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サムネの文字で「見たい」が決まる?! ショートドラマアプリ「BUMP」デザイナーが選ぶフォントの話

ちょっとしたスキマ時間に楽しめると、近年人気のショートドラマ。そのプラットフォームとして、ユーザーに刺さるコンテンツを次々と生み出しているのが、emole株式会社が運営する “1話3分のショートドラマアプリ”「BUMP」です。
スマホコンテンツは「タップされてこそ」の世界。ユーザーの目に留まり、なおかつ「見たい」と思わせるビジュアルにできるかが成否のカギを握っています。

そこで今回は、「BUMP」アプリのUI/UXデザインを中心に担当する佐々木優太さんと、作品のメインビジュアルやグラフィックデザインを手がける中村朱里さん(以下敬称略)に、「BUMP」のデザイン戦略やフォントの選定についてうかがいました。


■お話を伺った方
emole株式会社
プロダクトデザイナー 佐々木優太さん(左)
デザイナー 中村朱里さん(右)

切り抜き動画の総再生数は20億回!SNSから “バズ” を量産

― ショートドラマブームの先駆け的な印象がある「BUMP」ですが、どのようなサービスを提供しているのか、改めて教えてください。
 
佐々木 「BUMP」は1話が1分〜3分程度、1タイトル当たり10〜30話程度(最近はそれ以上も)で構成される、従量課金型のショートドラマアプリです。完全有料話は1話97円(税込)で提供していますが、「待つと無料」とか「CMで無料」で楽しむこともできます。ユーザーが自分の好きなシーンを切り取ったり、コメント投稿できたりする機能も備わっていて、マンガアプリのように楽しめるサービスです。

― アプリのDL数は直近で170万だとか。大ヒットの理由は何だったんでしょう。

佐々木 見どころを切り抜き動画としてずっとSNSに上げていたんです。それが多くの人の目に留まって。ローンチから1年半くらいはSNSだけでDL数を伸ばしてきました。

プロダクトデザイナー 佐々木優太さん

中村 作品によっては100本程度の切り抜き動画を、InstagramやTikTok、YouTubeなどSNSに上げています。切り抜き動画の総再生数は20億回近くに上ります。

― 20億とはすごい…!最初からSNSを主戦場にする戦略だったんですか?

佐々木 そうですね。Instagramに自作漫画を投稿しているアカウントがたくさんあるじゃないですか。うちにも、つい続きが気になって見ちゃうっていうメンバーが結構いて、ショートドラマでもそういう体験を作ったら視聴につながるんじゃないかと考えたんです。

中村 実際、オリジナル作品の「今日も浮つく、あなたは燃える」という作品はYouTubeでバズったのをきっかけに、アプリへの流入が一気に増えました。

― やはり、できるだけ多くの人の目に触れるようにすることが大切なんですね。作品はオリジナルが中心ですか?

中村 完全にオリジナルで企画制作しているコンテンツのほか、外部の制作会社が手がけているものや、テレビ局と共同で進めている座組みのものもあります。

佐々木 「BUMP」はそもそも、監督や脚本家、俳優といったクリエイターが活躍できる場にしたいという思いから立ち上げたプラットフォームで、コンテンツで得た収益の一部を彼らに還元するシステムになっています。

中村 既存の業界構造は非常に間口が狭いというか、実力のあるクリエイターでも、つながりがなければ作品に参加できないケースが多いんですね。

― 個人で映像作品を制作するにしても、資金面や制作にかかる期間など、さまざまな課題がありますよね。

中村 はい。そういった課題を、映画よりもコスト面や時間的なハードルが低いショートドラマという形で解決できればと。収益に加えてどの話がよく見られているかといった、作品の改善に役立つ分析データの提供も行っていて、クリエイターがどんどん新しいことに挑戦できる場所にしていきたいと考えています。

デザイナー 中村朱里さん

― 才能のあるクリエイターを支援することで、質の高いコンテンツをユーザーに数多く届けられるのだとしたら、とてもいい循環ですね。ユーザーからはどのような反応が寄せられているんでしょうか。

佐々木 シンプルに「面白い」という意見もありますが、「○○もっと頑張れ」「幸せになってほしい」「◯◯ホントやだ」というような、キャラクターに共感するコメントが多いですね。

― それだけ没入して見ている方が多いということですよね。 

佐々木 はい、ありがたいことに。一番バズったのが「プロ彼女の条件 -芸能人と結婚したい女たち- 」という作品なんですけど、「もっと見たい」というコメントが非常に多くて。シリーズ化して、現在シーズン2も公開中です。


タップ率の差は実に3倍超。目に留まるフォントの選び方

― モリサワフォントとのお付き合いは、スタートアップのデザイン業務支援がきっかけでした。

中村 私は大学生の頃から学生プラン(MORISAWA PASSPORTアカデミック版。現在は販売終了)を利用していまして。

― ありがとうございます!「BUMP」作品のデザインには、どのように活用されているのでしょうか。

中村 メインビジュアルのタイトルロゴは、作品の世界観を表現するためにフォントをアレンジしたり、複数のフォントを組み合わせて作ったりしているケースが多いです。
例えば「今日も浮つく、あなたは燃える」という作品は不倫復讐モノで暗い印象なんですけど、妖しい雰囲気も欲しくて、漢字部分を少しゆがませています。強さよりも繊細さを表現したかったので、「リュウミン」を選んでいます。

「今日も浮つく、あなたは燃える」のメインビジュアル
書体見本|リュウミン

― これは初期の作品ですよね。

中村 そうです。この頃は、しなやかで細いフォントをアレンジしたタイトルデザインが多いですね。ただ最近は、文字をドーンと全面に載せる作り方に変わってきています。
アプリではメインビジュアルがタイル状にびっしり並んでいるので、ホラーなのかコメディなのかラブストーリーなのか、ひと目で作品の雰囲気をつかめるようにしないと、すぐにスクロールされちゃうんですよね。

― 確かに!スマホだと一つひとつの表示も小さいですしね。

中村 作品ごとのタップ率も集計しているんですけど、初期と最近の作品を比較すると3倍以上の差があります。
例えば最近の「30歳目前、人生設計狂いました」は非常にタップ率が高い作品のひとつで、人物の表情と「狂」の文字の大きさで復讐モノだな、と直感的に理解できるデザインになっています。

BUMP配信版『30歳目前、人生設計狂いました』©フジテレビ のメインビジュアル

― ということは、フォントを選ぶポイントも以前とは変わってきたのでしょうか?

