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pt? 級? 号? 文字に関する単位の話

みなさんこんにちは。
今回の「文字組版の教室 note版」では、文字組版における基本となる「単位」についてご紹介したいと思います!

みなさんは普段お使いのアプリケーションで文字サイズの設定をする際、どのような単位を使っていますか?
例えば「pt(ポイント)」は一般的な文書作成ソフトなどでもよく使われていますね。
また、印刷・デザイン業界では「pt」のほかに「級(Q)」「号」といった単位を使用することもあります。

普段あまり単位を意識しないで作業している方もいらっしゃるかもしれませんが、単位が異なることによって想定とは違うデータになってしまうこともあります。文字組版を行う上では単位について正しく理解することが大切です。


主な文字の単位

文字の単位は活版印刷から写真植字、DTPといった印刷業界の歴史と深く結びついています。
今回はそういった印刷の歴史にも軽く触れながら、文字の単位を見ていきます!

pt(ポイント)

まずは、みなさんもよく目にするであろう「pt(ポイント)」からご紹介します。
普段からよく使う「pt」ですが、注意してほしい点が1つあります。それは、「pt」にもいくつか種類があり、mm換算の結果がそれぞれ異なることです。

Microsoft Wordの文字サイズの単位は「pt」

現在、主流なのは「DTPポイント」と呼ばれるもので、1pt=0.3528mm(1/72インチ)です。
Microsoft Officeやアドビのソフトには、この「DTPポイント」が採用されています。(アドビのソフトでは一部設定が変更できるものもあります)

他にも、「JISポイント」というものがあります。
これはその名の通り、日本の産業規格「JIS」で定められている活字の寸法で、1pt=0.3514mmです。(※JIS Z 8305-1962「活字の基準寸法」より)
この単位は米国などで普及していたので、アメリカンポイント(アメリカ式ポイント)とも呼ばれています。

これら1ptの差はたったの0.0014mmと非常に微量ですが、例えば文字サイズ10pt、1行30字で文字を組むと、0.42mmのズレが生じます。これは決して無視できない違いですよね。

同じアプリケーションでも異なるポイント設定を使って作業した場合はこのように誤差が出てしまうので、あらかじめ単位について確認しておくことが必要です。
(アプリケーションでの単位の設定は後述の「Illustrator、InDesignでの単位設定」の項目をご確認ください)

級(Q)

左:万能型手動写真植字機「MC-6型」(1967年)  
右:メイン文字盤。収納文字数は3,402字。

きゅう(Q)」は写真植字の時代から使われている日本独自の単位で、1Q=0.25mmとなります。
「Q」と表記するようになった由来は諸説ありますが、1級は1mmの1/4(Quarter)であることが関係しているのでは、と言われています。

また、手動写植の頃には文字の送りに歯車を使用していたことに由来し、文字送り・行送りについては(H)」という単位を使用します。この「歯(H)」も「級(Q)」と同様に1H=0.25mmとなります。

1Q=0.25mmなので、4Q=1mmとなります。非常に覚えやすく、計算もしやすいですね。
特に紙媒体での組版においては、紙のサイズがmm単位なので単位を揃えることができ、版面の設計がしやすいです。

ちなみにモリサワはもともと写真植字機を作っていた会社でした。
「写真植字機について詳しく知りたい!」という方は、ぜひモリサワのホームページにある「文字を組む方法 第五回」もご覧ください!

活字の棚

ごうは、活字における文字の大きさを示す日本独自の単位です。
活字は直方体の金属などに掘られた1文字ずつのハンコのようなものですが、そのハンコの文字部分の大きさがこの「号」のサイズで決まっていました。

初号(42pt)が最も大きく、そこから一号(26.25pt)二号(21pt)……とだんだん小さくなっていきます。
初号、一号、三号の3種の文字サイズを基準に、それぞれの縦横の寸法を半分にしたものが二号、四号、六号……と続いていき、八号までの9種類があります。
ポイントや級と違って、各名称についている数字と実際のサイズがリンクしていないので、少しわかりづらいかもしれません。

