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自然な文字の形を追求した「あおとゴシック」【2021年新書体】

今回の「フォント沼なハナシ」は、リリース目前の2021年新書体から一足お先にあおとゴシックのご紹介と開発秘話をお届けします。

リリースまでに少しでも新書体を身近に感じていただけたらうれしいです。

1.オンスクリーン向けの本文書体

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あおとゴシックはスマートフォンやタブレットといったデジタルデバイス上での本文利用を目的に制作された書体です。
長文も自然に読める素直でクリーンな印象のゴシック体を目指して開発されました。

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ウエイトは、ELからEBの7ウエイト展開です。
ELからDB までの5書体は長めの文章組での使用を想定し、漢字をやや小ぶりに設計して風通しをよくしています。
一方、B とEB では小見出しなどでの使用を想定してまとまりが出るよう、比較的タイトに設計しています。
とくに、本文利用を想定しているELからDBまでの5書体は、従来のゴシック体ファミリーに比べて太さの段階の差が少なく設定されています。そのため、オンスクリーン上での解像度や明るさ、ダークモードなどのテーマといった利用環境に合わせて、微細かつ最適なウエイト選択をすることが可能です。

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文字セットはStdN(Adobe-Japan 1-3)に加えて欧文イタリックを搭載しています。
そのため、文中でイタリック体が必要なシーンでも、他の欧文書体を混植することなく、あおとゴシック1書体で対応できます。

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デザインだけでなく仕様の面でも、本文利用で使いやすい書体になっています。

2.「ニュートラル」が特徴のゴシック体

あおとゴシックのデザインの特徴を一言で言い表すと"ニュートラル"です。
といっても、よくあるゴシック体を見分けるのが難しいように、言葉で聞いても具体的にどんな特徴があるのかイメージしづらいですよね。
実際に従来のゴシック体と見比べてみると、あおとゴシックの特徴が掴めてくるかもしれません。

・ややモダンなスタイル

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幾何学的なモダンスタイルに分類される「新ゴ」、有機的なオールドスタイルの「中ゴシックBBB」と並べてみました。
あおとゴシックはシンプルな設計でどちらかというとモダンな印象ですが、新ゴほどストロークが水平垂直ではなく手書きの風合いが残る自然なエレメントで構成されています。
また、従来のモダンスタイルのゴシック体は字面が大きいものがほとんどでしたが、あおとゴシックは仮想ボディに対して余裕を持った設計になっているので、同じモダンゴシックでも組んでみると一味違った表情の文章組みになります。
和文書体のスタイルの違いについては「みちくさ」の記事でも触れているので、こちらでもおさらいしてみてください。

・かなに合わせた漢字と従属欧文

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漢字は「TBゴシック」ベースに、字面や一部の字形を調整して作られました。
「打ち込み」のないシンプルなエレメントで、癖のないモダンな印象かつオンスクリーンでもくっきりと表示することができます。

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また、従属欧文はあおとゴシックと同時にリリースされる欧文書体Sharoa Proのデザインをベースに、和文との併記利用で馴染むよう調整されています。
Sharoa Proについては次回の「フォント沼なハナシ」で深堀りますのでお楽しみに…!

3.デザイナーインタビュー

あおとゴシックのデザインの詳細については、和文部分の制作を担当したデザイナーに語ってもらいました!
開発秘話もあわせてお楽しみください。

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お話を聞いた人:タイプデザイナー 木村 卓(きむら まさる)
プロフィール:2008年モリサワ文研株式会社に入社。A1ゴシックやUD 書体(簡体字・繁体字)の拡張をはじめ、漢字を中心とした書体開発に従事。

ーまず、あおとゴシックのコンセプトと開発に至った経緯を教えてください。
木村:あおとゴシックは、本文に特化したオンスクリーン向けのゴシック体を作るというプロジェクトのもと生まれた書体です。モリサワのライブラリはモダン/クラシック(オールド)にふった書体は充実していますが、ニュートラルなゴシック体もあったらいいのではないかというアイデアから開発することになりました。

ー「ニュートラルなゴシック体」というと、どんな特徴があるのでしょうか?
木村:癖のない自然に受け入れられるデザインを目指しているので、具体的な特徴というと難しいのですが…。ある意味目立った特徴がないのが特徴ですね。ゆえに、汎用性が高くなっていると思います。現代の人が読んで気にならない形状にするために、書体の印象が「機械的・無機質」と「温かみ・人間味」の中間になるようにイメージして、極端な骨格の形を避けることを意識しました。例えば、モダンゴシックの場合は視覚的に捉えやすいようにデザイン的な要素が強く施されているんです。

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ー駅名標など日常のあらゆる場面で目にする「新ゴ」はごく自然に読める形だと思っていましたが、こうして比べてみるとかなり幾何学的な文字に見えてきます。特徴を出すというよりはあらゆる要素において中間を意識して制作されたんですね。
木村:はい。他にもあおとゴシックでは、高さの低い「い」、幅の狭い「う」など、50音全体で文字によって大きさの差が出過ぎないようにしたことや、ストロークはスピード感のあるものや止まって見えるものにならないようにするなど、極端なデザイン処理を避けることでニュートラルな印象の書体としての完成度を高めていきました。

