多言語の組版ルール【韓国語編】第2回 韓国語組版
韓国語の表記に用いる「ハングル」について、今回は文章を組む際に知っておきたい文字組みとしての基本ルールをご紹介します。
ハングルの成り立ちや文字構造の基本は、前回の記事をご覧ください。
[韓国語編 全3回]
多言語の組版ルール【韓国語編】第2回 韓国語組版(この記事)
組み方向と文字の揃え
かつてハングルは縦組が多かったのですが、現代の組版は中国語簡体字と同様に、横組がほとんどです。新聞や雑誌の一部には見出しとして縦組が使われることもありますが、本文などではあまり見かけません(一部のフォントには縦組用文字がありますが、多くのフォントで縦組用文字は用意されていません)。
また、ハングルの文字は組み合わせる母音と子音によって形状が変化するため、中心または上側を基準として文字を揃え、「両端揃え」または「左揃え(行頭揃え)」を基本にテキストの流し込みを行ないます。
本連載については、現状にあわせ、横組を前提にした内容で記載します。
一般的な文字サイズと字間
文字サイズの考え方は他の言語と違いはありません。文字サイズの単位は「ポイント(pt)」となり、本文の場合は10pt前後を目安とします。
また、ハングルフォントはプロポーショナルフォントと固定ピッチフォントが混在していますが、Morisawa Fontsで提供するハングルフォントは記号や英数字以外は固定ピッチです(OpenTypeフォントの「プロポーショナルメトリクス」にハングルグリフは対応していません)。
基本的に字間はベタ組で、ハングルと英数字の間にスペースは入りません。しかし、ハングルの標準的な並べ方は「分かち書き」となっており、単語単位でプロポーショナルスペースが入ります。ベタ組にした時に字間が空き気味になるようなフォントの場合、分かち書き部分との区別がしにくくなることもありますので、均等詰め(⼀律詰め)で組むことも考慮したほうがいいでしょう。
行送りと段組み
韓国語の組版は、活字組版をしていた日本の影響があり、日本語組版と似通っているところがあります。そのため、行送りは文字の大きさに対して150~190%程度の数値で設定すればよいでしょう。ただし、縦幅・横幅のバランスが異なる書体もあるので、この場合は縦方向の文字の大きさに合わせて行間を設定します。
また、先述のようにハングルは単語単位の分かち書きが基本なので、行長が短いとその分入る単語の量が少なくなり、文章としては読みづらくなる可能性が高まります。また、行頭・行末揃えをすることによって字間が広がるため、分かち書きの区分がしにくくなります。ある程度の行長を確保して段組を行なうか、切りのいい単語で改行して左揃え(行頭揃え)にすることも検討する必要があります。
段落の字下げ
段落の起こし部分はプロポーショナルスペースを入れます。ただし、キャプションなどのように横幅が狭いテキストボックスでは、字下げを行わずに組むこともあります。なお、ハウスルールとして1字下げにすることもあるようです。
句読点に相当する文字
韓国語の場合、縦組と横組で使用する句読点が違います。横組では句点に「.(プロポーショナル)」、読点に「,(プロポーショナル)」を使います。配置位置は、文字枠内の左下です。
「,(プロポーショナル)」は「서울, 대구, 부산」のように並列に語句を並べるときにも使います(並列の語句を並べるときは「•(中黒)」を使う場合もあります)。
なお、縦組の場合、句点は「。(全角)」、読点に「、(全角)」を使います。
括弧に相当する文字
「( )(丸括弧)」は文章に続けて補足説明や注意書きを加えたり、目次の数字に使うなど、日本語と同じ使い方をします。会話文に使うのは「“ ”(ダブルクォーテーション)」で、カギ括弧は使いません。「‘ ’(シングルクォーテーション)」は強調したい文に使用します(語句の強調には下線が使われることもあります)。
文章中にタイトルなどを記載する際に使うのが「 」(カギ括弧)です。書籍の引用には『 』(二重カギ括弧)が使われます。
疑問符、感嘆符に相当する文字
