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文具でお馴染みのぺんてるさんにインタビューしたら、共通点が見つかった話。

みなさん、4月10日が何の日かご存知ですか?
4...10…4(ふぉん)10(と)......ということで、もうおわかりですね。「フォントの日」です。

今回はフォントの日特別企画として、シャープペンシル(以下、シャープペン)などの文具でお馴染みのぺんてる株式会社シャープペン研究部の皆さまにインタビューさせていただきました。フォントの会社と文具の会社のつながりとは?と思ったそこのあなた!ぜひ最後まで読んでいただけると嬉しいです。

1. 書体制作における “手書き” 

突然ですが、こちらの動画をご覧ください。

こちらは、モリサワの代表書体である「リュウミン」をデッサンしている様子です。モリサワで書体デザインをする際は長らく、動画にあるような “原図用紙” と呼ばれる紙にデッサンされた文字をスキャンし、データ化するという作業をしていました。そして、これを必要な文字数だけ行うことで、1つのフォントがつくられていました。
和文書体を1書体作るためには、少なくとも何千文字という単位での制作が必要なので、途方もない作業ですよね…

デッサン_補正

近年は技術が発展し、デジタルソフト上で簡単に文字をデザインすることができます。モリサワでの書体開発においても、専用の編集ソフトなどを利用してデジタル上で完結する書体も出てくるようになりました。しかし、いくらデジタル化されたからといって、手書きの大切さが失われるわけではないと思います。

以前、モリサワのベテランデザイナーにインタビューした際、こんな言葉を残していました。

デッサンをすることでよく形を観察して、書体を見る目を養うことにつながると思っています。(中略)次の世代に継承していくという意味も込めて、モリサワでは今でも新人のデザイナーにデッサン研修を受けてもらっています。デジタルの時代にあっても、手で書くことが感性を磨く一番の早道であり出発点だと思います。行き詰まったときには、ぜひマウスを置いて、ペンを持ちましょう。
※「温もり感じるゴシック体「A1ゴシック」(3. 「A1ゴシック」デザイナーインタビュー)より抜粋

ということで今回の本題に移りますが、書くために欠かせないのが “文具” です。人それぞれ、自分の癖や手に馴染む1本がありますよね。

冒頭の動画に出演していたモリサワのタイプデザイナー 本間さんの相棒は「グラフギア1000」で、ぺんてるさんのロングセラー製図用シャープペンです。

本間さんグラフギア

こちらの写真が本間さんが実際にお使いのもの。使いこまれている様子がわかります。 “原図用紙” “製図用のシャープペン” という語感だけでもマッチ度が高い......ような気がしますが、そもそも「製図用のシャープペンって何だろう?」という疑問をもちました。

そこで、昨年(2020年)書体をリリースした際に、その書体名を気にかけてくださったところからご縁が始まったぺんてるさんに取材を申し込んだところ、ご快諾くださり今回のインタビューが実現しました。(ぺんてるさんありがとうございます!)


動画に登場したモリサワのタイプデザイナー 本間さんとモリサワnote編集部で、「グラフギア1000」の詳しいお話やフォントとの意外な共通点などについて、ぺんてる シャープペン研究部のみなさまにお話を聞いてきましたので、最後までお楽しみください!

2. ぺんてる株式会社 特別インタビュー

インタビューTOP0408

■お話を聞いた人 
・ぺんてる株式会社 シャープペン研究部
- グローバルEC事業本部 クリエイション課 菊池 寛さん
- 経営戦略室 ブランド企画課 田島  宏さん
- 製品戦略本部 マーケティング部 マーケティンググループ 水口 和也さん

集合写真-2
左上から時計回りに、菊池さん、田島さん、水口さん、本間さん(モリサワ)

ー 本日はよろしくお願いします。
菊池:よろしくお願いします。いきなりなんですが、デッサンの動画で早速モリサワさんとの共通点を見つけてしまいました。

本間:えっ!なんでしょう?

