
Design-1グランプリ授賞式レポート
2024年に開催されたデザインアワード「Design-1グランプリ」をご存知ですか?「デザインの必殺技®️」という「グラフィック表現においての魅力あふれる鉄板技」をテーマに、現場で活躍するデザイナーにスポットをあて、デザイナーの価値と才能を発掘するための新しいアワードです。
モリサワはこのアワードをゴールドスポンサーとしてサポート。昨年12月27日に開催された第一回グランプリの授賞式に参加してきました。今回は当日の様子をレポートします。
主催となる株式会社NASUの代表取締役 前田高志氏には、昨年6月にFont College Open Campusにも登壇していただきました。当時のレポートでも「デザインの必殺技®️」について触れていますので、ぜひご覧ください。
授賞式は、大阪市内にあるNASUのオフィスで開催。会場の壁には、受賞作品がずらりと展示されていました。


1. トークセッション
授賞式前半は、審査員4名のトークショーからスタート。
審査員は、前田氏のほか、株式会社れもんらいふ 代表 千原徹也氏、株式会社インジェクターイー 取締役 寺本恵里氏、そしてゲスト審査員に株式会社FLAME 代表 古平正義氏という錚々たる顔ぶれ。トークショーでは評価のポイントや選定基準などが語られ、常に第一線で活躍し続ける皆さんならではの、昨今のデザイン業界事情も聞くことができました。

「Design-1 グランプリ」挙げられた審査のポイントは「言語化」「表現力」「再現性」の三つ。ビジュアル面だけを競うわけではなく、カードとしての面白さ、ネーミングの“必殺技感”など、全てのバランスが求められます。
このまったく新しい評価基準について、前田氏は立ち上げ当初、どれくらいの人に受け入れられるかといった不安があったのだとか。それでも一年かけて様々な応募作品を見ていくにつれて、不安が確信に変わったといいます。
「デザインが特定のプロフェッショナルだけでなく、誰もが楽しめるものであるということを広められた。デザインをしている人ってすごく少数派だと思われがちですが、今は誰もがデザインができる時代。社会に一石を投じる機会になったのではないか」と手応えを強く感じているそうです。

「必殺技の良さなのか、デザインの良さなのか、というところの議論は難しかった」と語ったのは千原氏。評価基準に悩みながらも、自身のデザインにも通じるような「あるある」や、昨今の様々なグラフィックの傾向に想いを馳せながら、楽しく審査を進められたと言います。「これからも、デザインの強さ、デザイナーという職業の強さを証明していくようなアワードになっていってほしい」と今後に期待を寄せました。

自身の著書でもテクニックの言語を続けている寺本氏が、最終的に決め手としたのは、再現性の高さと“自分も使いたいかどうか”。自身もよく使うテクニックに名前がついていることに対する新鮮な驚きや、言語化することの面白さを再認識したそうです。
「これまで名前のなかったレイアウトでも、名前がつくことで改めて注目し直すことができて、そうすることでインプットの引き出しが増えるんだなという気づきがありました。こうした引き出しが増えるタイプのデザインアワードは今までになかったし、とても素晴らしいと思います」

「デザインの全体像を見るわけではない、ということに審査を進めていくうちに気がついた」と話したのは、ゲスト審査員の古平氏。技そのものにフォーカスすることに注力しながらも、やはりグラフィックとしての見応えや面白さは重要だと語りました。
「最近ますます、デザインというものがなんなのかが分かりづらくなってきている気がしています。かつては“デザインといえば”というような特定のデザイナーが注目される時代があったけれど、今は誰が作ったのかも曖昧で、基準がわかりづらい時代になっている。このアワードに触れることが、デザインの中身や仕組みを理解することにつながるのでは、と感じます。デザインを面白いと感じる人が増えるきっかけになっていくのではないでしょうか」

第一線で活躍し続ける皆さんが感じるリアルな意見にじっと耳を傾ける受賞者の皆さん。時折笑いが起きつつ、和やかな時間はあっという間に過ぎ、いよいよ授賞式へと移ります。
2. 受賞作品とフォントの傾向
全国から寄せられた応募総数は400作品以上。厳正なる審査を経て、グランプリ、学生グランプリがそれぞれ1作品、審査印象4点、入選作品17点が選ばれました。
受賞された必殺技は、画像の加工の仕方や色使いに関するものなど、実に様々。本レポートでは、受賞作品の中から「フォント」や「タイポグラフィ」にスポットが当てられた二作品をご紹介していきます。受賞者の皆さんからのコメントも併せてご覧ください。
そのほか、独創性豊かな受賞作品の数々は、NASU様の公式プレスリリースよりご確認いただけます。
グランプリ
必殺技名:はんぷくまんぷく
技法:文字組した情報を反復掲載する
効果:反復掲載することで1ビジュアルでトーンと情報の刷り込みをする