中村 “はっきり見せる” というところをものすごく意識して作っているので、フォントも太めでインパクトのあるものを選ぶことが多くなってきました。「マリッジプラン」という作品のタイトルで使っている「きざはし金陵」も、どっしりした印象に見せたくて選んでいます。

女性の自立と愛の葛藤が描かれる「マリッジプラン」のメインビジュアル
書体見本|きざはし金陵

― 読みやすいだけでなく、ちょっと不穏な世界観も伝わってきますね。

中村 ウエイトが重いフォントほどゴツくなりやすいんですけど、前述の「30歳目前、人生設計狂いました」で使用している「毎日新聞ゴシック」は、存在感がありつつも繊細さもあって、個人的にはとても気に入っています。
一番目を引く「狂」は「太ミンA101」を。太い文字にしても安っぽい印象にならないよう気を付けています。

書体見本|毎日新聞ゴシック
書体見本|太ミンA101

中村 クオリティーの面でモリサワフォントに頼っている部分は大きいですね。異なるフォントを組み合わせたり、文字をバラして配置したりしても統一感が出るので、とても助かっています。

― お役に立てているならうれしいです!

中村 そして、SNSにアップする切り抜き動画のサムネイル。作品の世界観も表現するメインビジュアルとは違い、サムネイルで使う文字は、話の内容を伝えることに重きを置いています。

例えば「崩壊」などの作品の鍵になる強いワードを強調しています。以前、文字が入っていないサムネイルを出していた時期もあったんですけれど、全くユーザーからタップされなかったんですよね。サムネイルに関してはデザイナーが最初にデザインテンプレートを作って、マーケティング担当が文字を打ち替えて運用しています。

― 切り抜き動画は数が多いですし、役割分担されているわけですね。

中村 そうです。いま切り抜き動画はひと月あたり何本くらい作っていましたっけ?

佐々木 数百本やろうとしているところです。

― ええっ!とんでもない数です……!

中村 なので、どんどん回していく必要があって。そこにデザイナーが都度入るとかえって時間がかかってしまうので、デザインのクオリティーを担保するために、テンプレートのみ作成しています。

― なるほど。デザインチームとマーケティングチームで、フォントライセンスの使い分けもされていますよね。

中村 はい。デザイナーは全フォントが使用できるライセンスを利用していますが、マーケティングチームは「ポップ系タイトルは〇〇」「ドロドロ系タイトルは××」というように、作品の傾向ごとに絞り込んだ24書体のライセンスを利用しています。
SNSの切り抜き動画に使う文字もこの24書体の中から選んでいて、ある程度パターン化することによって、デザイナー以外の担当者でも運用しやすい形にしています。

― 効率的であり効果的でもありますよね。すばらしい活用法だと思います!


ショートドラマの未来とは?

― アグレッシブに成長している「BUMP」の今後が気になるところです。

中村 ショートドラマの市場は中国から始まっているんですが、今もどんどん成長していて、2029年には全世界で8.7兆円の市場規模になると見られています。「BUMP」も今後は海外での配信を拡大していく予定です。

― 海外を視野に入れると多言語展開も考える必要がありますね。

中村 はい。現在も韓国に一部作品を配信しているんですけれど、タイトルロゴだけハングルに作り変える形で対応しているんですね。今後配信作品が増えたときに、日本語フォントと同じデザインに変換できるハングルフォントがもっと増えるといいなぁと思います。いま結構大変なので(笑)。

― 貴重なご意見ありがとうございます……!社内にフィードバックしたいと思います。

佐々木 直近の課題としては、もっとコンテンツを増やしていきたいというところですね。それに伴い、サムネイルをはじめとするクリエイティブの制作量も増えていきます。
UI / UXの視点で言うと、たくさんのコンテンツの中からユーザーが見たいものへいかに早くたどり着けるデザインにできるかが問われているのではないでしょうか。わかりやすい・使いやすいデザインがあってこそ、ユーザーのタップにつながり、視聴へつながっていくと思うので。

― もちろん大変なこともおありかと思いますが、成長を体感しながら仕事ができるのって素敵ですね。

佐々木 「好きなことに仲間と挑戦できる世界をつくる」ことが、創業時からの弊社のビジョンでもあり、それを経て今は「創造で挑戦できる世界へ」というビジョンを掲げています。もし興味を持っていただける方がいたら、デザインの心得があるインターン生を募集中ですので、どしどしご応募ください!

デザインインターン希望の方は、オープンポジションから応募ください。

― 新たな仲間との出会いがあることを祈っています。本日はありがとうございました!



SNSやアプリに存在するコンテンツの中から、ユーザーの1タップを獲得するために膨大なエネルギーが注がれていること、そこにフォントが深く関わっていることに、驚きと嬉しさがありました。
そして、「BUMP」の開発と制作に熱量を持って取り組むお二人の姿も印象的でした。これからのさらなる成長を楽しみにしています。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!