また、この「号」は時代によって大きさの定義が少し違い、JIS規格(JIS Z 8305-1962「活字の基準寸法」)で初めて規格として活字の大きさが定義されました。
それまで使われていた活字では、上の図でいう縦の倍数関係があまり考慮されていない大きさでしたが、JIS規格では「五号の1/8(1.3125pt)」をベースに倍数関係が成立するよう、サイズが定義されました。
なお、JIS規格制定後も以前の活字サイズが主流だった地域もあるようです。

この「号」という単位⾃体は現在のDTPではほとんど使われていませんが、Microsoft Wordでは本文の文字サイズのデフォルトが10.5ptになっており、これは昔の公文書などで本文用として主に使われていたのが「五号活字」であり、それに最も近いポイントのサイズが10.5ptだったことに由来しているようです。
意外な所で「号」から「ポイント」に移行したときの名残が見られて面白いですね。

Illustrator、InDesignでの単位設定

ここまでさまざまな単位をご紹介してきましたが、IllustratorやInDesignでは各アプリケーションの「環境設定」にて単位の設定を行うことができます。

いずれも、制作を始める前に設定を確認するのがおすすめです。

相対的な単位

「アキ」を示す際に使用する単位の表記

次に、文字組版において「アキ」を示す際に使用する単位の表記についてご紹介します。
例えば、みなさんも「全角アキ」や「半角アキ」などはよく使いますよね。
まずはアキを示す単位を理解する上で重要な、日本語の文字の設計について見ていきます!

日本語の文字は一般的に正方形に収まるように設計されており、この正方形に相当するところを「仮想ボディ」と呼びます。
そして「仮想ボディ」の中に実際の文字部分である「字面」が収まっています。
「字面」の大きさは書体によって異なり、「仮想ボディ」いっぱいにデザインされているものもあれば、比較的小さくデザインされているものもあります。また、かなは漢字よりもやや小さめです。

これらの「仮想ボディ」や「字面」はもともと活字に由来する言葉です。「字面」は、本来活字に彫られている字の表面のことで、活字そのものをボディと呼んでいました。
現在は1文字ごとに活字のような実体がないため、ボディに相当する枠を「仮想ボディ」と呼び、文字の形をした部分(=字面)が収まる枠を「字面枠」と呼んでいます。

アキを示す単位の話に戻ると、「全角アキ」というのは、より厳密に言うと仮想ボディ分のアキということになります。

一般的なドキュメント作成ソフトなどでも「全角アキ」「半角アキ」は入力できますが、DTPのソフトではさらに三分さんぶアキ」「四分しぶアキ」「二分四分にぶしぶアキ」「八分はちぶアキ」といったアキの設定が準備されていることが多いです。「三分」は全角の1/3のサイズということですね。「二分四分」という言い方はあまり一般的ではありませんが、二分(50%)+四分(25%)で全角75%のサイズ、つまり全角の3/4のサイズを指します。

これらは仮想ボディに対しての「相対的な単位」です。

em

同じく「相対的な単位」としてemエムがあります。
欧米では「em quad」とも呼ばれ、文字サイズ1文字分のスペースとして段落の字下げなどの用途で使われており、日本でも同様に「emスペース」と表します。
なおemスペースの1/2の幅のスペースは「enエンスペース」と表します。

IllustratorやInDesignでは、[書式]>[空白文字を挿入]からemスペースやenスペースなどの相対的なスペースを入力できるようになっています。

「emなんて単位は使ったことがない」と思っている方でも、IllustratorやInDesignのカーニングやトラッキングの機能は使ったことがあるかもしれません。

左がカーニング、右がトラッキング

これらの値は、いずれも1/1000em単位で指定します。1000/1000emで1em、つまり1文字分のサイズを表します。
そのため例えばカーニングで-10とした場合、それは「-10/1000em」を指定していることになり、文字サイズの1/100の量のカーニングが設定されるということになります。


単位について正しく知り、アプリケーションの環境設定を整えることで、意図した通りの制作をしやすくなります。
ぜひ普段のお仕事にもお役立てくださいね。

ではまた次回の更新をお楽しみに!


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