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自動の文字詰めがより便利に! 「A P-OTF」フォント

たくさんのフォントの中から目的にあったフォントを選ぶ作業は、いつでも楽しく、そして悩ましいものです。
以前モリサワnoteでは、フォントメニュー名から用途にあったフォントを選ぶための解説を掲載しました。

モリサワのOpenTypeフォントは、ペアカーニングなどの情報が含まれるものについては、名前の先頭に「A P-OTF」をつけています。
今回は、ペアカーニングに対応し、自動の文字詰め機能がより便利になった「A P-OTF」フォント(以下AP版書体)について、その特徴をご紹介します。


ここが変わった「A-OTF」→「A P-OTF」

日本で最初にリリースされた日本語のフォントは、1989年にPostScriptプリンターに搭載された「リュウミンL-KL」と「中ゴシックBBB」でした。
それから約30年間で作られてきた100ファミリー、380フォントを超える「A-OTFフォント」を、2019年から2023年にかけてすべて「A P-OTFフォント」として再リリースしました。
それでは、「A-OTF」から「A P-OTF」でどのようなことが変わったのでしょうか? ひとつずつ、詳しくご紹介します。

①ペアカーニング情報を搭載

まずは一番の特徴であるペアカーニング。これは特定の文字の組み合わせにおける詰めの設定のことです。

InDesignやIllustratorで、自動で文字詰めを行いたい場合は、以下のような設定をお試しください。

  • 「A P-OTF」が先頭についたフォントを選ぶ

  • 文字パネルのカーニング設定で「メトリクス」を選ぶ

加えて、「プロポーショナルメトリクス」の設定(Illustrator:OpenTypeパネル内、InDesign:文字パネルのメニュー内)もチェックを入れるのがおすすめです。

この「プロポーショナルメトリクス」の設定をしていない場合、カーニングの値を手作業で微調整する際に、別の箇所が広がってしまうことがあります。あわせて設定しておきましょう。

②最新のIVSに対応

AP版書体は、最新のIVSに対応しています。IVSについては、以下のリンクにて解説していますので、ご参照ください。
※IVSとは、異体字の関係にある文字に「異体字セレクタ」というコードを振ることで、より確実な文字情報の交換を可能にする技術です。

③かな書体に漢字を組み合わせて“総合”書体化

「かな書体」(かなと一部記号のみの書体)としてリリースしていた書体に漢字を組み合わせ、“総合”書体としてリリースしました。

「かな書体」は、漢字はそのままに「かな」の表情を変えることで異なるイメージを表現したいときに力を発揮する書体です。
かな書体という考え方は以前からあり、モリサワでは1963年からかな書体の写植機文字盤を販売していました。当時は、かなと約物を1枚に納めた文字盤として多くのかな書体が発売されました。
そしてフォントとしても多くのかな書体をリリースし、漢字と組み合わせた上で改めてAP版書体(総合書体)としてリリースしています。
かな書体をAP版で総合書体化したフォントは、名称の最後に「+」がついています。

かな書体は、これまでIllustratorやInDesignで「合成フォント」の機能を使って別の書体と組み合わせる必要がありました。
AP版書体(総合書体)は、かな・漢字・英数字などそのまま打ち出すことができますので、より便利にご使用いただけます。

総合書体は、かな書体の作成時に想定していた漢字書体を組み合わせています。もちろん、従来のかな書体を他の書体の漢字と組み合わせて使用いただいても構いません。その際にはウエイトや文字サイズなどのバランスについても確認し、必要に応じて調整してみてください。
日本語の文章では約7割が「かな」で構成されていると言われます。かなの組み合わせを変更するだけでもかなり雰囲気が変わりますので、ぜひお試しください。

④欧文のリデザイン

AP版書体では、一部書体の欧文や記号をリデザインしています。例えば「A1明朝」は、オールドスタイルな明朝体に合わせて、欧文部分がクラシカルなデザインにリニューアルされています。

⑤その他の変更

その他、一部の書体ではデザインの調整や変更を行っています。
また、本文組で使用されるフォントについては、詰め(プロポーショナルメトリクス)の見直しを行っています。

金属活字を用いた活版印刷が主流の時代は、金属という物理的なボディを持つため、⽂字間を詰めたり、変形することが容易にできませんでした。しかし、写真植字機の登場により、金属という物理的な制約から解放され、それらが容易に行えるようになり、デザイン性が高いチラシなどの端物で、⽂字の詰めや変形がより多く取り入れられるようになりました。

左:マイコン内蔵の写真植字機「ROBO-V」(1983)、右:「ROBO-V」のモニター表示。画面で結果を確認しながら文字を打つことができるのは、当時は画期的だった。

しかし、現在はあまり詰めすぎない組み⽅に変わりつつあります。そのため、フォントの詰めが狭めに設計されていた書体については、AP版書体では字間がゆるくなるように設計の⾒直しを⾏っています。

「A-OTF」と「A P-OTF」は別フォント

これまでご紹介してきたような違いがあり、「A-OTF」と「A P-OTF」はあくまで別のフォントとなるため、互換性がありません
そのため、利用の際はそれぞれの違いにご注意ください。
もしもフォントの置き換えが必要となった場合は、文字組みや体裁が変わってしまうこともあるため、十分に確認を行いましょう。

2023年10月のリリースで、すべての「A-OTF」書体をAP版書体化し、リリースが完了しました。

AP版書体を含め、2,000書体以上のフォントを利用できる「Morisawa Fonts」について下記でご紹介しておりますので、ぜひご参照ください。

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