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【サンプルあり】欧文書体ってどうやって選ぶの?Occupant Fonts欧文書体×和文書体のペアリング作例をご紹介!

普段日本語の制作物をデザインする方でも、英語で文章や単語を表記する機会は少なくないと思います。
「欧文書体はたくさんあるけど、いまいちどれを使えばいいか分からない…」「いつも定番の欧文書体を使ってしまって新しい発見が少ない…」といったことでお困りの方も、実は多いのではないでしょうか。

2024年度のMorisawa Fonts新書体リリースでは、10月と2月の2回に分けてタイプデザイナーのサイラス・ハイスミスがリードする “Occupant Fonts” の欧文書体が計37ファミリー追加されます。
ぜひ多くの方にご活用いただきたく、今回のnoteではOccupant Fonts欧文書体 × 和文書体の作例を制作し、ペアリングの可能性を提案します!


欧文書体 きほんのき

作例のご紹介に入る前に、書体のデザインや特徴をとらえるための基本的な設計思想や用語をおさらいしていきましょう。

ラインと高さ

欧文書体は5つのラインを基準に設計されます。それぞれのライン設計に関わる高さや部位の名称は以下の通りです。

エックスハイト:小文字の “x“ の高さ。
キャップハイト:大文字の高さ。“H” や “T” などの大文字を基準とする。
アセンダー:小文字のエックスハイトより上に突き出る部分。
ディセンダー:小文字のベースラインより下に突き出る部分。

アセンダーライン:アセンダーの上端の線。
キャップライン:キャップハイトの上端の線。
ミーンライン:エックスハイトの上端の線。
ベースライン:欧文書体の基準となる線。基本的に大文字の下端がこの線に揃う。
ディセンダーライン:ディセンダーの下端の線。

文字の構造

欧文書体を形作るデザインの要素として、さまざまなエレメントとそれにまつわる用語があります。ここでは書体の解説などでよく登場する基礎的なワードに絞ってご紹介します。

ステム: 垂直方向のストローク
バー:水平方向のストローク
アパーチャー:文字の開口部の空間
カウンター:文字の中の空間部分
セリフ:文字の先端に付いている小さな飾りや突起部分
ブラケット:セリフとステムの間を滑らかに接続する曲線部分
アクシス:文字の丸い部分の傾きを示す軸

書体を選ぶ際に、どういうライン設計や文字の構造をしているかに着目し、デザインの特徴と印象/イメージワードの結びつきを意識してみるのもよいかもしれません。
Morisawa Fontsのサービスサイトでも書体の特徴や成り立ちについて解説しているので、今回ご紹介した用語もぜひ参考にしてみてくださいね。

Occupant Fonts 欧文書体 × 和文書体のケース別ペアリングサンプル比較

さて、ここからは実際の利用シーンをイメージした作例を、3つのケースに分けてご紹介します。書体デザインの親和性はもちろん、さまざまな視点からペアリングを探求してみたので、ぜひお手元でも色々な組み合わせを試しながら記事を読んでいただけると嬉しいです!

※これらは見本として制作したものです。実在するイベント、団体等とは関係ありません。

case1|ターゲットを意識した書体選び

お題:オンラインセミナーのバナー画像。
「ブランディングデザインとDX」という同一のテーマで、2つの異なるターゲット層を意識したバナーをそれぞれ作成する。

デザイン制作を行うとき、届けたいターゲットに応じてテイストや作風を決めることがあると思います。case1では、異なるターゲットにより効果的に情報を届けるには?というポイントで書体選びを行いました。

「Magmatic」×「ゴシックMB101」で親しみやすさを伝える

1つ目は、初学者向けのイベントをイメージした作例です。「Magmatic」シリーズとモリサワの和文書体「ゴシックMB101」を組み合わせています。実は「Magmatic」は、Occupant Fontsのサイラス氏が「ゴシックMB101」にインスパイアされてデザインした欧文書体なんです。

特徴的なのは、角ばったスクエアなフォルムと極端に閉じたアパーチャー。また、“a” などの文字に見られる手書き風のニュアンスが、どこか人間らしさを感じさせます。

「ゴシックMB101」は、伝統的なゴシック体の流れを受け継いだ風格ある書体です。しっかりとした骨格に加え、ハネやハライの先端にまで力強さと流れを感じさせるデザインは、親しみやすさと信頼感を同時に伝えます。

