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フォントの教科書 ~書体選びの基本とデザインのしくみ~

モリサワでは、MORISAWA PASSPORTユーザ様に向け「FONT COLLEGE」を不定期で開催しています。

2021年11月30日(火)にオンラインでの開催となったVol.8の講師は、アートディレクターであり大学教員でもある大里浩二さんと、グラフィックデザイナーでありライターでもある伊達千代さん。現代のフォントを取り巻く事情を多様な角度から知るお二人を迎え、デザインの対象が印刷物からWebや動画などへシフトを続ける現代において、より複雑性と重要性を増している「フォント選び」「フォント活用」の指針となる知識を、「フォントの教科書」と題しお話しいただきました。
本イベントは、2021年9月発売の「+DESIGNING Vol.52」に掲載された特集記事「フォントの教科書」をより深く掘り下げたもの。デザインとフォント選びの基本講義とワークショップに加え、著名デザイナーのフォント選択のセオリーや、2021年モリサワ新書体の魅力や使いこなし術も飛び出し、実践的な内容も盛りだくさんの約2時間となりました。

大里 浩二  おおさと こうじ
帝塚山大学准教授、株式会社THINKSNEO代表取締役。日本デザイン学会会員、意匠学会会員、電塾会友。
広告からCI・Web・エディトリアルなど幅広いジャンルを手がけるアートディレクター。デザイン論にも造詣が深く、著作と講演実績も多数。近年の著書・監修に『やさしいレイアウトの教科書[改訂版]』(MdN)『グラフィックデザイン基礎講座』(玄光社)『カラーと配色の基本BOOK』(ソシム)など。

伊達 千代  だて ちよ
株式会社TART DESIGN OFFICE代表。グラフィックデザイナー、ライター。
デザイン関連の雑誌・書籍執筆のほか、グラフィックデザインのトレーニングも行う。 主な著書に『デザインのルール、レイアウトのセオリー。』『デザイン、現場の作法。』『デザイン・ルールズ』(以上MdN)『文字のきほん』(グラフィック社)など。大きな話題を呼んだ「フォントかるた」で制作チームの一員として解説等を担当。

第一部 フォントのあり方から現代デザインの潮流

第一部は、大里さんによる講義です。「そもそも文字というもの、フォントというものは何であるかを知ることで、もっと活用や発想の幅は広がる」という主題のもと、小手先ではない「文字論・フォント論」が繰り広げられました。

大里 文字の成り立ちというと「象形文字はものの形を表した絵からできた」といった話があるわけですが、では「絵」とは何か。今日はそこから話していきたいと思います。
まずこれは、ラスコーやアルタミラの洞窟壁画。クロマニヨン人、つまり私たちの直接の祖先=ホモ・サピエンスが描いたものです。実はこのような、絵を描いたり観賞したりといった活動は、それまでのヒト属にはありませんでした。
人類の進化と言えば「道具や火、言語を使う」といった事柄がよく挙げられますが、実は「絵を描いてコミュニケーションする」ことも大きな進化なんです。

では改めて「絵」が描けるとはどういうことか。それは、実際には存在しない「外界と対象を隔てる線」、いわゆる輪郭線が書けるということ。そして、見たままを精密に描かず簡単に描いたり、簡単に描いたものを「あの動物だ」と捉えたりする、「省略」ができるということ。
さらに、例えば星座のように、単純な形から絵を想像する「見立て」ができるということです。これらをまとめて言うと「概念化」ということになります。

例えば私が大学の授業で必ず取り挙げる課題に、「円の中に点が3つある図形に『耳』を付けるだけで、ウサギ・ネコ・クマ・イヌにしなさい」というものがあります。イヌの耳はちょっと迷いますけれど、まあウサギには長い耳、ネコには三角の耳、クマには丸い耳を付ければ、ちゃんとその動物になりますね。これを動物に見せても「これは自分だ」とは絶対に思いませんが、人間なら、小さい子でも「あ、うさぎさん」とわかります。脳の中で非常に高度な処理がされているわけです。
形の概念化、想像力というのはものすごい力であり、それが具わっているのが我々人類なのです。こうした、人類の持っている能力をベースに考えることで、文字やフォントとのつき合い方も見えてきます。

