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つくりたい表現・書体の特徴から選べる、ユーザー目線の新しい書体見本帳を作ったハナシ

今回はMorisawa Fonts搭載の全書体が収録された、『モリサワ総合書体見本帳2022-2023』をご紹介します。従来の見本帳とは全く異なるコンセプトで作成された見本帳について、制作裏話を交えてお届け。とにかく使い手目線にこだわっているので、今回の記事をきっかけにこの見本帳をより身近に感じていただけたら嬉しいです。

モリサワ総合書体見本帳一挙紹介!

今回の見本帳のコンセプトはズバリ「ユーザー目線」。見本ページは「つくりたい表現で探す」「特徴で探す」「全書体見本」の3部構成になっています。

①つくりたい表現で探す

見本ページのメイン「つくりたい表現で探す」カテゴリは、「かわいい」、「楽しい」、「レトロ」、「物語性」など今までの見本帳では見覚えのない見出しがズラリ…。その名の通り、表現したい作風やイメージにマッチする11種類のキーワードから書体を探せるんです! 
こちらの分類は、書体がデザインに落とし込まれた際にどんな印象を与えるかを一番大事にしたい、というところから今回実現しました。書体を体系的に分類するにはスタイルや系譜も大切ですが、この見本帳においてはメーカー視点の分類の仕方ではなく、なるべくユーザー目線に近い柔軟な分類を心がけました。

書体ごとに異なる組見本

同じ言葉が羅列されたサンプルは形の違いが比較しやすい反面、書体が演出するニュアンスの違いや使用場面がイメージしにくいというご意見から、キーワード・書体ごとに使用シーンを彷彿とさせる組み見本を掲載しています。組み見本のワードからもライブラリーの世界観を楽しみながら書体を見つけることができます。

さらに、どう “かわいい” のかというイメージはシチュエーションによって幅があるので、 “ラブリー” 、 “フレンドリー” 、 “のびのび” 、 “ほのぼの” のように、大カテゴリを細分化したサブカテゴリが設けられています。

キーワードごとに制作されたモックアップも要チェックです◎ 色使いもキーワードのイメージに合わせてチョイスしているので、文字の形以外の要素からも書体の雰囲気を掴んでもらえたら嬉しいです。

②特徴で探す

「特徴で探す」の見本は、「にじみ」、「コンデンス」、「教育用」など、形や仕様・用途といった具体的な特徴から関連する書体同士を、共通の組見本で比較できるカテゴリです。
共通する具体的な特徴を持つ書体や、特定の用途が決まっているものなど、表現カテゴリではカバーしきれない需要を考慮した分類から制作物に合った特徴を持つ書体を探すことができます。

上の写真のページでは、ペン字・手書き系書体を使いたいときにおすすめの書体が一覧できます。ある程度どんな書体ジャンルがあるか分かっている人や、「こういうデザインの書体がほしい!」という具体的なイメージがある時は、表現のカテゴリよりもこちらの方が探しやすいかもしれません。

③全書体見本

そして、「全書体見本」では、これまでの見本帳やモリサワWebサイトの書体見本でお馴染みの「明朝体」「ゴシック体」といった書体分類・ブランドごとの書体見本が掲載されています。1,500書体を超えるMorisawa Fontsのライブラリーを網羅的に一覧できます。

こちらの見本は書体の個性が出やすい文字をピックアップして載せています。書体を見分けるポイントも掴みやすいかもしれません…!

先ほどの「特徴で探す」と「全書体見本」では、各見本の下部にページナビを掲載しています。別のカテゴリでどのような見本で掲載されているのか、逆引きして確認することが可能です◎

特集企画

見本ページの他にも、巻頭特集ではブックデザイナーの松田行正さんによる、「文芸作品」、「ホラー&サスペンス」などの6パターンの装丁作例を掲載。テーマに沿った書体の使い分けと組み方のアイデアが生み出す多様なデザインは必見です…! 創作意欲を刺激する見応えたっぷりな仕上がりになっています。

Tips

また、巻末と特徴で探すの章末には注目のUD書体の解説や、文字セットといったフォントに関する基本情報のほか、OpenType機能を使った字形の切り替え、カーニング設定など、フォントを使う上で役立つTips記事も掲載しています。意外と知らなかったフォントのあれこれ、この機会にチェックしてみてくださいね。

Tipsページは読み込むよりもなるべくパッと目に飛び込んできた情報だけでどんなことが書いてあるかが分かるような手軽さを心がけました。書体を使いこなすのに今すぐ必要となる内容を厳選し、図解をふんだんに使って解説しています。

装丁

表紙のデザインは佐々木俊さんに手がけていただき、これまでの見本帳とは一味違った新しさを感じていただけると思います。表紙には文字や記号が散りばめられており、フォントの素材集としての書体のバリエーションの豊富さはもちろん、それを選ぶことのワクワクした楽しさが伝わったら嬉しいです...!

