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多言語の組版ルール【欧文編】第3回 欧文組版の手法

多言語の組版に必要な、基礎知識やテクニックを紹介する本連載。欧文編の第3回では、組み方向、文字揃えや欧文合字など、より実践的な組版ルールについて紹介します。

これまでの多言語の組版ルール【欧文編】も、ぜひ併せてお読みください。


1. 組み方向

欧文組版では、「箱組み」「ラグ組み・左揃え」「ラグ組み・右揃え」「センタリング」「両端揃え」の5つの組み方向での表現が可能です。
組み方向の選択に迷った場合は、伝える内容を意識して、次のように考えると効果的になります。

   1-1. 箱組み

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左右版面に均等に流し込み、最終行のみ左揃えになる組み方です。小説、エッセイ、記事などの読み物に適しています。

特に一般書籍のようにページ数の多い読み物では、読者が組版を意識することなく、内容に集中できる組み方といえます。

ただし、第2回で紹介しているように正しいハイフネーション/ジャスティフィケーションの設定をし、単語感覚の白みのバランスを整え、左揃えになる最終行の単語間隔との差が目立たないように組版する必要があります。
また、アプリケーションの設定ミスによる不自然な文字間隔のアキも避けなければなりません(アプリケーションの設定については第6回で紹介予定です)。

  1-2. ラグ組み・左揃え

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テキストを左揃えにし、行末は成り行きで改行される組み方です。組版全体にリズムを持たせたいときには、行末にできる白スペースの動きがその助けをします。
また、箱組みでは単語間の白みの調整が難しいという時や、たとえば、版面を2段組みにした場合などの組幅が狭いコラムで、この組み方を選択するのもよいでしょう。

よく、「ハイフネーションしないで、ラグ組みにすれば楽だし、間違いも少ない」という声を聞くことがあります。
しかし、そのような組版では、行末の白みのバランスが悪くなり、ある行とある行での白みのバランスが全然違う、という現象が起きてしまいます。
ラグ組みのときには、全体の紙面、組幅の長さ、テキストの黒み、後述するインデントの幅に対して、バランスよく行送りがされるように、行末のハイフネーション範囲の設定をする必要があります。
ハイフネーション挿入を許可する単語のスタート位置の範囲(上図の「n」値)を決めて目安にするとよいでしょう。

奇をてらってわざとガタガタ感を出すという考え方は、遠目にデザイン的にみると面白いのかもしれませんが、実際に読んでみると、可読性が低下しています。行末は、ほどよくなめらかな不揃い感を心がけるようにしましょう。

  1-3. ラグ組み・右揃え

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上図の組版サンプルのように、引用文、広告などのキャッチコピーを右揃えに組版すると、特別なものであることを強調する役目をします。
読み手は、右揃えで組版されているところは、「何か大切なことが書いてある」と自然に意識することになるでしょう。
右揃えは、読み手に着目するように促す役目や、機能的に紙面を使う手法としての効果が期待できます。

  1-4. 両端揃え

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両端揃えで書籍タイトルを組版した例です。両端揃え組版では、ひとつのスタンプのようにまとまったイメージの表現が可能です。

同書体のウェイトを効果的に選択し、文字の黒みが不揃いにならないよう注意します。また、時には文字に長体・平体をかける必要もありますが、その場合は、文字の形や黒みのバランスが崩れないよう繊細な注意が必要です。

*上記例は書籍『Bohemians, Bootleggers, Flappers, and Swells: The Best of Early Vanity Fair / Penguin Press』のタイトル文字をアレンジしたもの

  1-5. センタリング

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図1の組版サンプルは、キャンペーンポスターのキャッチコピー例です。欧文では、1ワードで強い意味を持つことができるため、センタリングは確実に読み手に注目させます。

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図2はホイットマンの詩集『草の葉』の一編です。センタリングにより文章全体の組版の形に収束や発散の動きを持たせることもできるため、その文章に読み手をワクワクさせる動きを与えることができます。
書籍カバーのタイトルまわりなどでは、欧文組版の場合でも和文組版と同様の効果を期待することができるでしょう。

ただし、改行位置には注意が必要です。組版する言語について適切な改行位置が見つけられない場合は、その言語専門の校正者に校正依頼をすることも大切です。

欧文書籍では、Titleページの次ページに「コピーライトページ」が入ります。コピーライトについて記載している、特に読者には興味のないページですが、ここをセンタリング組版にして動きをつけることで、なんでもない情報に刺激を与え、読者の興味を一瞬引くことができます(ただし、コピーライトページは日本の奥付同様に、出版関係者にとっては重要な情報のページです)。

2. 文字揃え/行送りの基準

欧文の字形は、一文字ずつの幅や高さが異なっています。それらを配置して並べていくにあたり、下図の名称を用います。

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欧文では、「文字揃え/行送り」の基準は、欧文ベースラインになります。

