見出し画像

まだあります新書体2020〜字游工房書体全部みせ!〜

2020年度から、MORISAWA PASSPORTに字游工房書体全46書体が追加されました。この記事では、追加される各書体の特徴やこだわりのポイントをご紹介します。プレゼントのお知らせもありますので、最後までお見逃しなく!(※モリサワの2020年新書体記事はこちらからご覧ください。)

1. 字游工房について

有限会社字游工房は、本文書体や伝統的な書体を多く手掛け、ベーシックな書体の制作を得意とするフォントメーカーです。2019年3月1日より、モリサワのグループ会社となりました。

note_字游工房5_アートボード 1

今回、字游工房の基幹書体ともいうべき「游明朝体」「游ゴシック体」、大正時代の金属活字をベースにした「游築見出し明朝体」、太くうねりのある「游勘亭流」、かな書体としては情緒豊かな「游明朝体五号かな」「游明朝体36ポかな」など、組版の表情が広がる様々な書体がラインナップに加わります。

それでは、各書体についてじっくりみていきましょう!

2. 游明朝体

note_字游工房-02

游明朝体」は “時代小説が組めるような明朝体” をキーワードに開発された、落ち着きのある明朝体ファミリーです。文字の空間が均一に見えるような設計や柔らかな曲線が、明るく品のある雰囲気を演出します。

note_字游工房7-02

また、長時間見ていても疲れないように、点の起筆、ハライの先端、ハネの先端などを丸く処理しています。同様の理由で横画の終筆のウロコなどにも丸みがあります。
このような細やかな処理が明るく品のある雰囲気を演出しているんです!

note_字游工房1210-03

ウエイトで展開は、“L・R・M・D・B・E” の6つですが、見出しに特化した “B” と “E” は他のウエイトと骨格が異なり、ふところが狭く引き締まったデザインになっています。この違いについて、担当デザイナーの鳥海修さんは開発当時、こう語っています。

読むことが主体の本文用書体に対して、見出し用書体は見る要素が強くなります。つまり見る人にある程度のインパクトを与える必要があります。
そうした要件を満たすために、漢字においてはつき出し(注)を付けるなど、一点一画をしっかり見せる処理をしました。同時に仮名においても、ベーシックという路線を踏襲しながら、ある程度主張すべく、力強いエレメントと引き締まった骨格を持たせ、若干小さくデザインすることによって、本文用とは必然的にデザインが異なりました。
《引用者注》つき出し:ここでは横画と接する縦画の起筆にある装飾のこと
《引用》游明朝体 E開発ノートより

こちらのインタビューを含む開発ノートは、字游工房のWEBページで公開されていますので、興味がある方は是非のぞいてみてくださいね!

3. 游築見出し明朝体

note_字游工房-04

游築見出し明朝体」は、大正時代の金属活字をベースに制作された伝統的な見出し明朝体です。当時の職人の手によってひと文字ずつ彫られた字形が尊重されており、大らかな印象を与えます。 

note_字游工房4_1210-09

明朝体の伝統的なデザイン処理である “はちやね“ “ひっかけ” を積極的に採用するなど、当時の作風を踏襲しつつも、昨今の利用に耐えうるデジタルフォントとして丁寧にリファインされています。

note_字游工房2_アートボード 1

このように、装丁やエディトリアルデザインのタイトルなど、見出しとして効果を上げる書体です。 

また、OpenTypeフォントの字形切り替え機能が利用できない場合でも異体字が使えるように、 異体字のみをマッピングしたフォント「游築見出し明朝体 Alt」も同時に提供しています。

note_字游工房-05

並べてみると、デザインが違うのがわかりますよね。
ぜひ、場面に合わせて使い分けて味わいを感じてみてください。

先日行われたオンラインイベントで、字游工房の岩井さんが「游築見出し明朝体」について熱く語ってくださっていますので、こちらのレポート記事も要チェックです!

4. 游ゴシック体

note_字游工房-06

游ゴシック体」は、長文でも読みやすいスタンダードなゴシック体ファミリーです。 字面を小さめに設計し文字間にゆとりを持たせているので、小サイズで組んだときも一字一字が識別しやすく、 読みやすい組版を実現します。

note_字游工房3-07

商業印刷などの高精細な環境でも目にやさしくうつるように、エレメントに小さな丸みをもたせたり、打ち込みやハライに筆のイメージを残すことで、 柔らかく穏やかで、誠実な表情を演出できるゴシック体になっています。

エレメントの丸みについてはルールがあるようで...
こちらも「游明朝体」と同じく開発ノートで詳しく解説されています。

note_字游工房10-02

7つのウエイトで構成され、キャプション・本文から小見出し・大見出しまで幅広い用途に対応します。
なかでも “L” は特殊な位置づけで、見出し用としても本文用としても使える使用範囲の広い書体です。オーソドックスな骨格、極細の線幅、なめらかな線質は、繊細な雰囲気を醸し出します。

5. 游教科書体 New・JKHandwriting

「游教科書体 New」と「JKHandwriting」は、東京書籍株式会社と共同開発された書体です。それぞれの特徴をみていきましょう!

