欧文書体の魅力がたっぷり! ジャンル別にわかる、モリサワ新書体2022【欧文編】
いきなりですが、質問です。欧文書体、どんな風に選んでいますか?元からパソコンに入っている書体で十分という方から、海外の情報を積極的にキャッチしている方まで、いろんな方がいらっしゃると思います。
モリサワでは近年、コンテンツのグローバル化のニーズを考慮して欧文書体ラインナップの充実にも力を入れています。 今年の欧文新書体はなんと、49ファミリー504書体という過去に例を見ないボリュームでリリース予定です。
この記事では、少しでも欧文書体のイメージを掴みやすくするための手がかりとして “ざっくり4つのジャンル” にわけてご紹介します。
和文同様に様々なデザインがあり、それぞれに合った使用シーンがある欧文書体の魅力をお伝えしていきますので、最後までお見逃しなく!
今年の欧文新書体を並べてみました。目を引く華やかな見出し書体からベーシックな書体まで、CondensedやCompressedなどの幅展開を含めるとこんなにたくさん……!
「Abelha Pro」や「Areon Pro」などのモリサワ タイプデザインコンペティションでの入賞作品や、アメリカで先行発売していた「Roleスーパーファミリー」も一挙リリースとなります。
ということで、ここからは個別の書体を詳しく見ていきましょう!
時間がない方は “目次” から気になる書体をクリックしてみてくださいね。
1. オーガニック&ディスプレイ
有機的なスタイルや、 見出し用途の強いインパクトを持つ書体をまとめたのが「オーガニック&ディスプレイ」。
書体数が多いので、前後半に分けて画像にまとめてみました。
前半分は招待状をイメージしたワードで組んでいます!ほどよく丁寧でありながら、あたたかみも感じる書体が揃っています。
Abelha Pro
「Abelha Pro」は、書簡の筆跡を参考にデザインされたフォーマルな印象のスクリプト体です。シャープで流麗なストロークは、上品でありながらも軽やかな印象を与えます。
特定の組み合わせが来た際に置き換えとなる合字(リガチャ)にオリジナリティがあり、画像内「o・n」「c・h」「o・m」の組み合わせなどは、手書きだからこその合字だなと思います。
代替字形(オルタネイト)も多数搭載しているので、OpenType機能を使ってぜひお手元でいろんなパターンを試してみてください!
Areon Pro
「Areon Pro」は、平筆の書風から着想を得た現代風のセリフ体です。“平筆の書風” というのは、例えば「y」の終筆に見られるような、平筆で書いた時の筆の角度によって太さが変わっているデザインのことを指しています。
セリフが厚めに設計されていることと、ややリバースぎみのコントラスト(太く描かれる部分と細く描かれる部分の関係性が逆転するデザイン)をもつことで、セリフ体でありながらどこか親しみやすさも感じます。
Concert Pro
「Concert Pro」は、オンスクリーンでの利用を想定し開発されたやや長体ぎみのヒューマニスト・サンセリフ体です。
オープンカウンター(「C」などに見られる、文字の中に含まれる空間が開けていること)でシンプルな骨格であることに加え、ゆったりとしたスペーシングで設計されているため、可読性が高くなってます。
字幅の差が少なく文章を組んだ時に整理された印象をうけますが、アウトラインの先端に微細な角丸処理を施しているため、適度にあたたかみのある印象を与えることができる書体です。
Eminence Pro
「Eminence Pro」はクリーンで明るい印象のサンセリフ体です。やや長めに設計されたアセンダー・ディセンダーラインが上品な印象を与えます。
画像内「l」(小文字のエル)の始筆に見られるような斜めのカットも特徴で、文章を組んだ際に心地よいリズム感が生まれます。ウエイトが上がるにつれカットの表情も色濃くなるので、細いウエイトで文章組みをし、太いウエイトを見出しで使った際にもしっかりメリハリを出すことができちゃいます!
LatinMO Pro / LatinMO Condensed Pro
主に19世紀に見られた伝統的なウェッジセリフ体を再解釈したのが「LatinMO Pro」です。通常の字幅に加え、見出し利用に最適な長体のCondensedも用意されています。
“ウェッジセリフ” というのはなんぞや……という説明をしておきますと、“セリフ” というのは先端についた飾りのことで、それが三角形のような要素で構成されているのがウェッジセリフです。
この鋭利で繊細なセリフに腰高で独創的な骨格を合わせており、どこか気高さを感じさせるようなデザインになっています。伝記や歴史小説などの書籍装丁に合いそうな書体です。
「オーガニック&ディスプレイ」の後半の書体たちを、ファッションをイメージしたワードで組んでみました!
