〈note文字旅〉MORISAWA SQUAREで出会う、文字と印刷の歴史。
さて、みなさま、大阪のモリサワ本社ビルの中に「MORISAWA SQUARE」というショールームがあるのをご存知でしょうか︖
一般的なショールームとは一味違ったフォントメーカーならではの、日常生活で身近な「文字」をテーマにしたショールームです。今回、その魅力をみなさまにお伝えしたく、普段は東京本社に勤務しているnote編集部員が潜入し、レポートいたします!
※ショールーム「MORISAWA SQUARE」の見学をご希望の方は、本記事の末尾にある「見学のご案内」をご参照ください。
ビルのエントランスとサイン
大阪のモリサワ本社ビルは、Osaka Metro御堂筋線・四つ橋線の大国町駅を降りてすぐのところにあります。
今回、館内の案内は、ショールームのアテンドを担当している村辻さんと加藤さんの二人にお願いしました。
ー こんにちは。今日はよろしくお願いします。早速ですが、エントランスにあまり見慣れない機器の展示がありますね。
村辻 はい。これは2000年頃までモリサワで製造販売していた「写真植字機」という、一般の方にはあまり馴染みのない文字を印字する機械の数々です。
ー 右手側の真っ白な壁は、照明になっているんですか?
村辻 こちらはバックライトにLEDを用いた照明になっていますが、近づいて見ていただくと、文字が並んでいるのがわかりますか? これは写真植字機で用いた「文字盤」をイメージしたもので、モリサワの代表的な14書体が使われています。
ー まさか、壁一面が文字になっているとは思いませんでした。さすが文字の会社、モリサワならではですね。
村辻 館内のいたるところに文字を意識したデザインが施されています。この活字をモチーフにしたポールもエレベータホールに入るためのセキュリティー装置が埋め込まれていて、入館カードをこの「あ」にかざすと自動ドアが開くんですよ。
ー へぇ~おもしろい! 私は普段東京の勤務ですが、東京のセキュリティ装置はけっこう普通です(笑) ショールームを見る前から、ワクワクしてきました。
加藤 エレベーターホールのサインは、壁面の数字から、影のような線が床まで伸びたデザインとなっています。
加藤 このサイン数字に使われている書体「光朝」は、グラフィックデザイナー・田中一光氏がデザインした書体です。
階数をわかりやすく表示する「サイン」ではありますが、光と影を表現したデザインにもなっているんです。
モリサワが開発した「写真植字機」にとって「光」は大切な要素です。
ショールーム 「MORISAWA SQUARE」
続いてビルの5Fにあるショールーム「MORISAWA SQUARE」に進みます。
ここではモリサワの歴史や、文字・印刷の歴史に関する多数の収蔵物を展示しています。館内は大きく3つのゾーンに分かれています。
ヒストリーゾーン
村辻 このゾーンは主に、創業者の森澤信夫が邦文写真植字機を発明し今日に至るまでの、モリサワの変遷と印刷の歴史に関するものを展示しています。 ⽂字や書体は普段あまり意識をすることはありませんが、すごく身近なもので、その魅力を印刷技術の進化と共に見ていただくと面白いですよ。
印刷の歴史を変えた!? 邦文写真植字機の発明
こちらは1924年に開発された邦文写真植字機の試作模型です。写真植字(写植)とは、写真の技術を応用して植字、すなわち組版を行うことです。 写真植字機は、活版印刷と違って、莫大な鉛の活字を必要とせず、活字という物理的な制限から解放された画期的な発明と言われています。
発明から100年、よみがえった「MC-6型(2024)」
今年(2024年)は、邦⽂写真植字機発明100周年を迎えます。これを記念して、モリサワの写真植字機の代表機「MC-6型」を、当時の形状を生かしつつ、一部の機能をデジタル化して再現しました。
写真植字機の仕組みを理解しながら、写植を模擬体験することができます。
※ショールーム「MORISAWA SQUARE」の見学、およびMC-6型(2024)体験をご希望の方は、本記事の末尾にある「見学のご案内」をご参照ください。
コレクションゾーン
加藤 こちらのコレクションゾーンは、“文字と書物”に関するコレクションを、アルファベット圏と漢字圏の2つの体系を軸に展示しています。
展示物の中から、代表的なものをピックアップして掲載します!
