)や、ワードスペースのバランスが悪い場合があります。ジャスティフィケーション設定を使い、ちょうどよいスペーシングに設定することが大切です。

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調整は、段落最後の「ジャスティファイされていない行」を目安にしながら、そのワードスペースと、ジャスティファイされている行とのワードスペースのバランスを見て調整していきます。

5. イタリックの使用方法

欧文組版の本文組みでは、必ずといってよいほどイタリックを使用します。そのため、本文向けに開発された欧文書体には基本的にイタリック体が用意されています。和⽂組版で使う書体には「ひらがな」「カタカナ」がいつも揃っているように、欧⽂組版の本⽂組みでは「ローマン体(アップライト)」「イタリック体」が切り離せません。

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イタリックを使う場面
強調、 CDアルバムタイトル(曲名はローマン体で引用符で囲う)、美術などの作品名、映画タイトル、書籍名、雑誌名、新聞名、外国語、小説などの過去の回想シーンや手紙の内容などの表記

Adobe InDesignの歪み機能やIllustratorのシアー機能を使い、ローマン体を斜体にすることもできますが、イタリック体の代用にすることはやめましょう。

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イタリック体<画像上>と、シアー機能により斜体(擬似的イタリック)にしたローマン体<画像下>では、同じ書体でもまったく異なることがわかります。 英語が母国語の国から発信される欧文組版において、特に書籍組版では、擬似的イタリックが使われることはありません。
フォントとしてあらかじめデザインされたイタリック体は、ローマン体に比べて、タイトなスペーシングや手書きの風合いのある字形が採用されていることがあります。これらによって文中のローマン体との区別が明確になります。 
欧文組版の本文組みでは必ず、イタリック体があるフォントを選び、活用しましょう。


次は第3回「欧文組版の手法」と題し、組み方向、文字揃え/行送りの基準や、欧文合字(リガチャ)といった、欧文組版に必要な細かいテクニックを紹介予定です。
今後も、和文と異なる、欧文組版ならではの考えかたを説明していきます。言語によって、組版ルールをきちんと切り替えましょう。

記事内の用語は、モリサワの「フォント用語集」の中でも詳しく説明しています。ぜひ参考にしてください。


*2021年5月13日、6月7日 文中の表現を一部修正しました。
*この記事は『MORISAWA PASSPORT 英中韓組版ルールブック』の内容を抜粋・加筆したものです。
掲載画像は、同書p.8〜p.11の図をモリサワにて改訂しています。








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