人間だけが持つ「概念化」という能力。大里さんは、人間が文字や書体・フォントを活用できるのも、「概念化」の能力あってこそと話します。

大里 例に挙げたのは、ちょっと稚拙な手書きの「愛」と、筆文字の「愛」です。小学校の教科書で習う教科書体とは全然違いますし、二つの見た目も全然違いますが、私たちはこれをどちらも、「愛」という漢字だと認識できるわけです。この認識力。これが、私たちが様々な形のフォントを扱っていくことができる力なんです。

大里 それから、和文・欧文の様々な基本書体。見た目にはかなり違う形をしていますが、ベースとなる骨格は同じだからやはり読めます。さらには点画が少々本来の形から外れていても、私たちは「大体の形」で読めるんです。
そんなわけで、我々は思いのほか幅広い形を「文字」として読めます。崩しても、下手くそでも、少々骨格がおかしくても、例えば一部が図形に変わっていてさえ、読めてしまう。これが面白いところなんですよ。フォントの中には、かなりもとの字体から離れているものもありますし、肉付きが非常に風変わりなものもあったりする。けれども私たちは、骨格でも読むし、何となくの全体の姿でも読む。
ですから、文字を使う、文字を作る、ロゴを作るときも、かなり冒険しても大丈夫なんです。「文字はこうでなければいけない」と考えるとその活用の幅は本当に狭くなりますが、「飛び越えることはいくらでもできる」と捉えると、文字というものとの付き合い方が変わると思います。

人間の「概念化」の力を理解すれば、もっと大胆なフォントの使い方が可能になる。そう話す一方で、形やスペースといった「形状・空間」から人間が受ける印象は思いがけないほど強いものであり、フォントを選び使う際にも無視できない要素であると、大里さんは説明を続けます。

大里 形状が与える印象で言うと、ジオメトリックかオーガニックかが大きな区分です。定規やコンパスで書いたような、カチッとしたジオメトリックな形に感じる感情。フリーハンドで書いたような、揺れや歪みのあるオーガニックな形に感じる感情。フォントが与える印象の違いも、ここから派生している部分があると言えます。

それから空間、スペースの与える印象も大きなものがあります。例えば本文組版で考えてみると、かな文字の大きな書体で組まれたものと小さな書体で組まれたものでは、全く同じ文章でも読みごたえや受ける印象が変わります。それから、同じフォントを使っても、字間を変えたときの違い。ほんの少しいじっただけで、相当に風情が変わります。

かなを変えた例
字間を広くした例

本文組版のスペーシングで言うと、行長も重要ですね。素早く情報を伝えたいなら行長は短いほうがいいですし、ゆったりと時間を作って読んで欲しいときは長めに組む、というセオリーがあります。例えば、素早く伝えたい企画書などは、行長が短い方がいいですよね。

それからページ全体のスペーシングもあります。例えば、ジャンプ率の低いレイアウトが流行りだからといって、見出しをただ小さくしては、どこにあるのかわからなくなります。小さくてもいいけれど、きちんと周りに余白を取り、そこに視線が集中するようにしましょう、というのがセオリーですね。

つまりまとめると、文字や書体を使う、文字と付き合うというのは、フォントを選ぶだけではなく、組み方も考えるということなんです。だからフォント選びは、ただ見本で見るだけではなく、実際に組んでみてどうなるか、どう感じるかということを試すことが大切です。そこで自分の感じ方に素直に従ってみればいいんじゃないかな、と思います。

文字を使いこなすということは、フォント選びだけで終わらないこと。形や空間にも注意しながら、実際に組んでみてどう感じるかを突き詰めること。そんな「文字との付き合い方」の基礎をお話し下さった大里さんは、最後に「現代のデザインの潮流」として、「+DESIGNING Vol.52」でも取り上げたパッケージデザインをピックアップして、「突き詰めた文字の使い方」のお手本を紹介してくれました。

