多言語の組版ルール【欧文編】第6回 欧文書体の選び方
今回でいよいよ【欧文編】は最終回。
これまでの連載をこちらのマガジンにまとめています。
上質な欧文組版を目指すには、どのようなフォントを選んで組むと良いのでしょうか。連載中に紹介してきた基礎知識を振り返りつつ、書体選定のコツをお伝えします。
1. 本文組みの書体を選ぶとき
欧文組版に使う書体を選ぶ場合、数行程度のキャッチコピーや見出し用であれば、文字のデザインだけを優先して選んでも、手動で文字/単語間隔を調整すれば問題はないでしょう。
しかし、本文組みの場合、効率的なオペレーションを考慮する必要があるため、これから組もうとしているテキストがどのようなものなのかを把握して選択する必要があります。
たとえば、イタリック体を使うべき箇所があるなら、ローマン体のほかにイタリック体が用意されている書体を選ばなくてはいけません。
また、英語以外の言語で、その言語特有のアクセント記号付き文字が必要な場合は、その文字を含む書体が必要です。
例えば「浅草寺」という言葉を「Senso-ji」ではなく「Sensō-ji」と表記するルールなら「ō」のグリフ(マクロン)がない書体では正しく組むことができません。
フォントによって、合字(リガチャ)やアクセント記号(ダイアクリティカルマーク)付き文字、分数などのグリフの有無も異なります。組むテキストに足る文字があるか、確認をしましょう。
強調などのために文字を太くする処理が考えられる場合は、太いウエイトが用意されているか、確認が必要です。
ウエイトバリエーションが豊富な書体であれば、本文から見出しまで同一のファミリーで組むことができます。
2. 質のよい書体を選ぶには
これらの条件を満たしているうえで、さらに大切な選定条件は、その書体が「質のよい書体」であるかどうかです。
確認するためには、実際にテキストを流し込んでみて、レタースペースにおかしなところがないか見てみます。
どこを見ればよいかわからない場合は、以下の単語を試してみましょう。
レタースペースが不自然な場合、本文に使うべきかどうかを慎重に検討する必要があります。
欧文書体には個性的な新しいデザインの書体、世界中で永く愛されている書体など数多くの選択肢がありますが、上記のポイントを押さえて、組む内容に適した書体を見分けましょう。
【参考】MORISAWA PASSPORTで使える欧文書体
1. Lutes UD PE
「Lutes UD PE」は、デジタルデバイス上での視認性に配慮した、すっきりとした印象のセリフ書体です。
ラテンアルファベットに加えてキリル文字、ギリシャ文字、ベトナム語用文字を カバーする「PE」(汎ヨーロッパ)の文字セットで、151もの言語に対応。
和文をはじめ中文、韓文も揃うモリサワのUD黎ミンシリーズと併用しやすいデザインです。
2. Clarimo UD PE
「Clarimo UD PE」は、上のLutes UD PEと同じく「PE」(汎ヨーロッパ)の文字セットを採用しているサンセリフ書体。
ExtraLightからUltraまで8ウエイトを揃えており、本文はもちろん広告や標識表示など、さまざまな媒体・シーンに使えます。
3. Sharoa Pro
「Sharoa Pro」は、明快なエレメント、やや広めのカウンターで読みやすい欧文書体として2021年にリリースしました。骨格には手書きの風合いが残されており、温かな印象を与えるヒューマニストサンセリフ書体としての特徴を備えています。
10ウエイト展開と、スモールキャップや数字のバリエーションが豊富に搭載され、本格的な本文組みに対応した書体です。
▼詳細は「フォント沼」シリーズでも特集していますので、ぜひご覧ください。
4. Backflip Pro
「Backflip Pro」は、軽快で遊び心のあるディスプレイ書体です。
細いウエイトはオーガニックで優しい雰囲気を醸し出します。また太いウエイトでは、フレア(末広がりな始筆や終筆の先端の形状)や、一般的な書体とは反対のコントラスト(抑揚)が強調されることで、ユニークで独創的な表情を演出します。製品パッケージや広告コピーなどの利用はもちろん、短めの本文組みでも読みやすさを発揮できます。
5. Vonk Pro
「Vonk Pro」は、モリサワタイプデザインコンペティション2016欧文部門でモリサワ賞金賞・明石賞を同時受賞した、現代的な本文用セリフ書体です。
カリグラフィックな骨格に柔らかさと鋭さが混在するユニークなエレメントを採用しており、オリジナリティ溢れるデザインです。抑揚をおさえて丁寧なカウンターの設計を行っているため、小さな文字サイズや低解像度のディスプレイ環境でも本文書体としての見やすさを失わない点が特徴になっています。
6. Citrine Pro
「Citrine Pro」は、20世紀初頭の活字から影響を受けたサンセリフで、明るく幾何学的な要素を取り入れつつも、レトロで優しい風合いをもつヒューマニストサンセリフを目指して作成されました。
A1ゴシックとの和欧併記を目的に作られ、墨だまりや角丸処理といった共通のエレメントを採用しています。
今回で多言語の組版ルール【欧文編】は終了です。
この連載が、多言語組版にこれまで苦手意識があった方の理解促進や、そこまで関心がなかった方に「挑戦してみたい」と感じてもらえるきっかけになれば嬉しく思います。
さらに今後は、欧文以外の中国語、韓国語の組版に関する基本ルールをお届けする予定です。お楽しみに。
*この記事は『MORISAWA PASSPORT 英中韓組版ルールブック』の内容を抜粋・加筆したものです。
掲載画像は、同書 p.32の図をモリサワにて改訂しています。