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なんとなく使っていませんか? 括弧の種類と使い分け

突然ですが、質問です!
以下の文章で、登場人物が実際に声に出して言っている部分と、心の中で思い浮かべている部分はどこでしょうか。

「みんなはね、ずいぶん走ったけれども遅れてしまったよ。ザネリもね、ずいぶん走ったけれども追いつかなかった」と言いました。
 ジョバンニは、
(そうだ、ぼくたちはいま、いっしょにさそって出かけたのだ)とおもいながら、
「どこかで待っていようか」と言いました。

青空文庫 宮沢賢治『銀河鉄道の夜』
https://www.aozora.gr.jp/cards/000081/files/43737_19215.html

答えは簡単ですね。
「 」の中の言葉が声に出して言っている部分、( )の中の言葉が心の中で思い浮かべている部分です。
前後の文章からも読み取れると思いますが、括弧の使い分けがされていることで、より分かりやすくなっています。

このように括弧類は主に文章内で会話・引用・強調などの用途で使われますが、普段はなんとなく使っているという方が多いのではないでしょうか。
今回はこの括弧類に焦点を当ててみたいと思います!


括弧の種類と主な使い方

括弧類の使い方には、正式な決まりはないものの、おおよそのルールがあります。ルールから大きく逸脱すると読む側が混乱してしまう可能性があるので、ルールを把握しておくことは大切です。
まずは主な括弧類についてまとめた表をご覧ください。

どれも見たことがあるものばかりですが、どのように使い分けるかと聞かれると、少し迷ってしまうものもありますよね。
そこで、用途別に見ていきましょう。

説明の補足・注記

ある事項に対して補足・注記を加える場合、丸括弧(パーレン)を使用します。
本文中に1行書きで補足説明をする「挿入注」にも丸括弧(パーレン)を使用します。出典名や参照ページなどについては、文字サイズを小さくすることで注記であることがより分かりやすくなります。

発言の提示

上:発言部分にカギ括弧を使用している例
下:発言部分にダブルクォーテーションマークを使用している例

人物の発言部分はカギ括弧を用います。横組では ダブルクォーテーションマーククォーテーションマークも使用されます。
なお冒頭の例のように、小説・ゲーム作品などでは、会話に表れない心情表現や外国人・動物のセリフの訳文であることを示すために丸括弧(パーレン)が用いられることがあります。

名称の提示

一般に論文名はカギ括弧(またはクォーテーションマーク)、書名は二重カギ括弧(またはダブルクォーテーションマーク)でくくります。

引用

上:引用部分にカギ括弧を使用している例
下:引用者の補足説明部分にブラケットを使用している例

引用の際はカギ括弧ダブルクォーテーションマーク、もしくはクォーテーションマークを使用します。
また引用文中に引用者の補足説明をつける場合、縦組では亀甲、横組ではブラケットを使用します。(詳しくは後述する「横組・縦組で異なる字形を使用する場合」の「ブラケットと亀甲」の項目をご参照ください)

強調

上:強調したい部分にカギ括弧を使用している例
下:強調したい部分に山括弧を使用している例

文章内に強調したい部分がある場合、カギ括弧ダブルクォーテーションマーク、クォーテーションマークを使用します。
文中で特別な扱いにする語句、あるいは強調する語句を示す場合に山括弧二重山括弧を使用することもあります。

括弧類を使用する際の注意点

括弧類を入れ子にする場合

セリフの中に別のセリフが出てくる場合など、カギ括弧の中にさらにカギ括弧を用いる場合は、「『 』」のように二重カギ括弧を用いる方法が一般的です。
また、小カギと呼ばれる括弧を用いることがあります。小カギとは、カギ括弧、二重カギ括弧の縦・横の線を短くした文字です。

この方法では、引用などで原文のカギ括弧をそのまま小カギで区別して組むことができるため、便利です。
ただし、小カギは使用する組版システムやフォントによっては必ずしも準備されているわけではないのでご注意ください。

上:カギ括弧の中に二重カギ括弧を使用した例
下:カギ括弧の中に小カギを使用した例

また、パーレンでくくる補足内でさらに補足を加える場合、(( ))のように一般にパーレンでくくります。同じ括弧なので誤解される恐れもありますが、意味・内容から判断できることが多いです。

これに対して、[{( )}]または{[( )]}といったように異なった括弧でくくる方法もあります。数式や化学式でよく見る方法ですね。一般の文章でも、まずは[ ]でくくり、その中を( )とする例もあります。