ザ★Ⓡから揚げ(味の素冷凍食品)
使用フォント:A1明朝
※2021年時点のパッケージです。
ルック 青い宝石(不二家)
使用フォント:赤のアリス
※期間限定商品のため終売
邪払のど飴 柑橘ミックス(UHA味覚糖)
使用フォント:篠

大里 凝って凝ってこだわり抜いて、細かく細かく調整をして、商品名を作っていく。それがパッケージの世界です。MORISAWA PASSPORTのおかげで、現在の我々は、多種多様なフォントが気軽に扱えるようになりました。「フォントを選ぶ」という段階でも、かなり選択肢があります。デザインするものによっては、この豊富な候補から最適なフォントを選ぶだけで良い場合もあるでしょう。ただ、中にはこういう、ものすごい挑戦を重ねながら文字を扱う人もいる。そういうことも知っていただけると、また見えてくるものがあるのかな、と思います。


第二部 『書体』を感じよう

第二部は、「FONT COLLEGE」初の試みとなるオンラインでのワークショップです。
Zoomから参加した視聴者の皆さんと、配信会場で模擬生徒役として参加したモリサワの社員、そして講師として登壇される伊達さんも参加し、3種のお題に挑戦。限られた時間の中で、早めに投稿された数点の作品はその場で講評も行われました。

チュートリアルとして簡単なデータチェックや投稿方法の確認を終えた後、まず提示されたお題は「昭和と令和」。昭和を感じるデザート「プリンアラモード」と令和の流行スイーツ「マリトッツォ」、それぞれの文字列が二つの四角の中に配置されたドキュメントをベースに、二つの時代の対比や、選ばれた文言の本質を感じさせるタイポグラフィを考案します。

昭和と令和のお題テンプレート

続いて提示されたのは、架空のサスペンスホラードラマの次回予告画面。赤系の渦模様を背景に「ドライフラワー」というメインタイトルを、不安感や恐ろしさを感じさせるタイポグラフィで表現します。

ドラマタイトルのお題テンプレート

そして最後のお題は、架空の書影です。雷が光る夕空に赤い傘が浮かんだ、ファンタジーともドラマチックとも感じられる背景画像に、書名と著者名を配置します。「天使や神の世界が登場する多重世界」「コメディタッチの冒険活劇スタイルのシニカルファンタジー」という、何とも表現に悩みそうな作品設定を踏まえ、その世界観を表現するタイポグラフィが求められます。

書影のお題テンプレート

どのお題も一見取っつきやすそうでいて、手を動かすうちに、書体やウェイトを選ぶだけでなく大きさや配置・加工など、文字だけでも考える要素は満載なことに気付かされ、第一部の「文字を使うことは、フォントを選ぶだけでなく組み方も考えること」というお話が実感として迫ってきます。うっかり作り込みにはまってしまうと、あっという間に制限時間に!

発想力と書体知識、アプリの操作スキル、すべてをフル回転させて挑む、手に汗握るひとときでした。早々に投稿された作例には自分では思いもよらなかったフォントを生かしたものも多く、参加した方々のセンスとフォント愛にも唸らされました。

本番中は時間の都合もあり、すべての作品に目を通せませんでしたが、配信終了後、大里さん、伊達さん、そしてモリサワで全作品をチェックし、入選作品を選びましたのでご紹介します。

昭和と令和

投稿者:タナベ さん  使用書体:赤のアリス/すずむし
かわいいフォントの代表格2つ。昭和は昔の喫茶店のインテリアが重厚に見せようとしていたところまで感じます。令和は肩肘はらないでゆるーくする現代のテイストが感じられます。
(講評:大里)
投稿者:石川 紗彩 さん  使用書体:すずむし/秀英にじみ明朝
すずむしのレトロさが引き出され、お菓子の名前にもよく合っています。また、令和にはクールな書体の投稿が多かったなか、にじみのある書体で柔らかさや情感も感じさせていただきました。お菓子のイメージが色表現されているのもすごい。(講評:伊達)


