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シンプルで温かみのある表情のヒューマニストサンセリフ「Sharoa Pro」【2021年新書体】

今回は、2021年10月21日にリリースが迫る新書体から欧文書体Sharoa Proシャロア プロをピックアップします。

欧文はどれも同じに見える、どの書体を選んだらいいのかわからない…という方も多いかもしれませんが、欧文書体の基礎知識をはさみつつご紹介していきますのでご安心を…!
これまで欧文の設計をじっくり見る機会がなかったという方も、きっと見え方が変わるはずです(フォント沼のもう一層深い部分の存在に気づきます)。

デザイナーインタビューでは、Sharoa Pro開発秘話や欧文書体制作の奥深さも語っています。
ぜひ最後まで読んでいただけたらうれしいです!


1.ウエイト展開豊富な本文向け欧文書体

・コンセプト

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Sharoa Proはシンプルですっきりとした印象の本文向けサンセリフ体です。 
あおとゴシック」の従属欧文のベースのデザインにもなっており、クリーンな印象の和文に合わせたコンセプトで開発されました。

欧文書体のジャンル、ご存知のものはありますか?
欧文の分類で最もメジャーなものとしては、セリフ体サンセリフ体があります。
“ セリフ ” と呼ばれる飾りのついたセリフ体に対して、“ サンセリフ ” とはフランス語で「飾りのない」を意味します。
和文書体で例えると、セリフ体が明朝体にあたるのに対し、あおとゴシックとの混植を目的に作られたSharoa Proは飾りのないサンセリフ体、和文のゴシック体にあたります。

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前回のフォント沼のハナシ、あおとゴシック記事とあわせてお読みいただくとよりSharoa Proの話が分かりやすいかと思います。ぜひあわせてチェックしてみてください!

・ファミリー展開

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Sharoa Proはあおとゴシックの従属欧文のデザインのベースにもなっていますが、こちらではさらにずらっと…ウエイトが多いです!
UltraLightからUltraまでの10ウエイト展開で、それぞれイタリックを含めた20書体と幅広いファミリー展開になっています。
本文利用を主な用途としているためよく使われるRを中心に、ウエイトに応じてキャプションや見出しサイズでの利用に適した設計になっています。
本文組みのイメージがこちらです!
ローマン体(正体)と比較して、ややカリグラフィックにデザインされたイタリック体は、長文組版に適度なリズムを与えることができます。

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・文字セット

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書体名にもついている「Pro」は文字セットを表しており、こちらはモリサワの独自セットです。
モリサワの欧文の文字セットはProPEの2種類あり、英語などで使われるラテン文字以外にもダイアクリティカルマーク付き文字などを搭載し多数の言語に対応しており、Proは100言語、PEは151言語をカバーしています。
また、どちらも本格的な文章組版をサポートする数字や記号のバリエーションなど、代替字形を豊富に搭載しています。
詳しくはサポートページも参考にしてみてください。


2.シンプルなヒューマニストサンセリフ

・スタイル

サンセリフ体のスタイルはグロテスク、ネオグオテスク、ジオメトリック、ヒューマニストの4つに分類され、Sharoa Proは「ヒューマニストサンセリフ」にあたります。
ヒューマニストサンセリフは、他のスタイルに比べて手書きの風合いの残る骨格で温かみのある表情が特徴です。

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Sharoa Proの “ スッキリとした ” 印象は、グロテスクの “ 無骨な印象 ” と対比すると分かりやすいかもしれません。
…サンセリフ体の特徴、つかめてきたでしょうか?

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Sharoa Proはやや広めのカウンター(文字の中に含まれる空間)で、明快なエレメントは親しみやすい印象の読みやすい書体になっています。
また、字幅とスペーシングは比較的広めに取ることで、長文でも読みやすくなっています。


3.デザイナーインタビュー

ここまで欧文基礎と一緒にSharoa Proの特徴をご紹介してきましたが、さらにデザイナーからSharoa Proの制作秘話や欧文書体の見極め方を語ってもらいました。

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お話を聞いた人:タイプデザイナー 樽野 さくら(たるの さくら)
プロフィール:2011年モリサワ文研株式会社に入社。欧文書体「Role」などの開発に携わる。現在は和文書体開発に従事。

ーSharoa Proはどんなコンセプトで開発が始まったのでしょうか?
樽野:
あおとゴシックとの併記利用を目的とした欧文書体を作るという企画だったので、コンセプトはある程度和文に合わせてシンプルでスッキリとした印象の書体を目指しました。 モリサワのライブラリにもスタンダードに使える本文向けのサンセリフ体があったらいいなと思い、ウエイト展開の充実した欧文単体でもリリースすることになりました。

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ー欧文書体の選び方がわからない、という声をよく聞くのですが、Sharoa Proはどんなところで使ってもらいたい書体ですか?
樽野:
難しいですね…書籍や公共の場など情報を正確に伝えたい場面で使ってもらえるといいな、と思いつつも、自由に使ってほしいのでデザイナーからは使用場面を限定するようなことはあまり言いたくないんです(笑)シーンを選ばずに使ってもらえると思います!
たしかに、欧文書体の選び方は難しいですよね。前提として、フォントは色々な目的で開発されているので、文字セットやOpenType機能などデザインの前に使いたい条件に合っているかは大事なポイントです。
それをクリアした上で言うと、Sharoa Proはシンプルながら温かみもある書体なので、きっちり情報を伝えたいけど、無機質に、事務的にはしたくない場面とかが合うのかなと思いました。