疑問符には「?(クエスチョンマーク)」、感嘆符には「!(エクスクラメーションマーク)」を使います。疑問符や感嘆符を使った後ろにすぐ文章が続く場合、プロポーショナルスペースのアキを入れることが多いようです。
ダーシやリーダーに相当する文字
ハングル組版で使用する「ダーシ」には「Enダーシ(enダッシュ)」と「Emダーシ(emダッシュ)」の2種類があります。
「Enダーシ」は「付標」と呼ばれ、2つ以上の単語を連続して列挙するときに使います。「Enダーシ」の代わりに「ハイフン」を使うこともあります。
「Emダーシ」は「線標」と呼ばれ、タイトルの後にサブタイトルを表示したり、補足説明を書くときに使います。
3点リーダーは「……」と2つ重ねて6点として記載されます(リーダーの場合、フォントによっては3点リーダーが中央に位置する字形も、下に位置する字形もありますが、どちらも3点リーダーとして使用可能です)。
コロンや強調時の表記方法と字体の違い
ハングルと日本語の組版で大きく違うところは、句読点に代表されるような記号の使い方です。
行間、字間の処理などは、かなり日本語組版のルールに近い設定となります。たとえば注釈に使う記号も「※(米印)」と「*(アスタリスク)」が混在していますし、箇条書きも数字が使われます。
ただ、最近のWebや雑誌では括弧類やスラッシュなどの記号はプロポーショナルで処理されることが多く、これは欧文組版に近いものと言えるでしょう。また、「:(コロン)」を使う場合も、「나: “즐거웠습니다”」といった具合に「:」の後にプロポーショナルスペースが入ります。現代的なハングルの横組組版においては、欧文組版のルールを意識することがひとつのポイントになりそうです。
また、日本語組版では一部の論文や公文書で利用されるような下線による強調処理が、韓国語組版では商業印刷物などでも利用されるため、その点は注意が必要です。同様に斜体による強調もマニュアルなどで使われます。
校正作業や書体選びで注意したいのは、ハングルの中で書体によって字体が異なるデザインのケースです。たとえば、明朝体とゴシック体を見比べた場合、同じ文字なのに文字に点の有無があったり、2画が1画に見えるような違いがあります。「フォントを変えたら文字の形が違う」となっても同じ文字を示していることも多いので、あらかじめこのことを把握しておきましょう。
ほかの言語が混在する時の表記
ハングルと組み合わせる多言語の代表が英語です。また日本国内で発行される印刷物の場合は、固有名詞などでハングルと日本語の混植も多く見られます。
ハングルは左から右へと文章が流れる横組なので、欧文も文章の中に自然と入れることができます。英数字や英単語を入れる場合は、日本語組版の混植と同様、プロポーショナル文字を使います。ただ、行揃えとしては行頭揃えにすることが多いようです。英語の単語にはハイフネーション辞書によって改行時にはハイフンを入れる場所が決められていますが、韓国語の場合は、日本語と同じように1文字単位での自動改行を許容します。
ただし、分かち書きのスペース部分で改行したほうが読み手のリズムを崩さずにすみますし、行頭揃えの場合はそのほうが自然になるでしょう。
日本語のドキュメントをハングルに置き換えて組版を行う場合は、文字の大きさに注目します。日本語で明朝体が使われていた場合、体裁を揃えるためハングルで明朝体を選択することが多いのですが、利用するフォントによっては、ハングルのボディサイズが日本語の文字より小さく見えるケースもあります。その際は日本語の文字を小さくするか、ハングルを大きくするか、文字量などのレイアウトや組んだ時のバランスを見て判断しましょう。
また、同じ文章でも日本語とハングルとでは文字数が異なる場合がありますので、日本語のレイアウトをハングルに転用する際は、事前にその分を想定して紙面設計を行っておくか、テキストエリアや文字サイズなどを変更・調整してください。
ここまで、ハングル組版をする際に気をつけたい基本ルールをお伝えしました。次回は、Adobe IllustratorやInDesignを使った、より実践的な手法をご紹介します。
*この記事は『MORISAWA PASSPORT 英中韓組版ルールブック』の内容を抜粋・加筆したものです。