横組・縦組で異なる字形

  • ダブルクォーテーションマークとダブルミニュート

フォントによってデザインが異なり、ダブルクォーテーションマークでも勾玉のようなデザインになっていないものもあります。

ダブルクォーテーションマークは横組、ダブルミニュートは縦組で使用します。
普段Adobeソフトを使用している方は、縦組でダブルクォーテーションマークを入力しようとして、適切な位置に来なくて苦労した経験はないでしょうか?
単語などを強調する目的でダブルクォーテーションマークを使うときがありますが、これは横組で使用する字形のため、縦組の場合にはふさわしくありません。そのため、一般的なフォントでは縦組用のタブルクォーテーションマークは搭載されていません。
縦組ではダブルミニュートを使用します。ダブルミニュートは別名「チョンチョン」と呼ばれることもあり、勾玉のような見た目のダブルクォーテーションと比較すると、すっきりとしたデザインです。

また、ダブルクォーテーションマークは左側と右側に配置する文字の形が似ているため、使用する際は順番を間違えないように気を付けてください。
基本的に左側に配置する文字が「6」、右側に配置する文字が「9」に似ているため、「数字が小さい方が先に来る」と覚えると覚えやすいかもしれません!
使用したい時は「かっこ」と入力して、変換候補一覧から左右セットのダブルクォーテーションマークを探しだすと順番を間違えることはなさそうですね。

  • ブラケットと亀甲

先述の「引用」でも紹介しましたが、引用文中に引用者の補足説明をつける場合、横組ではブラケット、縦組では亀甲を使用します。

ただ、このような考えは編集の現場でもあまり意識されなくなり、亀甲が横組で使用されるシーンも増えてきているようです。

似ている括弧に注意

以下の組み合わせは形が似ているので混同しやすいです。入力時には気を付けてくださいね!

  • 〈 〉(山括弧)と< >(数式不等号)

  • 《》(二重山括弧)と« »(ギュメ)と< >(数式不等号)

また、括弧には日本語組版に適した字形と、欧文組版に適した字形があります。括弧の形自体は似通っているものの、配置される高さが違ったり、太さが違って悪目立ちしたりすることがありますので利用時は注意しましょう!

InDesignやIllustratorでは、字形パネルで確認すると確実です。

この記事も公開当初、一部の図に欧文用ダブルクォーテーションが紛れ込んでいました。(一部読者様からご指摘をいただき、現在は修正済みです。)

※2024/4/17 追記・修正

外国語組版における括弧

ここまで日本語組版での括弧類の種類や使い方について見てきましたが、外国語組版ではまた異なったルールがあります。
今回は欧文組版と中国語組版における括弧の使用方法について、少しだけご紹介します。

欧文組版における括弧

欧文組版で使用するのは主に以下の括弧類です。

  • ( ) パーレン

  • [ ] ブラケット

  • { } ブレース

  •  ‘ ’ クォーテーションマーク

  •  “ ” ダブルクォーテーションマーク

パーレンは補足したい情報がある場合などに使用し、ブラケットは元の引用にはない単語を引用符内に入れる場合などに使用します。
ブレースは文章中に使用されることはありませんが、見出し的な要素で、数行分をまとめて囲むデザイン要素として使用することはあります。

またクォーテーションマーク、ダブルクォーテーションマークは和文組版におけるカギ括弧・二重カギ括弧の役割をする記号になります。
入れ子にする場合、アメリカ英語ではダブルクォーテーションマーク、クォーテーションマークの順で使いますが、イギリス英語ではその逆になります。

フランス語とイタリア語では「ギュメ(guillemets)」を使います。
和文組版ではほとんど使用しない文字ですね。

同じ欧文組版でも、国が変わると使う文字やルールが変わります。
以下の記事では欧文組版における約物について取り上げていますので、ぜひご参照ください!

中国語組版における括弧

続いては中国語組版についても簡単に見ていきます。中国語の表記には繁体字と簡体字の2種類がありますので、それぞれご説明します。

  • 繁体字
    繁体字を使用するのは、台湾と香港、マカオが中心です。
    繁体字では、日本語の会話に使うカギ括弧 や二重カギ括弧をそのまま使用します
    。固有名詞を指す場合にも使われるケースがあり、使い方は日本語とほぼ同じです。また、パーレンは文中の注釈に使用し、書籍名などの引用には二重山括弧や山括弧を使用します

繁体字の組版ルールの詳細については、こちらをご参照ください!

  • 簡体字
    簡体字は中国大陸、シンガポール、マレーシアなどで広く使われています。
    簡体字では、会話を表記する場合は ダブルクォーテーションマークや クォーテーションマークを使います
    基本的に、カギ括弧、二重カギ括弧は使いません。括弧を入れ子にする場合、内側の括弧には山括弧を使います。また、二重山括弧は書籍の名前や法律名などの引用を示します

簡体字の組版ルールの詳細については、こちらをご参照ください!

いかがでしたでしょうか。
今までなんとなく括弧を使っていたという方も、今後はぜひ気にしてみてくださいね。

それではまた次回もお楽しみに。


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