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多言語の組版ルール【簡体字編】第2回 簡体字の組版

中国語の表記に用いる「簡体字」について、今回は文字組の基本ルールをご紹介します。

簡体字の入門編は、前回の記事をご覧ください。

組み方向と文字の揃え

組み方向は、「横組み」が主流です。デザイン的なアクセントや見出しなどでは縦組みもありますが、基本的には左から右に読む横組みが基本となります。

また、簡体字は基本的に正方形の仮想ボディにデザインされているため、文字は日本語と同じように仮想ボディの中央で揃えるとよいでしょう。
そして、簡体字は箱組みが基本なので、文字揃えは「均等揃え」を使用。句読点は追い込みます。

一般的な文字サイズと字間

文字サイズの単位は、中国国内では「号数」が使われますが、Adobe InDesignなどのレイアウトソフトではサポートしていないため、現在では「ポイント(pt)」が多く使われています。
一般に本文サイズで使われるのは8pt前後で、6pt以下のサイズが本文に使われることはまずありません。

文字間は基本的にベタ組みです。ただし、漢字と数字の間は四分アキとなります。

行間と段組み

行間と段組は、基本的に日本語組版のルールを踏襲して構いません。
ただし中国語の場合、文章が長くなると漢字が続いて読みづらくなってしまうため、横組みで文字数を多く取りません。この場合、20字前後で段組みして、可読性を確保します。
また、書籍などで段組を行なわない場合は、左右マージンを大きく取って、文字数を調整します。

字下げとインデント

段落の起こし(インデント)部分は、「2字下げ」が絶対的なルールです。
Adobe InDesignやAdobe Illustratorの「 文字組み」設定にある「簡体中国語(標準)」は、「段落字下げ」が「なし」になっているので、最初に「2字下げ」の設定を作成しておきましょう。

「文字組みアキ量設定」のダイアログから「簡体中国語(標準)」を開き、「段落字下げ」を「2文字」に変更したものを作成します。

句読点に相当する文字

句点には「。」(全角マル)、読点には「,」(全角カンマ)を使います。日本語で読点として使う「、」(全角テン)は、『東京、品川、新横浜』といった具合に、言葉を並列に列挙する際に使います(公文書や論文などの場合は、句点に「.」を使うこともあります)。
句読点の配置は、日本式の「。」と同様で仮想ボディの左下になります(現代中国語では稀な縦組みの場合も、日本式と同様で仮想ボディの右上に配置します)。
文章が続いたときに漢字が並ぶと読みづらくなってしまうので、リズムを考えて読点をつけることが重要です。

また、间隔号と呼ばれる「·」(ナカグロ)は、外国人名の表記などに使われます。

括弧に相当する文字

括弧の使い方には、さまざまなルールがあります。たとえば、括弧内に何らかの説明を加えるための二重括弧の場合、内側の括弧には〈 〉を使います。
また、《 》は書籍の名前や法律名などの引用を示し、会話を表記する場合は「“ ”」(二重引用符)や「‘ ’」(一重引用符)を使います。
基本的に、「 」(カギ括弧)、『 』(二重カギ括弧)は使いません。

疑問符、感嘆符に相当する文字

疑問符は「?」、感嘆符は「!」を使用します。基本的に日本語の使い方と同じです。ただし、疑問符や感嘆符の後ろを全角1字あけをする必要はありません。

ダーシ「—」は2字重ねて使用(「——」)します。用途は文章の連接や説明のための語句を示す場合です。
また、省略記号のリーダーは「……」と3点ではなく6点になります。

ほかの言語が混在する時の表記

中国語は、基本的にすべて漢字で表記します。そのため、人名や国名など、日本語ではアルファベットやカタカナで表記するものも漢字に置換えられています。
たとえば、「アメリカ合衆国」は「美国」、「レオナルド・ダ・ヴィンチ」は「列奥纳多·达·芬奇」と表記します。いわゆる発音から漢字を当てた“当て字”ですが、縁起の悪い意味をもつ漢字は使われません。
ただし、最近では英語やほかの言語を中国語に置換えず、そのまま表記する用例も増えてきました。
たとえば、「DTP」、「CTP」、「CMS」といった略語や固有名詞、西洋文学などのタイトルや著者名、年号や数量を表す単位などが、漢字に置換えないものとして挙げられます。

また、人名や国名など従来中国語として認知されているものでも、編集者や著者の一存で、中国語かオリジナルの言語を使うかを選択できます。中国語フォントにもアルファベットは収録されているので、ひとつのフォントで組版を行なうことは可能です。
英数字は、年号や項目別の番号、化学記号、数式などに使い、漢字と数字、アルファベット文字の間は四分アキにします。

また、中国語組版は「両端揃え」が基本ですが、英単語が行末になった場合は、トラッキングで調整するか、英数字と漢字のアキを四分から半角に開けるかで対応します。

縦書きの場合、日本語と同じように文字を起こして組む方法、2桁までの数字は「縦中横」を指定する方法を採ることもあります。

言語独特の文字、間違いやすい文字

日本語に「大晦日」という独特の言葉や、「郵便番号」や「フリーダイヤル」といった独自の記号があるように、国が違えば独特の表記方法があります。
たとえば中国では、「〒」マークは使いません。名刺などで郵便番号を示す場合は、「邮编(邮政编码の略称):○○○─○○○○」となります。
そして、日本語ではアラビア数字を用いるような場合も、中国語では習慣的に漢数字を使っている用語は漢字を使います。また、数値を表記する場合、桁数を示すカンマは5桁以上にならないと入れません。

なお、日本語で注書きなどで多用する「※」(米印)は、使われません。中国語では「*」(アスタリスク)が使われるので、レイアウトに使わないように、テキスト入稿時や校正時に注意しておきましょう。

同じ漢字を使う国同士でも、日本語と中国語では使い方や用例が違う文字がたくさんあります。代表的なものが「々」や「〃」といった踊り字です。
日本語では前に続く文字と同じ文字を示す用途に使われますが、基本的に中国語では使われません。そのため、地名の「代々木」は「代代木」となり、感謝の意味を表す「谢谢」は「谢々」とはなりません。
また、似たような文字で住所などに使われる「ヶ」は日本の文字なので中国語で使われません。

これらを念頭に入れておき、間違いを防ぎましょう


ここまで、簡体字組版をする際に気をつけたい基本ルールをお伝えしました。次回は、Adobe IllustratorやInDesignを使った、より実践的な手法をご紹介します。

*この記事は『MORISAWA PASSPORT 英中韓組版ルールブック』の内容を抜粋・加筆したものです。