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日本語用組版アプリケーションでは、「仮想ボディの上/中/下」「平均字面の上/下」「欧文ベースライン」と6種類ありますが、英語版やその他欧米諸国での組版アプリケーションでは特に設定項目がなく、自動的に「欧文ベースライン」になります。

3. 欧文合字(リガチャ)

欧文では、「f」と「i」や「f」と「l」が隣合ったときに、文字同士の重なりが不自然になり、可読性が損なわれてしまうことがあります。

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これを解消するために、欧文合字(リガチャ)があります。
下記の5つについては、必ず欧文合字をする必要があり、ほとんどの書体で合字のグリフが用意されています。

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最近では、これ以外にも「f」と「j」、「f」と「b」などの合字が用意されている場合があります。

欧文の組版を流しっぱなしにしていると、字間/単語間の未調整により合字が外れてしまう場合がありますので、注意が必要です。
サンセリフ書体*のデザインによっては文字同士があらかじめ衝突しないケースもあり、合字が用意されていなかったり、下図のような連なる形ではない合字デザインが採用されている場合もあります。

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*和文の明朝体のように、線の末端に小さな飾り(セリフ)がある書体を「セリフ書体」と呼びます。
反対に、和文のゴシック体のように、セリフが除かれて単一な直線でつくられた書体を「サンセリフ書体」と呼びます。

4. 組幅/段組み

組幅が広すぎて可読性が損なわれてしまうのは、 和文でも欧文でも同じです。欧文組版では、長くても13~16ワード程度までと考えられます。
1行がそれ以上長くなってしまう場合は、段組みの設定をして、1行のワード数が多すぎないようにしましょう。

5. 文字サイズ

欧文組版では、一文字一文字読まれるのではなく、1単語の形を追って読まれていきます。欧文組版での文字サイズは、見え方としては和文よりもやや小さめで大丈夫です。
逆に、和欧併用表記で元の欧文に合わせて和文サイズを決める場合は、和文が小さくなりすぎないように注意が必要です。

6. 字間(レタースペース)

本文テキストのように、長文を読ませる欧文組版でのレタースペースは基本的に「ベタ」になります。
ただし、ここでいう「ベタ」は和文の「ベタ」とはニュアンスが異なり、「文字固有の字幅情報とカーニング値に基づく組版」となります。和文でいう「プロポーショナルツメ」の考え方に相当します。

欧文組版に配慮したフォントメーカーから販売されている書体は、このレタースペースが、流し込みをしたときに自動で美しく並ぶようにペアカーニングが設定されていますので、それを正しく活かすように組版アプリケーションの設定をする必要があります。

また、小文字や大文字小文字で組版する場合は、むやみにレタースペースを開けてはいけません。前述のように欧文組版では、1文字ずつ読むのではなく、単語の形で読むものです。ですから、この形を壊してしまう組版は避けなければなりません。

大文字だけ、または小型大文字(Small Caps)だけで組版する場合は、「単語の形」という概念がなくなります。この場合、レタースペースを少しゆるめに調整すると、可読性が増します。

また、質のよい書体であっても、販売された時期などにより、大文字/Small Caps同士のペアカーニングが設定されていない場合もあります。大文字/Small Capsのみで組版する場合は、個々のレタースペースに気を配りましょう。

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7. インデント(字下げ)

一般的な読み物の場合、本文では第1段落目はインデントをせず、2段落目からインデントを開始します。
また、最近の和文組版では、一文字下げをしない組版が人気がありますが、欧文では、複数段落で構成される本文では、2段落目以降は必ずインデントをします。

インデントの代わりに1行アキにする場合もあります。これは、Webサイトや商品紹介の広告などでは効果的に利用できますが、書籍や会社案内など、読み手に信頼感を与えたい場合は、2段落目以降のインデントを必ずしましょう。

インデントの幅については、正しい数値としてのルールはありません。
使用する書体、文字サイズと行間による黒みのバランス、行末処理の仕方などにより、そのバランスをより際立たせるインデント幅を見つけ、読み手が新しい段落だと意識しやすい幅になるように何パターンかのサンプル設定をしてみましょう。その読み物にほどよい幅を見つけることは「欧文組版をする」大事な仕事のひとつとなります。

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8. All Caps

単語を大文字だけで表示する方法はAll Caps (オールキャップス)といいます。

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All Capsは、見出しや広告のコピーなどに使われますが、本文中にAll Capsで表記することはまれです。
よく、日本から発信される欧文組版で、固有名詞をAll Capsで表記しているものを見かけます。突然 本文中にAll Capsでの表記が入ると、日本語の明朝体の本文の中に、太いウエイトのゴシック体で強調しているような強い印象になってしまいますので、気をつけましょう。