菊池:デッサンで “永” という文字を書かれていたと思うのですが、実はシャープペンを試し書きする際にもこの文字を書きます。とめ・はね・はらいがそろっているので書き味を確かめるのにぴったりなんです。

本間:文字に関係する会社ならではの共通点だなと思いました。「永字八法(えいじはっぽう)」という言葉がありまして、 “永” の字に書の基本技法が含まれている事を表しています。モリサワで書体を開発する際も、やはりこの字は初期に作成するようにしています。

菊池:そうだったんですね!一気に親近感が湧きました(笑)実は私は元々デザイナー職でして、モリサワさんのフォントにお世話になっていました。今日はこうしてお話ができて嬉しいです。

ー インタビュー開始から思わぬ盛り上がりですね!同じ動画内に、ぺんてるさんのシャープペン「グラフギア1000」が出てきましたが、本間さんはいつ頃からこのシャープペンを使われているのでしょうか?
本間:
私は中学生の時に文具屋さんでみつけて購入したのが最初でした。考えてみると、このシャープペンについてよく知らない気がします...。今日はぺんてるさんにお話を伺えるとのことで、さっそく「グラフギア1000」について教えてください!

菊池:ご愛用ありがとうございます!「グラフギア1000」は2002年頃に発売を開始した商品で、グッドデザイン賞(賞の詳細はこちら)も受賞しています。主な特徴は、ペン先が収納できることです。また、製図用シャープペンはどこか無骨なデザインが多いですが、グラフギアはシルバーでキラキラとしたデザインであるのも特徴だと思います。

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「グラフギア1000」

ー たしかにキラキラですね。グリップ部分の凸凹もあまりみないデザインですし、ペン先が収納できるという仕組みもおもしろいです。
菊池: グリップ部分が金属と融合したデザインは確かに珍しいかもしれません。2002年の発売当時、シャープペン業界では様々なグリップのデザインが登場してブームになっていたので、その流れでグラフギア1000にも取り込んだのだと思います。

田島:実は、グラフギアはボールペンもペアで発売されていました。ここが面白いと思っていて、ペン先が引っ込むのはボールペンの発想かもしれないですね
例えば、Yシャツのポケットにボールペンを入れる時、クリップで挟むとペン先が自動で引っ込んで、服にインクがつかないようになっている製品があります。グラフギアも、そういう使用シーンを想定してボールペンからの水平展開の発想があったように思います。

本間:なるほど、筆箱の中でペン先が折れないか心配しなくてもいいですしね。普段使いにぴったりです。

ー 「グラフギア1000」含め、製図用シャープペンというとデザインなどの用途で買われる方が多いのでしょうか?
菊池:現在は、学生(中学〜大学)の勉強学習用途が大半だと認識しています。発売当初は「携帯性、筆記性をより高めた製図用シャープペン&ボールペン」としてデビューしましたが、アナログ作業としての “製図” 自体がデジタル化し、リアルな製図用途でのユーザーが減少している昨今、シャープペンのヘビーユーザーである学生が手に取る機会が多いのが事実です。

本間:私のようなデザイナーは今は少数派なんですね。菊池さんがおっしゃるように私も学生時代に初めて購入して、ノートを細かく書いたりイラストを描くのに使っていました。今は仕事でも活用していて、硬度の違う0.3の芯径を2本、使い分けています。

水口:芯径がボディに印字されているのは製図用シャープペンの特徴のひとつだと思います。本間さんは硬度の違う2本をお使いということで、芯硬度の窓も切り替えてくださっているんでしょうか?

芯径
芯硬度の窓(オレンジで示した部分)

本間:切り替えています!これがないと困りますね。ちなみにラフはHB、清書の際は2Hを使っています。デッサンで使用する “原図用紙” という紙は、つるつるしていて黒鉛がのりやすいんです。HBでも結構濃くでてしまうので、硬めをチョイスしています。芯径ごとにカラーも違いますし、ひとめで芯径や硬度がわかるのは便利でありがたいです!

