そのデータ、印刷して大丈夫?
近年、インターネットの普及とともに紙に印刷する場面がだいぶ減ったといわれ、データ作成もWeb用途をメインで作成している場合が多くなってきたと感じます。しかし、紙への印刷が突然必要になった場合、Web用に作られたデータをそのまま印刷して問題ないのでしょうか?
今回は社内でWeb用画像を印刷した際に起こった落とし穴を例にして、印刷時のデータ作成におけるポイントを物語形式でお届けします。
文字の色が違う…?
入社1年目のA君は社内で行う内覧会の準備をしています。
部長:明日の内覧会で、この間うちの部でWeb用に作成した画像をPRに使いたいから、その画像をそこのプリンターで100部ほど印刷しておいてくれないか? ついでにサイトにも誘導したいからURLをQRコード化して、画像の右下あたりに付け加えておいて。
A君:はい、承知しましたー!!
というわけでA君はデータを画像編集ソフトで開き、QRコードをつけて印刷をしてみました。しかし…
A君:あれ? 文字の色が全然違う。文字以外にも全体的に色がくすんでWebで掲載されているものと全く違うものに見える。これはお客さんに見せられないぞ…。
困ったA君は先輩Bさんに相談してみました。
CMYKとRGB
先輩B:Web画像を印刷したら色が違うって? そりゃそうでしょ。そもそもWebと印刷では色の表現方法が異なっているからね。A君はCMYKとRGBは知っているよね?
A君:詳しくは知らないですけど、言葉は知っています!
先輩B:では基本的なことから説明しようか。
色はテレビやPCモニターなどは光を使い、印刷物や写真などはインクを使って表現します。
モニターなどの光(源)は三原色「赤(Red)・緑(Green)・青(Blue)」を組み合わせて色を表現しています。この各色の頭文字をとってRGBといい、この3色を混ぜ合わせると、明るい色へと変化し混ぜるほど白(White)に近づいていきます。
対して、印刷などの色(料)は三原色「シアン(Cyan)・マゼンタ(Magenta)・イエロー(Yellow)」と、CMYを補うために利用する「ブラック(Black)」の4色を使って色を表現しています。この4色はRGBと同様に各色の頭文字をとってCMYKと呼んでいます。
CMYを合わせると、暗い色へと変化し、混ぜるほど黒に近づいていきます。ただし、すべてを100%にして混色しても完全な黒にはならないので、ブラックも使用します。オフセット印刷やデジタル印刷機などではこの仕組みを利用し、CMYKの各色を順番に刷って色を重ねることで絵柄を表現しています。
このようにCMYKとRGBではベースとなる三原色、混色の方法が異なるため「表現色域」にも違いがあります。
表現できる色の幅(表現色域)は図のようにRGBの方が範囲は大きくなり、RGBでは表現できても、CMYKでは表現できない色も存在することになります。そのため、RGBで作成したデータをCMYKの色域で印刷すると、色がくすんでしまい、イメージと異なる仕上がりになってしまうわけです。
A君:つまりこのデータはRGBで作成しているので、印刷すると色がくすんでしまったということですね?
先輩B:そういうこと。印刷目的であればCMYKでデータを作らないとでき上がったものがイメージと違う結果になってしまうよ。最近ではRGBに近い色が再現できるデジタル印刷機も出てきているけどね。
A君:わかりました! じゃあこのデータをCMYKに変更して印刷してみます! え~と、CMYKに変更する方法をネットで検索して……これで良し!
先輩B:いやいや、単純にカラーモードをCMYKに変更するだけじゃダメ。全体の色を見直す必要もあるし、なによりブラックには要注意だよ。この画像はブラックを多く使用しているので特にチェックが必要。
A君:え、ブラックに要注意ってどういうことですか?
ブラックに注意
先輩B:RGBのブラックをCMYKに変換すると、意図せず4色のブラックに変換されてしまう場合があるよ。
A君:4色ってブラック1色しか使っていないのに?
先輩B: では説明しよう。
4色のブラック、リッチブラックとは?