実は今回の見本帳、モリサワが出展・参加している展示会やイベントなどでお渡ししているだけでなく、書体に興味をお持ちの方に広く手に取っていただけるよう、全国の書店、オンラインで特製カバーつき別装丁版をお買い求めいただけます! 書店で見かけた際はぜひじっくり見てみてくださいね。


制作裏バナシ

ここからは全く新しい見本帳が出来上がった制作裏話をお届けします。ご興味があればぜひ最後までお楽しみください。

制作のきっかけ

きっかけの一つは、なんといっても2022年の新書体大量リリースです。和文・欧文ともにここまでの大幅拡充は過去になく、リリース後も、既存の書体も含めて個々の魅力や使い方を伝えていく必要を強く感じていました。

さらに、その書体たちの器であるサブスクリプションサービスとして、MORISAWA PASSPORTに代わるMorisawa Fontsのリリースもあり、このタイミングでアップデートした見本帳を作ろうとなったわけです。

1,500以上の書体を俯瞰して見れる見本帳

Morisawa Fontsのユーザーさんはもちろん、特に初めてモリサワのライブラリに触れる人、デザイン初学者にも親しみやすい見本帳となることを目指しています。

もともと書体に関心が高かったり、MORISAWA PASSPORTを長くお使いいただいている方には、どんな書体があるのかという全体像を把握いただけていると思うのですが、初めてMorisawa Fontsを使う人にとっても、1,500書体以上のライブラリを俯瞰して見ることができて、どんな系統の書体があるかをすぐに理解いただくための仕組みを検討しました。書体選びに迷いがあったり、つい同じ書体ばかり使ってしまう人にとって、どうしたら書体を探しやすいか根本から考えた結果、ブランドごとや「明朝体」「デザイン書体」といったメーカー視点の従来の書体分類を解体して、再解釈するという大枠の方針が決まっていきました。

紙の見本帳に求められること

最初にいつも広報物のグラフィック制作をしている社内のデザイナーにヒアリングしたところ、「外部でデザイナーをしていたとき、書体を選ぶ際に紙の見本帳をあまり使ったことがなかった」という意見も…。そもそもWebの見本との差別化は課題としてあって、使いたい書体を検索したり試し打ちしたりというのはWebの機能には敵いません。そこで、どんな見本帳なら使ってもらえるかを考えた結果、「パッと見て分かる」、「何回も開きたくなるワクワク感」といったことを重視しました。

例えば、じっくり読むような各書体の説明文はオンラインで確認いただくことを前提に、今回の見本帳ではあえて掲載していません。今後はこちらの見本帳もユーザー必携のツールとして、Webサイトの書体見本やMorisawa Fontsの書体検索画面とも連動できたらと思います。

テキストを最小限に、ビジュアルをメインに見せた書体見本

また、印刷物のいいところは全体を俯瞰できることはもちろん、書体のインプットにも有効な点だと思っています。Webの検索は「これ」と思ったものから絞っていくのに対して、紙の見本帳はパラパラといろんな書体を見ることができます。せっかくたくさん書体があるので独自のカテゴライズで選択肢を提案して、書体選びのサポートになればという構想でした。

いま使いたい書体に辿り着くための、3つのアプローチ

書体は届けたいメッセージに目を向けてもらうために欠かせませんが、最終的な制作物には写真やイラスト、多くの文章などたくさんの構成要素があります。デザインの作業の中で書体選定ばかりに時間をかけてはいられません。
制作物には表現したい目的が存在するはず。そこで、文字で「どういう表現をしたいか」が一番直感的にリーチしやすいのではないかと考え、「つくりたい表現で探す」カテゴリをこの見本帳のメインに据えることとしました。

一方で、「にじみ系書体を一覧したい」、「極太書体を比較したい」といった既存の書体分類では絞り込めない書体の形や仕様から探したい時もあると思うので、「特徴で探す」カテゴリもつくることになりました。

ただ、この「表現」「特徴」のカテゴリは全ての書体がいずれかの分類で紹介されているわけではなく…。書体によって優劣がついて見えてしまうこの見せ方はメーカーの見本帳として葛藤がありました。それでも、この見本帳のコンセプトとして「こんな書体を探したい」というキーワード先行で、それに合った書体を振り分けていくというアプローチからはブレないように気をつけました。

そのフォローの意味でも巻末には従来のブランドごと・書体分類ごとの「全書体見本」もつけています。Morisawa Fontsで使える全書体の網羅的な一覧を載せることで、「表現」と「特徴」のカテゴリでは直感的・使いやすさに振り切った分類を実現しています…!

このように、最終的にそれぞれのカテゴリをカバーするための「つくりたい表現で探す」「特徴で探す」、「全書体見本」の3軸構成にしたことでユーザー目線で様々なニーズに対応できる見本帳を実現しました!


あとがき

モリサワ総合書体見本帳、使ってみたいと思っていただけましたか?
モリサワとしては今までにない斬新な見本帳になり、受け入れてもらえるのだろうか…と不安でしたが、「役に立ちそう」「こんな見本帳が欲しかった」とのご好評の声も届き嬉しい限りです。この見本帳に掲載されている表現や特徴に限らず、書体は使い方次第でいろんな表情を見せてくれると思います。どの書体を使うか迷った時はこの見本帳から意外な発見があったり、書体選びのサポートになれば幸いです。

Morisawa Fontsのスタンダードプランをご契約されている方には、今回ご紹介した『表現・特徴で見つけるフォントBOOK モリサワ総合書体見本帳2022-2023』をお送りしています。ご希望の方はMorisawa Fontsサービスサイトにログインいただきマイページにて詳細をご確認ください(申込締切は2023年6月末です)。

最後までお読みいただきありがとうございました。ぜひ「スキ」お願いいたします! 記事や見本帳についての感想もコメント欄にお気軽にお寄せください。(担当:H)

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