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多言語の組版ルール【欧文編】第1回 欧文の基本

これまでのモリサワのnoteでは、日本語のモリサワフォントの魅力を中心にお伝えしてきました。ここでは少し趣向を変えて、【多言語の組版ルール】特集をお届けします。

まず最初は、日本語以外の組版として、欧文組版の基礎を全6回にわたり連載します。その後は、中文や韓文組版も特集する予定です。
広がる組版の世界をどうぞお楽しみに!

*文中の説明は、Adobe IllustlatorやInDesignでの使用をベースにしています。

「日本語組版なら、わかるのに・・・」多言語に戸惑っている方へ

日本には、ひらがな・カタカナ・漢字という異なる3つの文字を使用する、世界的に見ても珍しい組版文化があります。
しかし日本語が第一言語である人の多くは、その複雑さを特に意識することなく、日常の読み書きをしているのではないでしょうか。

PCで文字を打つと、ソフトウェア側で自動的に体裁処理をしてくれます。そのおかげで今や、組版のプロのみならず一般の人も、気軽に綺麗なビジネス文書やSNS投稿が作れる時代になりました。

ただ、全ての工程をソフト任せにはできません。最終的には自分自身で、見る人にとっての読みやすさ、分かりやすさを考えて、レイアウトの仕上げをしているかと思います。
この何気ない動作は、日本語組版のこれまでの成り立ちーー古来、漢字が中国からもたらされ、ひらがな・カタカナの文字が誕生して現代のデジタル化に至るまでに、文字を使うすべての人々に編み出されてきた「読みやすさ」の知恵ーーが日常生活に溶け込んでいる、豊かな文化の顕れともいえます。

そして昨今は、ご存知の通りグローバル化が進み、日本語以外の英語や、他の言語(多言語)での情報発信のニーズが高まっています。
モリサワでも、これまで欧文の他にも、中国語の繁体字簡体字ハングルなど、数々の多言語をサポートするフォントを提供してきました。

しかし、多言語を使う機会は増えているにも関わらず、それら独自の文字や組版のことを詳しく学ぶ機会は、国内ではまだ少ないのが現状です。

「何のフォントを使えばいいの?」
「ネイティブの人に、不自然に見えていたらどうしよう」

国際化に早く対応したいと考えていても、日本語組版との違いに困っている人は多いのではないでしょうか。

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ここでお伝えする世界の組版ルールは、日本語組版の歴史と同様に、各地域で長く培われてきた知識と技術の、ほんの一部です。
使いこなすためにはとにかく「実践あるのみ」ですが、まずは基本を学ぶことで、多言語組版に慣れ親しむきっかけにしてほしいと思います。

世界中のどの言語であっても、見る人・読む人に配慮した、美しい組版の基本を心がけましょう。

1. 多言語の「文字セット」を知ろう

まずは、多言語組版で使用するフォントの「文字」について確認します。

日本語版InDesignで組版サポートされている言語は、2021年現在、約48言語あります。それらの多くの言語では、A~Zまでのアルファベットのほかに、アクセント記号付き文字を必要とします。

そして、これらフォントにおける文字数の規格のことを「文字セットといいます。日本語DTPの現場で代表的な文字セットであるJIS(Japanese Industrial Standards)のように、多言語にも、それぞれの言語に必要な文字セットが設定されています。

*記事内の用語は、モリサワの「フォント用語集」の中でも詳しく説明しています。ぜひ参考にしてください。

2. 欧文を組むためのグリフと文字セット「基本ラテン」

日本でよく耳にする「アルファベット」とは、英語を中心に、様々な国と地域の言語に利用される文字のことを指し、一般的には欧文、ローマ字、ラテン文字とも呼ばれています。
この欧文で組版をする時、気をつけておきたい文字セットは「基本ラテン(Basic Latin)」です。欧文の標準ともいえる基本ラテンは、A〜Zのグリフ(字体)に加え、下図の記号付き文字を含む256文字が設定されています。

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3. 基本ラテン以外のグリフ

基本ラテンに搭載されていない、その他のアクセント記号付き文字は、「拡張ラテン」として分類されます。
もし、ロシア語やブルガリア語・ウクライナ語、ギリシャ語を記述したい場合は、拡張ラテンのキリル文字ギリシャ文字が搭載されている文字セットのフォントを準備する必要があります。

下表は、Adobe InDesignで組版サポートされている、各言語に必要なアクセント記号付き文字の主な一覧です。
書体を決めるとき、該当言語に必要なグリフがあるか必ず確認をしましょう。

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欧文フォントの歴史は古く、その分、バリエーションも非常に豊かです。洗練された魅力的なデザインが多く、日本の広告物にもよく使用されています。
しかし書体を決めるときは、記述しようとしている言語に対応したフォントかどうか、事前によく調べることが大切です。

【参考:モリサワが提供する文字セット】

現在モリサワでは、当社の独自規格の文字セットとして、ラテン文字全般の「Proセット」、さらにキリル文字やギリシャ文字を追加した「PE(Pan European)セット」を運用しています。中でも「Clarimo UD PE」や「Lutes UD PE」の書体シリーズは、1つのフォントで最大151の言語に対応しています。

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4. 組版ルールを知って正しく伝えよう

第1回は、欧文の基本について簡単に紹介しました。日本語の文字の特殊性もさることながら、欧文の分野でも、言語によってグリフの違いは多種多様ですね。
しかし、グリフの誤りが一つあるだけで、組版として致命的なミスになってしまうのは世界共通です。
そしてさらに、不適切な組版のせいでデザインの違和感や誤解が生まれてしまうと、中身の信頼性まで損なわれてしまいます。
例えば、海外で見る日本語の文書や看板が、漢字やひらがなの書体がチグハグの組み合わせであったり、改行位置や句読点が間違っている等、びっくりしてしまう組版だったことはありませんか?
時に笑ってしまうような間違いであっても、おぼつかない組版というものが不正確な情報の印象を与えてしまい、本来は便利で助かるはずの日本語表記なのに、逆効果になることもありえます。

多⾔語に翻訳した内容を意図した通りに正しく伝えるためには、文法的な言葉の正しさだけではなく、組版ルールをきちんと知っておくことが欠かせません。

次の第2回「欧文組版の考え方」では、実際に欧文で文字を組むステップに入ります。和文組版と異なる独自の考え方や、実際に使われている用語などについて具体的に紹介していきます。


*この記事は『MORISAWA PASSPORT 英中韓組版ルールブック』の内容を抜粋・加筆したものです。












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