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行と行のアキは必要? 行間や行送りの基本

東京に住んでいると見慣れた光景の一つである満員電車。車内の隙間ない状態に、もう少しでもアキがあれば快適なのに……なんてことを思ったりします。

それは組版も同じで、普段からそこまで意識していない人が多いと思いますが、行と行のアキである「行間」のアキ加減で、文章が快適に読めるかどうかが変わってきます。

組版を行う際はこの行間の調節が非常に重要になります。今回はこの行と行のアキについて掘り下げます。


行間とは?

行間はその言葉の通り、行と行の間のアキのことを言います。
文章の読みやすさを追求するときは、以前の記事(ベタ組とツメ組。日本語の文字の並べ方を押さえよう)でご紹介した字間を調整する場合もありますが、行間を考えることも必要です。

例えばこのような文章は行と行の間が空いていないので、縦横どちらから読めば良いのかわからず、誰しも読みにくさを感じるかと思います。

こんな風に行間を空けるととても読みやすくなります。そして行間を空けたことによって縦組みであることもわかります。このように行間には的確に次の行頭へ案内する「空白の罫線(ナビゲーション)」の役割があり、文章を読む際には必要不可欠なものです。

ちなみに行間の調整は活版印刷時代から行われていました。活版印刷は、活字を組み合わせて版を作り、紙へ転写して印刷する手法で、行の間にはインテル(Interline, leads)という金属製(または木製)の板を挟み、厚みを変えることで行間を調節していました。

活版印刷のインテル(木製)

行間と行送りの違い

行と行の間隔を指定する方法には、行間で指定する以外に行送りで指定する方法があります。この2つは考え方に違いがあります。

行間と行送りの違い

行間は行と行のアキを指します。一方、行送りは1行目の文字の上から2行目の文字の上(図の①)や、1行目の文字の中央から2行目の文字の中央(図の②)までの間隔を指します。
この行間と行送りの関係性は、以下のように求めることができます。

・行間 = 行送り ー 文字サイズ
・行送り = 文字サイズ + 行間

ここから行送りの指定は文字サイズが影響することがわかります。例えば、一つの行に異なる文字サイズの文字が混在するとします。この場合、基準となる位置がどこになるかによって、行間や行送り量は変わります。ただ、行送りの基準位置は前述の①や②など、アプリケーションや設定によって異なります。そこで行送りの基準位置を意識しておくと、意図した調整がしやすくなります。

InDesignとIllustratorの⾏送りの基準設定(段落パネルのメニューより)と異なる⽂字サイズが混在した場合の⾏送り

また、手動写植の文字の送りに歯車を使用していたことに由来し、行送りの単位には(H)という単位を使用することもあります。この「歯(H)」も「級(Q)」と同様に1H=0.25mmとなり、文字サイズを「級」で設定している場合、行送りなどは「歯」で設定することが多いです。

行の長さから、適切な行間を決める

ではどれくらいの行間を設定すれば良いのでしょうか?
文字の大きさや原稿内容、対象になる読者、行と行の間に挿入される要素によっても異なりますが、行間は使用する文字サイズに対して最低50%(半角)~100%(全角)分を空けておくことが大切です。

ただ、同じ行間でも、行長(1行の文字数)によって印象が大きく異なってきます。新聞などの行長が短い文章では文字サイズの50%ぐらいのアキでも視線の移動が十分しやすいですが、小説などの行長が長い文章は視線の移動が大きくなるので、行間が狭いと次の行への視線の移動がしにくくなります。

そのため、行間を少し広めに文字サイズの75%~100%程度空けた方が違和感なく読みやすくなります。ちなみに横組みに比べると縦組みのほうが、行間が狭くても読みやすいと言われています。

ただ、行間の値については明確な基準はないので、いくつか試しながら適切な行間を決めることが必要です。

ルビがある場合

行間にはナビゲーションの役割の他、本文の脇にルビ(ふりがな)を入れるためのアキの意味合いもあります。そのため、ルビを含んで文章を組む際はルビを置くスペースを考えて行間を設定する必要があります。

ルビは親文字一文字に対し、二文字分を振ることを想定して、親文字の半分のサイズにすることが多いです。例えば本文の親文字が10ptならルビのサイズは5ptとなります。

よって、行間は最低でも文字サイズの半分である50%を空けておく必要があります。ただ、行間がルビ文字サイズと等しいアキですと、行と行のアキがなくなり、ルビが多い場合は読みにくいので、文字サイズに対して少なくとも75%(二分四分にぶしぶぐらいのアキをとっておいた方が、空間ができて読みやすくなります。ルビを振ることが必要な場合には文字サイズ+25%ぐらいを確保しましょう。

なお、行間にはルビ以外にも下図のような圏点(文字の強調を行うときに、文字に付加する点)や注釈記号なども入れたりします。

圏点や注釈記号の一例

段落間の行間

では段落を変えるときの行間はどうすれば良いのでしょうか。例えば下図(左)のような3つの項目の箇条書きの場合、行間の全てを50%のアキ設定としていますが、段落ごとのアキがないと、どこまでがひとつの段落なのかわかりにくいです。このような場合は段落ごとのアキを行間より大きくします。

通常の行間よりも、段落ごとのアキを広くすることで箇条書きであることがわかりやすくなります。アプリケーションによっては段落前のアキ設定ができるので、スムーズに調整がしやすいよう設定を工夫してみてください。

InDesignとIllustratorの段落前のアキ設定

今回は行間と行送りについて紹介しました。行間が変わることによって文章の読みやすさは変わります。目安の数値はあるものの読み手が快適に読めるよう、試しながら適切な行間を決めてください。

それではまた次回もお楽しみに。


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