note_字游工房-08

游教科書体 New」は、筆順や筆法など、教育現場で求められる条件を満たす教科書体です。 縦画と横画の太さの差が少なく、簡潔で穏やかな筆の運びになっています。
国語や書写に適した縦組み用と、算数や理科に適した横組み用の2種類のフォントが提供されるのも特徴のひとつです。

note_字游工房2 [復元]1209-08

それぞれの仮名を比べてみました。
縦組み用の仮名は、書写の書き文字に準じて仮名のもつ固有の形を尊重しつつ、読みやすさを損なわないようにデザインされています。
一方横組み用の仮名は、算数や理科、社会などで算用数字と混ぜて使われることが多いため、漢字、仮名、数字がバランスよく並ぶように、仮名の大きさを揃えているんです。

note_字游工房6-03

こうして背景がわかると、用途に応じて使い分けてみたいなって思いますよね。ここで、教材作りに役立つフォントをもうひとつ。

note_字游工房-09

JKHandwriting」は、甲南女子大学の准教授村上加代子さんのアドバイスを受け、開発された欧文書体です。
筆記用具にならった親しみやすい丸ゴシックタイプのエレメントで、初めて英語を学ぶ児童にも 学びやすいデザインになっています。また、弱視の児童に配慮した字形を採用するなどの工夫も取り入れられています。

note_字游工房2-04

5段階のウエイトに加え、イタリック体、4線付通常フォント・4線付なぞり書き用フォントの合計8書体が提供され、学校での教材作りなどを助けます。
4線付を手書きで引くのは、手間がかかりませんか?そんな時はぜひ「JKHandwriting」を思い出していただければと思います。

6. 游勘亭流

note_字游工房-10

游勘亭流」は、勘亭流の特徴でもある太くうねりのある運筆を継承しながら、 読みやすさも意識してアレンジされた書体です。

勘亭流:
江戸時代に作られた歌舞伎の看板などに書かれる、伝統的な肉太の縁起文字

実はモリサワのライブラリーにも「勘亭流」がありまして、並べてみると結構違うのがわかります。

note_字游工房1210-11

ひらがなの  “う” は「游勘亭流」の方がよりうねった形になっていたり、一見同じに思える勘亭流の中にもデザインのバリエーションがあるというのがおもしろいですよね。奥が深そうです。

note_字游工房2-06

歌舞伎っぽく組んでみました。ちなみに、たっぷりとした太さの由来は、歌舞伎の公演にお客さんが隙間なく入るようにとの願いがこめられたもの、ということだそうですよ!

7. 表情豊かな「かな書体」

note_字游工房4-05

左上から、「游明朝体五号かな」「游明朝体36ポかな」「游築初号かな」「游ゴシック体初号かな」です。

書体名に “かな” とついている通り、これらは文字セットに漢字を含んでいない “かな書体” です。同じかな書体でも、それぞれ個別の文字セットを採用しています。文字セットの詳細については、サポートページをご参照ください。

では、それぞれの特徴についてみていきます。
4書体いっきにご紹介しますので、ついてきてくださいね!

note_字游工房2 [復元]-11

游明朝体五号かな」は、明治時代に制作された本文向けサイズの金属活字をベースにつくられたかな書体です。 游明朝体の標準かなより字面が少し大きく、ゆったりとした柔和な線が特徴です

游明朝体36ポかな」は、五号かなより少しあと、大正時代に制作された見出し向けサイズの金属活字をベースにデザインしたクラシカルなかな書体です。毛筆の表現力を活かした表情豊かな線と、独特のスタイルを持った字形が大きな特徴です。

note_字游工房1211-03

この2書体は、游明朝体の漢字と組み合わせることを想定しています。
「游明朝体五号かな」は見出しや雑誌の本文を古典的で穏やかな表情に、「游明朝体36ポかな」はタイトルや見出しなど大きなサイズで使うことで、その個性がより一層引き立ちます。

note_字游工房4-12

游築初号かな」は明治・大正時代の金属活字をベースにデザインした、見出し用のかな書体で、 「游築見出し明朝体」の漢字と合わせて使えるように設計されています。
「游築見出し明朝体」のかなと比べて太く、どっしりとした重厚感が特徴で、一部の字種に “異体字” が搭載されているのもポイントです。

note_字游工房3-13

游ゴシック体初号かな」は、金属活字時代を代表するクラシックなゴシック体をベースにデザインされたかな書体です。名前の通り、游ゴシック体との組み合わせを想定しています。 
表情の違うかなや明朝体風にアレンジされた句読点や記号類が、「游ゴシック体」のベーシックな印象の組版にまた違った表情を生み出します。 

4書体それぞれ、字游工房書体の漢字と組み合わせることによって、さらに表現の幅が広がります。ぜひその表情の違いを試してみてください。

8. 見本帳プレゼントキャンペーン

字游工房書体全46書体、それぞれ魅力的ですよね!!
これらがMORISAWA PASSPORTに追加されたことで、モリサワの基本書体のラインナップがさらに強化されました。2020年11月12日からダウンロードを開始していますので、実際に使っていただけると嬉しいです。

また、モリサワの新書体と合わせて今年度の新書体見本帳に掲載されています。まだ持っていない...という方もご安心を。
2021年1月末まで “2020年新書体見本帳プレゼントキャンペーン” を行っています。記事の最後のリンクから、ご応募お待ちしております。
※キャンペーンは終了いたしました。たくさんのご応募ありがとうございました。

ここで、最後までお読みくださったみなさまに感謝を込めて、ここでスペシャルなお知らせです。
次回はなんと、これまで数々の書体を手がけてきた字游工房の書体設計士、鳥海修さんのインタビュー記事の予定です✨
楽しみですね〜みなさんもお見逃しなく!

それではまた次回お会いしましょう(担当:M)