この2つの書体は力強さと重厚感を持ちながらも、どこか肉声で語りかけるような温かみを備えています。作例では、幅の広い「Magmatic Extended」をイベント名部分で大きく使用することで、ダイナミックな動きが加わり、初学者の方も気軽に参加できるような親しみやすい雰囲気を演出しました。

「Stainless 2」×「瓦明朝」で先進性を伝える

続いて、こちらはより専門的な内容のセミナーをイメージした作例です。
「Stainless 2」シリーズと「瓦明朝」を組み合わせています。

「Stainless 2」は、先ほどご紹介した「Magmatic」と比べてもわかるように、かなり広く開いたアパーチャーが特徴的です。カーブのストロークには勢いが感じられ、全体的にダイナミックな印象を与えます。また、カウンター部分はスクエアにデザインされており、幾何学的でスピード感のある雰囲気を演出しています。

「瓦明朝」は、新聞紙面の見出しとして使われている書体をベースに開発されており、横画やハライの先端が太めに処理されているため、明朝体としてはコントラストが低く、落ち着いた印象を持っています。

ふところが大きくモダンなデザインの「瓦明朝」と遊び心を感じさせる「Stainless 2」とを合わせることで、程よいギャップを生み出しているのではないでしょうか。明朝体とサンセリフ体を効果的に組み合わせることで、堅実なトーンを保ちながらも堅苦しくなりすぎない印象になっています。

case1で紹介した「Magmatic」と「Stainless 2」は、どちらも豊富なウエイト展開・幅展開が揃っているのも魅力の一つ。太さや幅で印象も大きく変わるので、デザインのテイストに合わせて選んでみてくださいね。

case2|大胆な組み合わせで世界観をさらに演出

お題:コンサートの告知チラシ。
「クラシックコンサート」「和楽器コンサート」「ファミリーコンサート」の3種類を想定。

cese2では、異なる3つのコンサートをイメージして、ムードや世界観を伝えるのに効果的な、新鮮なペアリングを探ってみました。

「Prensa」×「かもめ龍爪」が演出する、煌びやかなクラシック音楽の世界

セリフ体と合わせる書体として明朝体が候補に挙がることが多いかもしれませんが、一味違う表現がしたい!という時に、宋朝体を合わせてみるのはいかがでしょうか。宋朝体とは、縦画と横画のコントラストが低く、右上がりの骨格やシャープなエッジを持つ打ち込みやハライが特徴的な、中国の宋代に誕生した書体です。

クラシックコンサートを題材としたこの作例では、「Prensa Book Italic」に宋朝体の「かもめ龍爪」を合わせています。

「Prensa」は、1900年代前半の本文向け書体にインスパイアされたセリフ体です。セリフはブラケットのない均質なデザインで、モダンな印象となっています。よく目をこらしてみると…滑らかな外側のカーブに対して、内側はカリグラフィックなアウトラインになっていることがわかります。上品さの中にもダイナミズムを感じる作風です。

「かもめ龍爪」は、豪快でたっぷりとした収筆、鋭く大きなはらいが組み合わされた力強い宋朝体です。骨格は右上りで、かなは筆のうねりとのびやかなはらいを持っています。

「かもめ龍爪」のもつシャープさと「Prensa」の上品な雰囲気が調和し、煌びやかで特別感のある雰囲気を生み出します。

「Dispatch 2」×「ミンカール」が奏でる、弾むような軽やかなハーモニー

こちらは、スラブセリフ体「Dispatch 2」に、2024年秋にリリースされた写研フォント「ミンカール」を組み合わせた作例です。

「Dispatch 2」シリーズは、機械的で無骨な印象を持つスラブセリフ体です。鋭角なカーブが生み出すスクエアな字形と、ブラケットのないシンプルなセリフが特徴的で、幾何学的かつ力強い雰囲気を演出します。

一方、「ミンカール」は、ストロークごとの太さにメリハリをつけた、はずむような雰囲気のデザイン書体です。細い線の先端の小さな円や、はねやはらいの先端のくるんと丸まった処理が、キュートな印象を感じさせます。