水口:なるほど。細かい機能も活用してくださっていて嬉しいです。

ー 芯硬度の窓、というのは製図用ならではのように思いますが、他にも製図用と普通のシャープペンの違いはあるのでしょうか?
菊池:実は、どこまでが製図用でどこからが普通用というJIS規格のようなものがあるわけではなくて明確な違いはありません。一概には言えませんが、他の製図道具と複合的に使用する際の利便性を考えて作られているシャープペンが製図用と言えるのかもしれません。

ひとつは、定規などの道具を使ってフリーハンドではない正確な筆記を必要とする際に書いている筆跡が確認できるよう、ペン先まわりの視界を良好にするため前軸が「ステップヘッド型」という段々の形(※下記写真 オレンジで示した部分)になっている傾向があります。

ステップヘッド
上が「グラフギア1000」、下は一般的なシャープペン

本間:たしかに、原図用紙の一辺は62.5mmと小さいので、緻密な線を書こうとする時に筆記面が見やすくて助かっています。 

菊池:また、コンマ単位での精確な描画に影響することから、筆記の安定性を担保させるために “本体が低重心設計” になっている傾向があります。ペンの重量バランスをペン先前方側に向けてある事が多いです。

グラフギアはあまり低重心ではないですが、弊社の中でも代表的なグラフ1000というシリーズは、低重心ですね。数ある国内メーカー製図用シャープペンの中でも、かなり製図用機能を残している製品だと思います。発売は1986年です。

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「グラフ1000」

本間:よりプロユースな「グラフ1000」使ってみたいです!

菊池:ぜひぜひ!素朴な質問なのですが、フォント制作において最近の世代は手書きはしないのでしょうか?

本間: いえいえ、そんなことはありません。完全デジタルの人もいるにはいますが、ラフやアイデア出しの段階は紙に書き、それをトレースしてアイデアを広げることが多いです。入社して3年目くらいまでは、業務と並行してデッサン修業をしています。

デッサン研修_補正
本間さんの3年分のデッサンが書かれた原図用紙

菊池:すごい量!ちょっと待ってください、ということは、タイプデザイナーにとってシャープペンは欠かせない存在だと思ってよいでしょうか!?

水口:食い気味ですね(笑)

本間:欠かせない存在...ですね。アウトプットにおいて、消せるものや取返しがつくものってとても大事で、もしシャープペンなどの筆記具がなかったら困ってしまうと思います。

菊池:ありがとうございます!!フォントのプロも、シャープペンをかかせないものと思ってくださっているのはとても嬉しい発見でした。

―プロユースのグラフ1000、ユーザーの幅を広げたグラフギアときて、今後のラインナップ展開が気になるところですが…!
水口:
実は、今年5月に製図用機能をまとった、大変キャッチーでお手頃価格のシャープペンを発売する予定です。
基本的な製図用のスペックを搭載しつつ、カラーバリエーションも豊富で、製図用シャープペンの入門編のような立ち位置になります。

本間:グラフギアの1,000円でも個人的にはお得感がありましたが、新しい商品はさらにお手頃価格になるんですね!
そういえば、グラフ1000をはじめ、製図用シャープペンってなぜか「クリップ」が短いですよね。それはなぜですか?

クリップ比較
当社 = ぺんてるさんでのクリップ比較画像

水口:定規をあてると芯の片方がすり減ってくるので、ペンを回しながら使うことがあるのですが、その際クリップが触れて気になるという方もいらっしゃいまして。そのため、回してもあたらないように短くしています。

本間:そういうことでしたか!カラーバリエーションが豊富なのもいいですね。0.3と0.5の芯径の種類が特に豊富とのことで、0.3ユーザーとしては嬉しいです。

水口:0.3は需要が高い印象です。各社、新しくシャープペンを出す時は0.3と0.5は必須で出していると思います。

菊池:0.3の需要増加の背景には、ノートを綺麗に書きたい人が増えたことや、これは仮説ですが、筆圧がかつてに比べて弱くなったり、持ち方が自由になっているのも原因かもしれません。弊社のオレンズというシャープペンは、芯径ごとにユーザーを分けて擬人化しています。是非こちらも見てみてください!