縦組と横組をうまく組み合わせたグラフィックで、パッと見た時のデザインの良さも高く評価された作品です。使用フォントの一つは「見出ゴMB31」ということで、このフォントを選んだ理由をご本人に伺ってみました。
KSK ONE さん
「見出ゴもDINも永遠のスタンダードな書体で好きです。伝わらないかもですが、音楽でいう何十年経っても色褪せない曲みたいな。見出ゴ太ゴ中ゴは流行り廃りに左右されないし、ずーっと定番で使っています」
普段フォントを選ぶ際に心がけることは、伝えたいイメージにあった表情を持っているかどうか。また、案件によってトレンドの傾向を探ったりもしているとのこと。自身で作字をすることもあるそうで、「ポップな加工は新ゴファミリーがハマるし汎用性が高いのでとても使いやすいです」と、“必殺フォント”についても教えてくれました。
審査員賞(千原 徹也賞)
必殺技名:バックサイドマニア
技法:通常は制作の裏側でしかみられないものを表に出す
効果:裏側をあえてみせることでマニア心をくすぐることができる

続いては審査員賞「千原 徹也賞」の作品です。トンボ線やカーソルなど、まるで制作中のスクリーンそのままが見えてくるような通好みのデザイン。千原氏は「そもそも裏側を見せるということが好きです。技として素晴らしいと思いました」とコメントを寄せました。こちらのデザインにはApple社製品の標準フォントとして搭載されている「ヒラギノ角ゴ」が使用されています。
kome さん
「デザインには「ヒラギノ角ゴ」を選びました。選んだ理由は、MacやiPhoneの標準フォントであり、デザイナーであれば誰もが触れたことがあるフォントではないかなと思ったからです。また、特徴的すぎずさりげない美しさがあるところも今回の技にぴったりだと思いました。」
kome氏は現在、インハウスデザイナーとしてご活躍中とのこと。ヒラギノ角ゴの他にも「A1明朝」も好んでよく使うそうです。「ターゲットの好みや、商品の魅力と相乗効果を得られるような信頼感を感じるかを基準にすることが多いです」と話してくれました。
審査員賞(古平 正義賞)
必殺技名:バーティカルホライズン
技法:横組み縦組みの文章をメリハリをつけて構成する
効果:変則と正則を組み合わせることで誌面にリズムが生まれる

こちらは、文字の大小によるメリハリが印象的で、デザイナーの確かな腕が光る作品です。審査員の古平氏も「高度な技で、必殺技名もかっこよかったので、早い段階で僕の中では高得点でした」と絶賛。過去のクライアントワークで実際に用いられたグラフィックだったようで、使用フォントは「リュウミン」や「ゴシックMB101」など。「読ませる看板」というデザインコンセプトが込められていたといいます。
河合 俊輔 さん
「「文字・文章を読んでもらう」という事を念頭に置いた広告デザインが多いので、自然とクセの無いフォントを選んでいます。その点モリサワフォントが昔から普遍的で美しいと感じるので、クライアントワークでもよく使っています」
必殺フォントとしてよく使うのは「太ゴ」だと語ってくれた河合さん。「一緒に仕事した回数が多いフォントなので相棒といった感じです笑」と語ってくれました。
そのほかにも、モリサワフォントが使われている作品がたくさんありました。


どの必殺技にも、「情報の正確さ」「見た目のポップさ」「インパクト重視」など、その必殺技がどんな効果をもたらすのかに合わせて、それぞれぴったりのフォントが選ばれていました。
また、他の受賞者の皆さんにもフォントを選ぶ基準をお伺いしてみましたが、「フィーリングを大切にするために日々の感性を磨いている」「より適切な選び方ができるように色々なものをみるようにしている」など、日頃のちょっとした心がけでコツコツと引き出しを増やしている方が多いと感じました。必殺技は1日にしてならず、ということかもしれません。
最後に、前田氏からも審査員を代表してフォントに絡めて総評をいただきました。
「全体の傾向として、シンプルなタイポグラフィーの必殺技ほど、フォントのクオリティーが求められますね。なので、モリサワさんのフォントが多かった気がしています。必殺技とフォントの特徴が合っているか、装飾的なフォント、ソリッドの強いフォント、本文に使われるようなフォント、状況に合わせて使われているかどうか、というのは審査を大きく左右すると思います。なので、フォントの選定は大きいかもしれませんね」

これまでにない切り口でデザイン業界に新しい風を吹き込んだDesign-1グランプリ。「すべてのデザイナーに光を」与えるべく、モリサワも陰ながら応援していきたいと思います!
受賞者の皆さん、本当におめでとうございました!