デザイン性が高い書体が多く、和文組版のワンポイントアクセントとしてご利用いただくと華やかなニュアンスを演出できます。
Lima PE
あたたかみのあるカジュアルな印象のセリフ体が「Lima PE」。
オンスクリーンの使用を想定して設計されており、アパーチャー(「S」や「c」などの文字の開口部)が広いことに加え、コントラストが低いので小さなサイズで使っても文字の輪郭が捉えやすく、本文組でも読みやすい書体です。
「c」に見られるような手書き由来のやわらかなカーブも、この書体のエッセンスになっています。
Pistilli Pro
「Pistilli Pro」は、豪快さと繊細さを持ち合わせる見出し用のセリフ体です。コントラストが高く、先端のくるんとした装飾も特徴的で、かなりインパクトのあるデザインです。
雑誌やウェブサイトのタイトルや大見出しに使うことで、個性的かつオシャレ、という雰囲気を演出できちゃいます(個人的には数字のデザインが可愛くてイチオシです……!)。
Rocio Pro
どこか柔らかさを感じる画線で構成されているのが「Rocio Pro」。起筆・終筆部分に残るインクの溜まりのようなふくらみは、「Rocio」(スペイン語で「しずく」)の名にふさわしい、優しく豊かな印象を与えます。
Italicには装飾的なスワッシュ字形を多数搭載しており、単語の並びに合わせてデザインを置き替えることができちゃいます◎
グリーティングカードなどで華やかな印象が欲しい時に使えば、おしゃれになること間違いなし!
Tapir Pro
「Tapir Pro」は、太いマーカーペンで書いた文字の形から着想を得たサンセリフ体です。
「i」に見られるような端々のカットした処理や、「b」のように外側はなめらかな曲線に対して内側はエッジになっているところなど、遊び心のあるデザインになっています。少し重心が低めなのもポイントですね。
お菓子やおもちゃなどの子供向け商品のパッケージの見出しなど、ポップで明るい雰囲気を演出するのが得意な書体です。
Vonk Pro
「Vonk Pro」は、カリグラフィックな骨格に柔らかさと鋭さが混在するユニークなエレメントを採用した書体です。
分厚く無骨な印象のエレメントに対して、丁寧なスペーシングやカウンター(文字の中の空間)の設計を行っているため、小級数や低解像度のディスプレイ環境でも本文書体としての見やすさを失わないのが特徴です。
さきほどご紹介した「Rocio Pro」とこの「Vonk Pro」はリリース済みのフォントなのですが、ウエイトが大幅に拡充され、文字セットも100言語(Pro)に対応することとなりました。
より使いやすくなったこれらの書体を、ぜひ活かしてあげてください!
Zingha Pro
「Zingha Pro」は碑文に見られるようなカクカクとした処理と、エレガントでしなやかな骨格、という一見相反する要素を掛け合わせたデザインのセリフ体です。
Italicはよりカリグラフィックで独創的なデザインになっていたり、Boldには装飾的な白抜き処理を施した “Deco” というスタイルがあるなど、デザインのバリエーションが豊富なのも嬉しいポイントです。
2. クラシカル&スタンダード
「クラシカル&スタンダード」は、上品さを感じさせる伝統的なスタイルやシンプルで汎用性の高い書体をまとめています。
「オーガニック&ディスプレイ」と同様、2つに分けた前半の書体たちは、レストランのメニュー表をイメージして組んでみました。
全体的に安定感があるデザインですね(美味しいご飯が出てきそうです……)。
BodoniMO Pro / BodoniMO Condensed Pro
「BodoniMO Pro」は、上品で洗練された印象のモダン・ローマン体です。垂直に処理されたステム(縦画)やハイコントラストなデザインが、適度な緊張感とエレガントな表情を演出します。
通常の字幅とCondensedの幅展開があり、スペースが限られている場合はCondensedを使うことで可読性を保ちながらより多くの情報を表示できます◎
ちなみに、欧文に少し詳しい人なら必ず聞いたことがある「Bodoni」ですが、活字を元にした書体でして、各社からこれにインスパイアされた書体がリリースされています。
モリサワにも「本明朝-BOOK」という書体の専用欧文としての「Bodoni」がありますが、今回の「BodoniMO Pro」ともまた違ったデザインなんです。
いろいろなBodiniを比較してみるというのも “フォント沼” だと思うので、ぜひ見比べてみてください〜!