― グラフギアは2002年発売ということで、もうすぐ発売から20年になりますが、このようなロングセラー製品を作り出す秘訣を教えてください。
菊池:弊社は結果的に「ロングセラー製品」を終売させていないだけで、「ロングセラー製品を作り出す事」が目的ではありません。文具市場は、これでもか!と言わんばかりに毎日新製品が発売されていて、新しいものを作り続けねばならない星の下にあるんです。

本間:たしかに、文具売り場ではいつもなにかしら新商品を見かけます。

菊池:そんな不易流行な文具市場において、なぜ弊社には「ロングセラー製品」が多いのか、また製図用シャープペンには特にその傾向が多いのか?その理由は弊社の “品質へのあくなきこだわり” に他なりません。

弊社ブランドビジョンに「先っぽ技術」「色にこだわる」「敷居を下げる」という3つがあるんですが、その中でも「敷居を下げる(お客様に使いやすい製品をお届けする)」に関しては、特に品質が関わっていると捉えています。

「オレンズネロ」という、2017年に発売した定価3,000円のシャープペンシルがあります。こちらは “技術とプライドの結集” のような製品でして、結果的にかなり高額な仕様になってしまいました。しかしながら、お客様にとって必要な価格帯は死守しよう。ということで、本来でしたらもっと高額になってしまうところを3,000円に価格設定したという経緯があります。

菊池:「オレンズ」のフラッグシップモデルにするという方針のもと、オーバースペックと思われるかもしれないですが、考えられる機能はすべて載せています。
そうしたら、ありがたいことに量販価格のシャープペンと同じくらいにご購入いただけたんです。狙って発売したわけではないですがヒットしたな......という(笑)

本間:ぺんてるさんの熱意がお客様にも届いたともいえますね。フォントの例えで恐縮ですが、墨だまりをフォントで再現したA1明朝A1ゴシックという書体がありまして、これもある意味オーバースペックなのかもしれません。
ユーザーの皆さんでも十分加工できるのですが、一文字一文字こだわって開発したら、結果的によく使っていただける書体になりました。

ちなみに、A1ゴシックについてはモリサワのnoteで記事を公開しているので、詳しく知りたい方は読んでいただけると嬉しいです!

田島:おお!またもやシャープペンとフォントの共通点発見!もしかしたら “すぎるこだわり” をもったものは、ロングセラーになりやすいのかもしれません。シャープペンもフォントも、意外な用途で心にささってヒットするという共通点はあるかもしれないですね。
作り込まれているだけに、結果的にストーリーなのか熱意なのか、何かがユーザーにささる。 “すぎるこだわり” がないものは、ロングセラーになる資格がないのかも、なんて思ったりもします。

菊池:そうですね。ロングセラー製品を作り出そうという発想で開発された製品は多分当社には存在しなくて、「品質とプライド」そして「お客様」の事を考えた技術の結集が、他のメーカーの追随を許さずに結果として「ロングセラーになっている(販売を継続している)」のではないかと考えています。

―どんなプロダクトでも、お客様のために熱意をもって作ったものは必ず伝わる。物作りをしていく上で、とても大切な考え方だと思いました。本日はありがとうございました!

3. おわりに

シャープペンとフォントの思いもよらぬ共通点から、ぺんてるさんの商品への思いまで、様々なことをお伺いできました。ありがとうございました!この記事に載せきれなかったお話もたくさんあったので、またどこかでコラボが実現したら嬉しいです。

また、ぺんてるさんも「ぺんてる シャープペン研究部」としてnoteを書かれています。こちらも是非ご覧ください。

それでは!手書きとフォント、どちらにも愛を込めて。(担当:M)