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多言語の組版ルール【韓国語編】第1回 ハングルの基本

和文だけではなく、世界各国の言語に対応した文字を提供しているモリサワ。多言語の組版について基本ルールをお伝えする本企画では、過去に欧文編・中国語(簡体字・繁体字)編をご紹介しました。

今回から3回にわたりお届けするのは、韓国語や朝鮮語の表記に用いるハングルです。日本から一番近い外国で使われている言語でもあります。『ハングル』は言語の名称ではなく文字の呼び方であり、韓国語や朝鮮語を表記するための表音文字を指します。日本語における、ひらがなやカタカナに類するものと言えます。
第1回では主に、文字としてのハングルについて触れていきます。


1.ハングルの成り立ち

大韓民国(韓国)や朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)で使われている文字『ハングル』は李氏朝鮮の国王・世宗が国内の学者に命じて作成し、「訓民正音」という名前で1446年に公布されたことが始まりと言われています。
文字が作られた来歴がはっきりとしていることや、その目的が庶民にも文字が扱えるようにしたという点で、ほかの言語にはあまりない特徴と言えます。
ハングルが作られるまでは中国大陸や日本と同じように漢字を用いて韓国語を記していました。
そして韓国では1990年代までハングルと漢字が混用されていました。その頃から純ハングルの媒体も発行されてはいますが、現在でも必要に応じて漢字も使用されています。
ハングルの意味は「ハン=大きな、偉大な」、「グル=文字」をそれぞれ示しています。

2.ハングルの特徴

10字の基本字母および11字の合成字母からなる21個の母音字母と、14字の基本字母および5字の合成字母からなる19個の子音字母の、全40字から成り立っています。
しかし、言葉を表現する場合は母音字と子音字を組み合わせて音節単位で文字を作るため、ハングル全体の数は相当数に上ります。

ハングルの母音字母と子音字母

ハングルでは2つ以上の字母を組み合わせて1文字を成します。1文字は「子音字母+母音字母」、「子音字母+母音字母+子音字母」で構成されます。この構成は、キーボードで入力する際にも利用されます。

韓国国内で普及している文字コード規格「KS X 1001:2004」では、ハングル以外にも記号・漢字・日本のひらがなやカタカナなども収録されていますが、純粋なハングルは2,350字が収録されています(ちなみに、韓国と北朝鮮では国が定めた文字コードが異なります。北朝鮮では「KPSコード」が主流です)。ハングルに対応するキーボードは母音と子音の字母がキーに割り振られており、それらの文字を組み合わせて1文字を入力します(これを2ボル式と言います)。

そのため、一見1文字のように見えるものでも、実際には複数のパーツ(母音字と子音字)が組み合わされています。なお、韓国語には音読み、訓読みのような1文字に対する発音や同じ文字で異なる意味を持つような区別はありません。

日本語にハングルの説明を入れる、あるいは日本語からハングルだけを使った制作物に作り替えるなどの必要がある場合は、あらかじめ文章量が日本語と異なることを考慮してレイアウトを組んでおくとよいでしょう。

3.組版で使用する文字

ハングルで使われる文字は、日本語とあまり共通点がありません。形が共通する記号は多くありますが、微妙に字形やバランスが異なることから、日本語の文章内で使うと違和感が生じることがあります。

ハングルフォントに収録されている記号の一例

Morisawa Fontsが提供するハングルフォントは、ハングルの代表的な文字コード「KS X 1001」の文字を網羅した「Adobe-Korea1-2」を文字セットとして収録しており、黒丸白抜き数字や省略記号、数学記号などが扱えます。とはいえ、Adobe-Japan1の日本語フォントには含まれる天気記号がなかったり、矢印記号のデザインやバリエーションが違うなど、まったく同じものが揃うわけではないので、注意が必要です。

ハングルは基本的に横組みのため、縦組み用の文字はあまり収録されていません。ひらがな・カタカナも含まれていますが、拗音や促音文字などは横組み用のみとなっています。
また、どの言語でも同じですが、入稿されたテキストデータについてはその言語に対応したフォントで表示をしましょう。ハングルの原稿であればハングルのフォントを用いるのが望ましく、できればテキストが入力された環境と同じフォントで確認しておいたほうが良いでしょう。

4.使われる書体の種類と特徴

ハングル書体には、「明朝体」・「ゴシック体」・「丸ゴシック体」が一般的に多く使われていて、基本的には日本と同様の分類になっています。今回の記事ではモリサワの代表的なハングルフォントを例に紹介します。

ゴシック体

ゴシック体の例

「Clarimo UD KR(クラリモUDハングル)」は、多⾔語ファミリー「Clarimo UD」シリーズとの併記を想定したサンセリフ体のハングルフォントです。ふところを広めにとりつつもネイティブユーザーの慣れ親しんだプロポーションとすることで、潰れにくさと汎⽤性の両⽅を⾼めています。和⽂書体「UD新ゴ」や「新ゴ」との親和性が⾼いシンプルでニュートラルなデザインのため、本⽂から⾒出しまで多⾔語対応の必要な場⾯で統⼀感あるデザインを実現します。
※「Clarimo UR KR Pro(クラリモUDハングル)」は2025年2月のリリースを予定しています。

明朝体

明朝体の例

UD Reimin Hangul(UD 黎ミン ハングル)」は、和文書体「UD黎ミン」のデザインをベースに設計した明朝体のハングルフォントです。「UD黎ミン」と同様に柔らかいエレメント、直線的なストローク、可読性を重視した字形を採用しています。ハングルと日本語を併記する際には、「UD黎ミン」と組み合わせて使用することでデザインに統一感を出すことができます。 ゴシック体に比べるとボディサイズが小ぶりに設計されていることも、明朝体の特徴と言えます。

ハングルの書体デザインは、日本語書体のように1文字が正方形の中に収まるのではなく、長方形の比例幅で作られています。そのため、フォントや文字によっては日本語より少し小さめに見えることがあり、日本語とハングルを混在させる場合は同じ文字サイズのままではなく、日本語フォントの文字を少し小さくするか、ハングル側の文字サイズを大きめにするなどで調整しても良いでしょう。

現在のハングル書体は、モダンらしさを出すためウエイトを細めに、エレメント構成もシンプル化されたり、タブレットやスマートフォンで多く情報を載せるため横幅を狭くするなどの新書体が登場しています。また、手書き風のフォントデザインが若い世代を中心に人気のようです。

ここまで、ハングルの基本的な情報をお伝えしました。次の第2回では、さらに詳しくハングルの組版をご紹介します。

これまでお届けしてきた組版ルールの欧文編/簡体字編/繁体字編は、こちらのマガジンにまとめています。ぜひ合わせてお読みください。

*この記事は『MORISAWA PASSPORT 英中韓組版ルールブック』の内容を抜粋・加筆したものです。