アルファベット圏の文字と書物
こちらは粘土に記された楔形文字です。
円錐形の物もあれば、粘土板と呼ばれる板状の物もあります。葦を削って尖らせたペンで書かれていたそうです。
死者の書は、古代エジプトにおいて死者とともに埋葬されていたものです。この死者の書は亜麻布でできていて、死後の世界への案内がヒエラティック(神官文字)で書かれています。右側に記されているのは、オシリス神と太陽神の挿絵です。古代エジプトの文字としては建造物や壁画に記されたヒエログリフ(聖刻文字)が有名ですが、実用的な文字としてはヒエラティックが用いられていました。
こちらは聖書の1ページです。整然と並んだ文字は、実は全てが手書きで記されています。
活版印刷術が発明される以前は、このように手書きで本を書き写す写本が行われていました。
15世紀に、鉛の活字を用いた活版印刷術が、ドイツのグーテンベルクによって発明されます。こちらは、グーテンベルクが最初に完成させた完本『42行聖書』の原葉です。グーテンベルク以来、15世紀末までに印刷された活版印刷物のことを総称してインキュナブラ(揺籃期本)と呼んでおり、当館では『42行聖書』原葉のほか、グーテンベルクの弟子シェーファーの代表作『48行聖書』や、木版挿絵が豊富なアントン・コーベルガー印行の『年代記』などを所蔵しています。
漢字圏の文字と書物
続いてご紹介するのは、漢字圏の資料です。
こちらの甲骨文字は、現在私達が使用している漢字の元となった文字です。
獣の骨や亀の甲羅を火で炙ってヒビを入れ、吉凶の占いを行い、その内容や結果を記すのに甲骨文字が使われていたようです。
先にご紹介した楔形文字やヒエログリフは現代においては使用されることがありませんが、甲骨文字は歴史の中に消えることなく、漢字、そして平仮名・片仮名へと受け継がれました。
百万塔陀羅尼は、木製の塔に陀羅尼経を収めたものです。名前の通り百万個が制作され、奈良の十箇所の寺へ十万ずつ奉納されました。
制作された時期が明らかなものの中では世界最古の印刷物と言われています。
本木活字(蝋型電胎法による金属活字)の復元
江戸時代末期まで、日本においては木版による製版印刷が主流でした。
活版印刷が主流となったのは、江戸時代末期から明治時代初期にかけて、本木昌造によって海外から金属活字の鋳造法が導入されたためです。
ここでは、金属活字の鋳造法「蝋型電胎法」を復元した資料を展示しています。
ウイリアム・モリス・コレクション ~ケルムスコット・プレス~
ここには、19世紀のイギリスで活躍したデザイナーウイリアム・モリスが「ケルムスコット・プレス」と呼ばれる書局で製作した書物の全完本コレクションを展示しています。
ケルムスコット・プレスでは、全53部66巻が刊行され、モリサワでは全刊本を所蔵しています。ほかにも、モリス自筆の図葉など貴重な資料を展示しています。
中でも、チョーサー著作集は、皮表紙の特装版。
世界三大美書とも言われる書物の美しさを、ゆっくりとご覧ください。
ウイリアム・モリスについては、モリサワのコレクションが群馬県立近代美術館の企画展で展示された際のnoteでも詳しくご紹介しています。ぜひご参照ください。
ー 文字の起こりや印刷の歴史、写植の発明からデジタルフォントまで、いろいろと実物を見ることができました!
加藤 学校の教科書で習ったようなものや、普段仕事で使う何気ない知識に関する展示物もあったりして、楽しく学ぶことのできるショールームだと思います。
ー すべての展示物をご紹介できないのが残念です。ショールームは一般の方でも見学ができるのでしょうか??
加藤 はい! 見学時間は当社の営業日・営業時間のみですが、ぜひ実際に訪れていただき、さまざまなコレクションの実物をご覧いただきたいです!
見学のご案内
ショールーム「MORISAWA SQUARE」の見学
モリサワの本社(大阪)にあるショールームの見学に関しては、下記のページの下部にあるリンクよりお申し込みください。
写真植字機「MC-6型(2024)」の見学・体験
写真植字機「MC-6型(2024)」の見学・体験は、モリサワの本社(大阪)・東京本社にて実施しています。
ご希望の方は、下記ページの下部にあるリンクよりお申し込みください。
モリサワのショールーム「MORISAWA SQUARE」についての魅力は伝わりましたでしょうか?
本企画〈モリサワnote文字旅〉は、今後も文字や印刷を巡って旅を続けて行きたいと思います。お楽しみに!