CaslonMO Pro / CaslonMO Condensed Pro / CaslonMO Compressed Pro
「CaslonMO Pro」は、Caslonの活字をベースにやや現代的に整理された書体で、オールド・ローマン(伝統的なデザイン)からモダン・ローマン(現代的なデザイン)の過渡期にあたるトランジショナル・ローマンに分類されます。この書体はCondensedとCompressedの2つの幅展開を持っています。
エレメントの先端が溶けたような丸みのあるニュアンスを持ち、太いウエイトになるほどその特徴が顕著になります。また、Italicになるとより上品さが増すのもポイントです!
Cetra Text Pro / Cetra Display Pro
「Cetra Text Pro」「Cetra Display Pro」はフィレンツェのルネサンス期碑文から着想を得た、ハイコントラストなサンセリフ体です。
“フレア” と言われる先端にかけて広がっていくようなエレメント形状からは、なんだかラグジュアリーな雰囲気を感じませんか?
本文向けの “Text”、見出し向けの “Display” の2つのバリエーションを持つオプティカル展開(使用サイズ別に最適化した展開)を持ち、Textは小さく組んでも見やすいように、ややコントラストを抑えつつ気品を兼ね備えたデザインになっています。
一方Displayは、大きく使った際に華やかにまとまるようにTextに比べタイトな字幅とより高いコントラストになっていて、格式高い印象を与えます。
ぜひ利用シーンによって使い分けてみてください。
Letras Oldstyle Pro / Letras Oldstyle Narrow Pro / Letras Oldstyle Condensed Pro
「Letras Oldstyle Pro」は、文芸誌の本文組版のために開発されたオールド・ローマン体です。アメリカ大陸の古い活字書体から着想を得て制作されました。
「Q」や「R」に見られるような “カリグラフィの要素” を取り入れた字形が特徴で、組版に華やかなニュアンスを与えます。NarrowとCondensedの幅展開を持っています。
「CaslonMO Pro」と同じくセリフに溶けたような処理がされていますが、キャップハイトの高さなどの細やかな違いにより「Letras Oldstyle Pro」の方がより華奢で、繊細さが際立っていますね。和文の明朝体を使い分けるように、セリフ書体も使い分けたいところです……!
続いて「クラシカル&スタンダード」の後半は、経済記事をイメージして組んでみました。ベーシックな欧文組版をはじめ、和文と組み合わせてご利用いただくことでデザインの幅が広がります。
Pietro Text Pro / Pietro Display Pro
「Pietro Text Pro」「Pietro Diaplay Pro」は、15世紀に印刷された、ピエトロ・ベンボの著書で使用された活字からインスパイアを受けて制作されたオールド・ローマン体です。
やや字幅の広い大文字と整備されたアウトラインが特徴で、オールドスタイルでありながら、硬質で現代的な表情も持ち合わせています。
DisplayのItalicにはスワッシュ字形が搭載されており、ワードの最初に取り入れるだけでおしゃれで洗練された雰囲気になりますね。
「&」の代替字形も個性的で、かわいくて使いたくなっちゃいます!
Prelude Pro / Prelude Condensed Pro / Prelude Compressed Pro
「Prelude Pro」はオンスクリーンでの利用を想定して制作された、シンプルでややジオメトリックなサンセリフ体です。
幅展開はCondensedとCompressedの2つ。
小さなサイズでも読みやすくするため、カーブをはじめ一部のエレメントの先端の角を落としたような処理が施されているのが特徴です。
幾何学的なデザインなので、スタイリッシュな雰囲気を演出したい際などにハマってくれる書体です。
Star Times Text Pro / Star Times Display Pro
新聞での利用を目的に開発されたのが「Star Times Text Pro」と「Star Times Diplay Pro」。可読性と上品さを兼ね備えた汎用的なセリフ体です。
コントラストが高く硬質で華やかなスタイルですが、奇をてらわないデザインと高めに設計されたエックスハイトにより十分な可読性が確保されています。Italicの字幅がタイトになりすぎないのも特徴です。
DisplayはTextと比べてより高いコントラストとタイトな字幅で設計しているので、大きく使った際にも間延びすることなくキリっと仕上げることができます。
VibeMO Pro / VibeMO Condensed Pro / VibeMO Compressed Pro
「VibeMO Pro」は、クラシカルで堅牢なイメージのグロテスク体です。
字幅の差が少なく、アパーチャーが狭い(「C」の口がキュッと締まっている)ので、文章を組んだ際にまとまり感を出すことができます。
特に画像右側にあるような太いウエイトは、テキストを打つだけでロゴのように決まってくれます。CondensedとCompressedの幅展開があり、ユニフォームの背番号などをこれで組んでみるとかっこよくなる予感が……!