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9. Small Caps

欧文組版では小型大文字のSmall Caps(スモールキャップス)を効果的に使うと、可読性を上げることができます。
最近では、Small Capsは書体にセットとして含まれており、OpenType機能の一部として表示させることができる書体が多くあります。目的に合わせてSmall Capsの有無を確認してから書体を選ぶことも大切になります。

Small Capsは、下図のように、すべてをSmall Capsにする場合と、単語先頭文字だけを大文字にする場合があります。また、使用している書体がSmall Capsを持っていないときに、アプリケーションで70~75%程度縮小させ、擬似的Small Capsを表示させる場合も見受けられます。

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擬似的Small Capsでは、文字がやせて黒みのバランスが悪くなっています。このような使い方は、せっかくの洗練された優雅な印象が損なわれ、文章のリズムも悪い欧文組版に見えてしまいますので、気をつけましょう。

10. 数字

欧文組版の醍醐味を味わうひとつに、数字の種類を使い分ける手法があります。
欧文書体の数字は「ライニング数字」「オールドスタイル数字」の2種類があります。ライニング数字は、一般的に使われている数字と考えてよいでしょう。
オールドスタイル数字は、アルファベットの文字の中に入っても自然に本文となじむよう、ディセンダやアセンダ(参考「2. 文字揃え/行送りの基準」)に変化をつけた数字です。また、それぞれ等幅数字を持っている場合もあります。

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本文などでアルファベットと一緒に使う場合は、オールドスタイル数字を使うと、可読性が損なわれず、なめらかな読み心地の組版になります。
一方、数値を見せることが重要な書類や、桁を揃えて見せる必要がある場合は、等幅数字を使うと効果的です。

11. ウィドウとオーファン

欧文組版において、ページの先頭行(段組みの場合は、その段の先頭行)に、その段落の最終行があふれてしまうことを「ウィドウ」といい、ページの最終行(段組みの場合は、その段の最終行)にその段落の第1行目だけが残ってしまうことを「オーファン」といいます。

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欧文組版では、このウィドウとオーファンを避けて組版をすることが重要です。次の4つのポイントに気をつけましょう。 

(1)冊子や書籍など長文の組版の場合
長文はウィドウ/ オーファンが発生することが多いため、以前のページに戻って調整・吸収ができるよう、組版はなるべく余裕を持って組んでおく必要があります。
行末に一単語が残ってしまうことばかりを気にしてしまい、この解消ばかりを優先してしまうと、ウィドウ/オーファンを解消できるポイントがなくなってしまいますので気をつけましょう。 

(2) 組版者だけでの解消が難しい場合
編集者などに相談をして、文章量の調整をしてもらいます。

(3) ウィドウまたはオーファンのどちらかしか解消できない場合
ウィドウの解消を優先します。実際にオーファンはOKとする編集ルールはよくありますが、ウィドウをOKとする方針はほとんどありません。 

(4) ウィドウがどうしても解消できない場合
そのウィドウの行が少しでも長くなるよう、その段落の単語間の調整をして、単語送りを調整します。

欧文組版では、「ウィドウ」「オーファン」「単語間」「行末の白みの調整(ラグ組みの場合)」「ハイフネーションの位置」など、いくつか配慮しなければならないポイントがあります。
しかし、これらをすべて守った組版を実現するのが難しい局面が、実際の組版作業では多く発生します。
そのような場合、状況ごとに何を優先すべきかを考え、読み手にストレスを与えない組版になるよう妥協点を見つけるのも、欧文組版作業のひとつといえます。

12. ハンギング(ぶら下がり)

和文組版同様に、欧文にも「ハンギング」があります。例えばA、TやWのように上下どちらかに頂点があるため左右の余白が目立つ文字や、ハイフン(-)、カンマ(,)などの約物を、あえて行頭や行末からはみ出して組むことで、文字が揃って見えるように整えます。
しかし現在では、ハンギングなしに見慣れている人々も多く、賛否はさまざまです。組版する読み物についてどちらがふさわしいかを検討し、組版方針を決定します。

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今回はここまで。次の第4回では、「欧文約物・併記組版の考え方」を紹介します。句読点、引用符といった身近な約物も、欧文の基本ルールに即して使えるようになりましょう。さらに、実際に多言語を併記して配置するとき、読みやすくなる組版の手法もお伝えします。

<参考> 記事内で使用した欧文書体はこちら
Lutes UD PE
Role Serif Text
Clarimo UD PE
Vonk
UD新ゴ AP版
RS Skolar PE

記事内の用語はモリサワの「フォント用語集」の中でも詳しく説明しています。ぜひ参考にしてください。


*この記事は『MORISAWA PASSPORT 英中韓組版ルールブック』の内容を抜粋・加筆したものです。
掲載画像は、同書 p.12〜17の図をモリサワにて改訂しています。








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