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もう一つ、「オンスクリーン向け」という点についてはどんな工夫をして設計されたのでしょうか?
木村:少し前だったら解像度に配慮した書体のニーズがありましたが、最近は解像度が上がったことでデジタルだからアウトラインが崩れてしまうということはあまりありませんからね。そこで、今回は組方向に着目しました。デジタルの場面って横書きがほとんどだと思うんですが、日本語の文字は元々縦書きが主流だったので縦につながる形が自然なんです。なので横書きに合わせたストロークを意識して、有機的な部分も残しつつカウンター(文字の中に含まれる空間)が開いた水平なはらいにするなど横組みで自然につながって見える形を模索しました。もちろん、縦組みでも不自然に見えないようにバランスに配慮しているのでどちらでも使えます。

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ー制作で苦戦したところはありますか?
木村:「自然な形」の追求ですね。感じ方は人それぞれで正解がないので、ディレクターと話し合いを重ねて今の形になりました。例えば「ひ」や「ふ」の形はなかなか決まりませんでした。これまで特徴のある書体の制作でオリジナリティを求められる場面が多かったので、シンプルなゴシック体を作るのはデザイン書体とは一味違う難しさがありましたね。

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ー「あおとゴシック」という書体名の由来はなんですか?
木村:「あおと」は天然砥石の「青砥石」に由来しています。
書体名に平仮名を使ったゴシック体が他に少ないことや、今回新規で作成したかなを見せたいということもあり、書体のコンセプトを特に体現しているグリフとして「あ」「お」「さ」「た」「ち」「の」「は」「ま」「も」「ん」を入れた単語が候補に上がりました。砥石というのは包丁などを研ぐ道具であることから、その使い勝手や能力を高める縁の下の力持ち的な存在であるところが書体に通ずるものを感じて採用に至りました。また、モリサワのコーポレートカラーも青なので相性がいいと思ったことも一つの理由です。

ー他の本文書体と比べてあおとゴシックの強みはどんなところですか?
木村:適度な字間で明るい印象の文章組みができるので、それによって情報量の多い長い文章でもしっかり読んでもらえるというところは強みになるのではないかと思います。医療や金融といった分野など、ボリュームがあって情報を正しく理解してもらう必要のある場面での使用を想定しています。
あとは、特殊仕様でStdNに加えて欧文イタリックが入っているので本格的な組版にも対応します。

ー「正しく読む」というコンセプトはUD書体に近いような気もしますが、どのような違いがあるのでしょうか?
木村:UD書体は一文字一文字の「判読性」を高めたものですが、あおとゴシックはどちらかというと本文組みを前提にゆったりとした字間で設計したことによる可読性への貢献をイメージしています。詰まった文字だと長い文章を読むと疲れると思うので、誌面が明るく見えるように字間を細かく調整しました。

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ー書体というと文字の形にばかり着目してしまいますが、字間も書体設計において重要な要素なんですね。
すでに数多くのゴシック体が存在する中で、今スタンダードな書体を作る意義はどんなところにあると思いますか?

木村:時代によって文字の使用環境が異なるので、その時代に合わせたデザインを模索していくことは文字文化の発展に寄与することになると思っています。
昔は筆で文字を書いていて、書体も縦につながる形状をもとに作られてきましたが今は横組みで使われる場面がほとんどだと思います。
使用環境だけでなく制作環境もデジタルになって精度が上がっているのでできることも多くなっていますしね。
今の若い人たちは手書きの機会も少なくなっていると思うので、今の人が自然に受け入れられるものを作るという点で新たなニーズに応えることになっているのではないかと思います。

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ー最後に、あおとゴシックのリリースに期待したいことをお聞かせください!
木村:日常生活で明朝体よりもゴシック体を目にすることが多くなってきてますしゴシック体もいろんな種類があるので、この書体もユーザーのみなさんにとってそういった選択肢の一つになればと思っています。

ー現代の文字の使用環境を分析して制作されたゴシック体、これからどんなところで使われていくのか楽しみです。
木村さん、本日はお話ありがとうございました!

4.おわりに

モリサワの新しいゴシック体「あおとゴシック」、いかがでしたか?
筆者も書体の世界の奥深さを改めて感じるインタビューでした。
木村さん作成の自然な形を追求したかな、一文字一文字じっくり見比べて見てください。
あおとゴシックについてもっと知りたいことや、記事へのご感想など、ぜひコメント欄やTwitterへお寄せください。

あおとゴシックをはじめとした、2021年モリサワ新書体はまもなくお届けできるよう鋭意準備中ですので乞うご期待!
街中で新書体が使われているのを目にする日が待ち遠しいです。(担当:H)