3. Roleスーパーファミリー
「Role」はSerif、Sans、Slab、Softの4つのスタイルと、Text(本文用)、Display(小見出し用)、Banner(大見出し用)の3つのサイズ別に最適化されたデザインのバリエーションを持ち、各スタイル最大9つのウエイトを用意しています。
SerifやSansなど複数のスタイルを同一コンセプトで制作される書体群を “スーパーファミリー” といい、Roleスーパーファミリーの書体数の合計はなんと200書体!書体数もスーパーです!!
Roleのすべての書体は、「誠実さ」と「安定感」をコアイメージとし、Serif は「エレガント」、Sans は「クリーン」、Slab は「力強さ」、Soft は「親しみやすさ」といったスタイル固有の特徴や印象を繊細に表現します。
アルファベットレングスや組版時の濃度が視覚的に揃うよう細かく調整しているので、統一感のあるコンテンツ制作や、多様な展開を要するコーポレートアイデンティティーの制作で使いやすい書体になっています。
この書体は、世界的書体デザイナーであるマシュー・カーター氏をメインデザイナーにお迎えし、Shotype Designの岡野邦彦氏とモリサワの欧文書体チームのデザイナー4名によるコラボレーションワークで制作されました。
英語版ではありますが、イベントでRoleをご紹介した際の動画もございますので、こちらもぜひご覧ください。
4. Clarimo UDシリーズ
「UD新ゴ」との併記を目的に開発された、多言語展開のあるサンセリフ書体「Clarimo UD PE」のコンデンス書体もリリースします。
ベースとなった「Clarimo UD PE」は、可読性を重視したシンプルで汎用性の高いサンセリフ体です。和文、簡体字、繁体字およびハングルなどの言語をカバーする「UD 新ゴ」シリーズとの併用で高い親和性を発揮します。
長体率はNarrow / Condensed / Extra Condensed / Compressed / Extra Compressed の5段階で、「Clarimo UD PE」と対応するウエイト展開になっています。
視認性にも優れていて、ディスプレイでの表示やアプリへの組み込みなどでスマートかつ明快な表示ができるのが特徴です。
シリーズ書体で同じ文言を組んでみるとこんな感じ!
近年需要が高まりつつある既存コンテンツの多言語化やデジタル化などの際に、一貫したデザインコンセプトを持つ書体でブランディングできるというのも大きなポイントです。
5. 欧文について困ったらここをチェック!
ここまで記事に出てきた細かい用語がピンとこない……実際使う時のルールは……?という疑問にお答えするべく、モリサワからご提供している欧文関連の情報リンクをまとめてみました。
気になるものを、ぜひポチっとしてみてください!
・欧文フォントの機能について
・欧文書体の分類について
・欧文の組版ルールについての連載
・欧文フォントへのこだわり
6. あとがき
最後までご覧いただき、ありがとうございます!
前回の和文編に引き続き欧文もかなり書体数が多いため、各書体画像を交えてご紹介しました。少しでもデザインへの理解の一助になれば嬉しいです。
この記事を書く前は、欧文に関する筆者の知識はそこまで豊富ではなく……。正直かなり苦戦しました(笑)。そんな状態ではありましたが、フォントの特徴を掴むために文字を打って睨めっこするうちに少しずつ可愛さやかっこよさがわかってきたんです!自分の目でみて考えることって大事ですね。
きっと皆さんも、知れば知るほど欧文書体が気になってくるはず…….!
今後モリサワ公式noteでも、少しずつ欧文の沼記事を増やしてきっかけ作りをしていけたらと思っています。
普段は和文書体でのデザインがどうしても多くなるとは思いますが、欧文も眺めていただいて、欧文書体をワンポイントで使ったり混植したり、いろいろ試してみてください。
リリースまであと少し、お楽しみに!(担当:M)
※記事内に掲載した書体は開発中のため、デザインが変更になる場合がございます。ご了承ください。