RGBの色をCMYK化すると4色のブラックに変換される場合があります。
このようにCMYKすべての色を使う結果となります。
またK100%だけのブラックではなく、CMYも追加して濃度をより濃くして表現するリッチブラックという技法があります。これは深みのある黒などを表現するために意図して使用されることが多いです。
先輩B:特にブラックの細い文字が複数の色のかけあわせやリッチブラックになると各色のわずかな印刷の版ずれにより、読みづらくなる可能性が高くなるよ。逆のパターンでリッチブラック背景に白抜きの細い文字なども印刷の版ずれを起こしやすくなる。このデータは両方ともあるから文字部分の色には注意が必要だよ。
先輩B:最近のデジタルプリンターは性能がいいから、ずれはそこまで起きないことが多いけど、事前に対処しておいたほうがいいね。他にもトナーやインクを多く使うことの原因にもなっているので、エコ的な面でもよろしくないね。
A君:まさにさっきのデータで該当するところがありました。
先輩B:あと、この右下にある追加してもらったQRコード。この画像はCMYKでできているのかな?
A君:適当なサイトで作成したものを使っているので、わかりません…。
先輩B:バーコードやQRコードの画像はWebサイトで手軽に作成できるけど、RGBで作成されたものだと印刷時に4色に変換されてしまう場合があるよ。そうすると、さっきの文字と同様に版ずれの影響で正常に読めなくなる可能性があるね。
A君:そうか! 全然考えていなかったです。
先輩B:バーコードが版ずれを起こすと読み込めなくなる可能性もあるから注意しないとね。
A君:はい、わかりました! ではブラックはすべてK100%に…っと。
先輩B:まって! ストップ。ブラックをすべてK100%にすればいいってもんじゃないよ。
A君:え、どういうことですか?
K100%とオーバープリントで色むら
先輩B:K100%ベタで印刷すると色むらを起こすことがあるよ。あとオーバープリントにした場合も。
A君:………オーバープリントって何ですか?
先輩B:…説明しよう。
オーバープリント
オーバープリント(ノセ)とは色を重ねて印刷することをいいます。重なり合った部分は、前面の色と背面の色が混ざった色が印刷されます。
対して、オーバープリントをしない場合(ヌキ)とすると背面の色と前面の色が混ざらないよう、背面は白く切り抜いて印刷します。
特にK100%の小さな文字は、ずれが起こると紙の白い部分が目立ってしまい、文字が読みづらくなってしまうことがあります。そのため、K100%の文字はオーバープリント処理をしておくことが多いです。
先輩B:ただ、K100%をオーバープリント扱いにすると、色を重ねたことで色むらや色が透けることが起こる場合もある。たとえばここ!
先輩B:K100%の文字をオーバープリント扱いで印刷すると後ろにある背景が透けてしまうことがある。そこで、K100%にCMYを混ぜたブラックを使うことで色むらや透けることを回避するんだ。
A君:そっか、じゃあこのデータのここの文字はCMYを混ぜたブラックがいいのですね。
先輩B:K100%は出力機側の処理で自動的にオーバープリント扱いにされる場合もあるから、実際にはどっちが適切なのか、きちんと確認した方がいいね。他にもK100%を使って広い範囲で印刷すると、色ムラが目立ったりすることもあるから、その時もCMYを混ぜたブラックを使った方がいいよ。
塗り足しの必要性
A君:あと本当に初歩的なことですが、そこのプリンターって用紙の端まで印刷できないのですね…。
先輩B:何をいまさら…。プリンターによってはできるものもあるけど、基本は端まで印刷できないと考えてね。
塗り足し(裁ち落とし)とは?
Webでは塗り足しなどは関係のない世界です。印刷で用紙の端までデザインする時は断裁前提で「塗り足し」が必要です。断裁を想定していない場合は用紙の端まであるデザインにすることは避けるのが無難です。
そして仕上がりサイズに合わせてトリムマーク(トンボ)が必要です。印刷や断裁時には、このトリムマークを基準に位置を合わせます。トリムマークは最前面に配置し、他のオブジェクトで隠れないようにしてください。
A君:わかりました。先輩のおかげで印刷する際のチェックポイントが理解できました!
先輩B:そうだね。 印刷するのであればちゃんと印刷用にデータを作成する必要があるし、Webで作ったものを印刷用に! …と簡単に考えてはいけないね。
A君:はい、よくわかりました!
先輩B:あと社内のプリンターも使用してから十年以上たって、古くなっているから新しいプリンターにそろそろ替えたいね。
A君:本当にそうですね~。部長にも伝えてみます!
(ちなみにこの話は半分フィクションですが、プリンターを買い替えたのは本当です。)
ということで、今回は印刷する上でのデータ作成の落とし穴を紹介しました。Web用の画像データをそのまま印刷データにすることはなかなか難しいです。
印刷する前にそのデータが印刷に適しているものなのか、じっくり見ておきましょう。また、プロである印刷屋さんに依頼する際は印刷屋さんが提示しているデータの注意点をしっかり確認しておきましょう。
では次回もお楽しみに!
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