「機械的で無骨」と「はずむようなキュートな印象」…。一見相反するイメージワードを持つ二つの書体ですが、今回は「Dispatch 2」の中でも特に細めのウエイトを選んでいることもあり、調和の取れた組み合わせになっているのではないでしょうか。
これは、どちらも特徴的な線端を持ち、スクエアな骨格に丸みを帯びたカーブを融合させている点が共通しているからかもしれません。

「ミンカール」のファンシーな世界観に「Dispatch 2」の大人っぽい表情が加わることで、幅広い年齢層に対応したポップで魅力的なチラシになっています。

「Occupant Gothic」×「てやんでぇ」で、躍動感のある和楽器のリズムを表現

こちらも、2024年秋にリリースされた新書体「てやんでぇ」を使用した作例です。

「てやんでぇ」は、勘亭流由来のうねりのある骨格にゴシック系の力強いエレメントを取り入れた、江戸文字風のユニークなデザイン書体です。

組み合わせた欧文書体は、直線的で鋭いエッジが特徴の「Occupant Gothic」です。右方向にわずかに膨らんだステムやバーが、次の文字への自然な流れを生み出し、勢いを感じさせます。

両者にはゴシック体の要素を取り入れた見出し書体という共通点がある一方で、文字の特徴を見るとそれぞれ異なるコンセプトを持っていることが分かります。それでも組み合わせてみると、互いの躍動感がうまく調和し、今にもビートが聞こえてきそうな賑やかな紙面になっているのではないでしょうか。

異なる国で生まれた異なるスタイルの書体が、見事に一体感を持って動き出すような印象を与えます。

case3|「声色」を繊細に使い分ける

お題:企業のWebサイト
地域密着型の食品メーカーのコーポレートサイトを想定。

企業の想いをどんな声色で表現するか

case3では少し趣向を変えて、同じデザインで書体のみ変更した作例を2つ作成してみました。発信するメッセージは同じでも、また少し違った印象に見えてくるのではないでしょうか。

Zócalo Display × 本明朝
Quiosco Display × 霞青藍

1枚目が「Zócalo Display」と「本明朝」、2枚目が「Quiosco Display」と「霞青藍」で組んだ作例です。どちらもセリフ体ですが、それぞれに独自のデザインや特徴があります。

「Zócalo」シリーズは、1600年代末のオールドスタイルローマンと1900年代前半の新聞向け書体を基にしたセリフ体です。新聞書体由来のがっしりとしたプロポーションが小さなサイズでも読みやすさを提供し、大きなサイズでは手書きのディテールが活き活きとした印象を与えます。

「本明朝」は、しなやかなカーブとキレのある直線を調和させた可読性の高い明朝体です。字面が大きくモダンなスタイルで、「Zócalo Display」との組み合わせにより、信頼感の中にも親しみやすさと柔らかさが感じられます。

「Quiosco」シリーズは、1900年代前半の本文用書体にインスパイアされたセリフ体です。ややタイトなプロポーションに加え、平筆で描かれたストロークやデフォルメされたカウンター形状が特徴的です。字幅やスペーシングはタイトですが、エックスハイトが高く、カウンターが広いため、小さなサイズで組んでも高い可読性を保ちます。

「霞青藍」は、横線やハライの伸びやかさを強調したふところの締まった骨格の漢字と、活字にインスパイアされたかなをもつ、楷書体の要素を色濃く残すオールドスタイルの明朝体です。この2書体の組み合わせにより、クラシカルな印象の中にエネルギッシュさが生まれます。

2つの組み合わせを比較してみました。

書体の繊細な使い分けは難しいかもしれませんが、TPOに応じて声のトーンや大きさを変えて話しかけるように、書体も発信したいメッセージやターゲットに合わせて、「どのような印象を持ってもらいたいか」を意識することが大切だと考えます。


デザインの参考になるようなお気に入りのペアリングは見つかりましたでしょうか? もちろん、「これが正解!」というものではないので、ぜひ他にも自分だけの推しペアを見つけてみてくださいね。本記事が、欧文書体を使ったデザイン表現の幅を広げるきっかけになれば嬉しいです。

Occupant Fontsやライブラリについては、こちらのnote記事もぜひご覧ください。

今後もnoteやOccupant Fontsのサイトでさまざまな情報を発信していく予定ですので、ぜひお楽しみに!