ー欧文書体の雰囲気を掴むのが難しいのですが、Sharoa Proの “ 温かみ ” や “ 手書きっぽい ” といった特徴は具体的にはどんなところに現れていますか?
樽野:ヒューマニストサンセリフというジャンルが “ 温かみ ” や “ スッキリ ” といった特徴を持っていて、具体的には手書きに近いストロークが取り入れられていることが挙げられます。例えば、「アパーチャー(開口部の開き具合)」が開いているという特徴によって明るい印象の文章組になります。

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一方で、Sharoaはヒューマニストの中では手書きっぽさを抑えたストロークを採用しています。 “ 手書きっぽさ ” という特徴によって癖のある書体に見えないように、あまり目立つような特異性のある骨格は避けるようにしました。イタリックに関してはローマンよりはもう少し手書きっぽい形を強くしています。

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ーなるほど。手書きっぽさのあるスタイルの中で、その具合を調整しているんですね。
樽野さんはここ数年欧文書体をメインに担当されてましたが、Sharoa Proの制作で難しいところはありましたか?

樽野:これまでもベージックなものが多かったため、特徴をなくしていくというのは基本的には作りやすかったですかね。でも、特徴を出そうと思って出たわけではない私自身の癖は自分ではわかりにくいので、そこをいかにコントロールするのかというのはすごく難しかったです。特に、ディレクターからは数字が結構個性的だと言われました。これまでに制作した書体の影響で自分ではシンプルな形のつもりでも曲線に癖が出ているみたいで、中でも数字が一番指摘されましたね…。

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あとは、特徴的な形は取り入れない方針で進めていたのですが、つい遊び心を持たせたくなってしまって小文字のzを少し独特なものにしてみたら却下されてしまいました…。もちろん、本文書体の範疇でちょっと色を出すような遊び心だったのですが、目につく個性を少なくするというコンセプトだったので今回はダメでしたね(笑)最終的には全体を見て揃っていたので特異な形は避けておいてよかったと思っています!

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ーあおとゴシックとの整合性はどのように取っていったのですか?
樽野:試作段階の和文と欧文でモックアップを作るなどしてデザインの整合性をある程度とってから制作を進めました。文字数が少ないこともあって欧文が和文より先行して完成したのですが、最後にあおとゴシックにデザインを合わせるという再調整も必要なくスムーズに制作が進められたのはよかったです。
一方で、あおとゴシックに合わせながら欧文としても使いやすいウエイトを設定していくのは少し難しかったですね。欧文のファミリーとしては細かいウエイトの刻み方なのですが、和文の太さに合わせることを前提にするとどうしてもウエイト数が多くなってしまいます。単純に欧文のみを作ろうと思ったらまた違ったウエイトの構成になっていたかもしれないですね。とはいえ、ウエイト数が多いことはデメリットではなく、細かい太さの調整をしたい誌面などでは使いやすいんじゃないかと思います。

ー日本人のデザイナーとして、欧文書体制作で難しいと感じることはありますか?
樽野:作成時は実際に文章を組んでチェックや調整をするのですが、ダイアクリティカルマーク(発音区別符号)付きの文字など馴染みの無いものはネイティブではないので “ 読む ” という感覚が難しいですね。日本語の濁点だったら読んだ時に大きすぎるとか、文字として認識しづらいなどの感覚がありますが、マークの大きさや位置などは実際に読めるわけではないのでそういった判断が難しく、日々勉強ですね。

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ー逆に和文制作と欧文制作で通ずる点はどんなところがありますか?
樽野:一つは文字の機能的な面で、当たり前ですがどんな言語でも「誰かが情報を読むためのもの」という使用目的は変わらないというところです。どんなところに使われるか、どんな情報にその書体が必要とされるのかなどを考えることも書体制作では大事で、その点では和文と欧文どちらも原則は変わらないなと気づきました。プロセスは違うんですけど、機能的な目的が一緒なのでチェックするべきポイントとかやることは分かってくるかなと思います。
デザイン面では、アウトラインを作るときにそれぞれの文字の成り立ちに深く関わってきた道具を意識するということです。日本だったら筆など、それぞれの文字を書くときに使われていた道具が現代の文字の形にも影響していると思います。そこはやっぱり日本人だから欧文でその感覚が掴みづらいことはありますが、逆にいうと道具をちょっと意識することでその言語の文字のデザインを理解するのに役立つので、すごく大事なことだなというのを両方経験して感じるようになったと思います。

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ー和文書体と欧文書体、どちらを制作する上でもそもそもの文字としての使用目的やルーツとなる道具を意識することが大切なんですね。
樽野さん、貴重なお話をありがとうございました!

4. おわりに

Sharoa Pro、どんな書体かお分かりいただけましたでしょうか?
和文書体に比べてとっつきにくく感じる方も多いと思いますが、樽野さんのおっしゃる通りSharoa Proはシーンを選ばずに使いやすい欧文書体なので覚えておいて損なしです!

2021年新書体は10月21日(木)からダウンロードできます。
欧文書体はSharoa Proの他にもBackflip Proバックフリップ プロがリリースされます。個性の全く異なる2ファミリー、ぜひチェックしてみてください。

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これからもフォント沼なハナシでは書体設計の解説、開発秘話をお届けしていきますので、よろしければフォローもよろしくお願いします!(担当:H)


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