投稿者:ほり さん  使用書体:A1明朝/シネマレター
「真面目な昭和」と「ゆるさを大切にする令和」のような対比が良いですね。当時のプリンアラモードって実際にはどんな書体で表記されていたのか気になってしまいます。(講評:モリサワ)


ドラマのタイトル

投稿者:中嶋かをり さん  使用書体:うたよみ 
掠れた感じと、この背景の中でゆらゆらと漂っているような歪ませ方や配置が決め手。「イ」で力なさげに落ちていきそうなところを、えいやっとこらえて戻ろうとする「フ」がとても愛おしいです。(大里)
投稿者:YUKI さん  使用書体:正楷書CB1
何しろとにかくカサカサです。どうしてここまで乾いてしまったのか(笑)。整った真面目な顔の正楷書CB1が、加工でガラリと表情を変えたのに驚きました。元が読みやすい書体のためか、加工後も可読性が落ちていません。(伊達)
投稿者:かたやま さん  使用書体:毎日新聞明朝
新聞書体という使うシーンが限定されそうな書体をサスペンスホラーの題字に使うという意外性で選びました。細めの書体が底知れぬ不気味さを醸し出していますね。(モリサワ)


書影

投稿者:三田真己 さん  使用書体:秀英にじみ明朝
フォントのもともと持っているにじみに掠れをプラスすることで、力のある表現になっています。平積みしたら栄えるなと思いました。雷の形が文字の配置とうまくマッチしています。(大里)
投稿者:るな さん  使用書体:きざはし金陵
難しい作品設定をとても上手に表現されています。文字のサイズや配置、細かな加工など丁寧に作られているので、しっかり目に飛び込んできます。雷の絵柄に重なるように作られた雷のエレメントが素晴らしいです。(伊達)
投稿者:村上希さん  使用書体:A1ゴシック
画像の雷が強い印象である一方、作品設定はコメディタッチと難しいお題でしたが、A1ゴシックはカタすぎずユルすぎず絶妙な選び方と感じました。過度な装飾がないのも人気作家ゆえの落ち着きと受け取れます。(モリサワ)


ワークショップに参加、投稿いただいた皆様、ありがとうございました。


第三部 対談

第三部の対談は、2021年注目の新書体の話からスタートしました。

大里 2021年新書体については、「+DESIGNING Vol.52」の作例も担当させていただいたので、語りたいことがいろいろあります。注目株と言えばまずは「澄月」ですね。とにかく触ってみたくて、作例も真っ先に手を付けました。この、自動で連綿する面白さ。昔のフォントなら、アウトライン化して必死で連綿風の形にするところです。また同じかなでも前後の文字によって、形が違うんですね。本当にテクノロジーはすごいなと思います。もちろん文字の形も素晴らしいですよ。

澄月


文字の形で言えば「げんろく志安」、これも筆の入りのスピード感がいいと思います。それから、今回は「四号かな」の追加ということになりますが、「秀英にじみ」。にじみのさじ加減がうまいなあ、と思います。

左:げんろく志安 右:秀英にじみ四号かな

伊達 そうですね。にじみのうるささ、みたいなものがあまりなくて。

大里 小さく使ってもうるさくないし、大きく使えば確かににじんでいるという。あとやっぱりね、「文游明朝体」シリーズ。これはもう、本文組版に新しい時代が来るのではないか、文芸書でもどんどん置き換えが起きるんじゃないかと思わされる、よくできた本文書体だと思います。

左から 文遊明朝体、文遊明朝体_勇壮かな、文遊明朝体_文麗かな、文遊明朝体_蒼穹かな、文遊明朝体S_垂水かな

伊達 私も「文游明朝体」の、特にかなのバリエーションは小躍りするくらい(笑)嬉しかったです。それぞれの美しさを持ちつつ、これだけ違う表情が出せる書体は今までになかったと思います。
それから私の場合は、「あおとゴシック」が、プレーンかつウェイトがたくさんある、待ち望んでいたゴシック体という感じで、すぐに使いたい注目株です。大きな見出しから小さなキャプションまでファミリーで使えるので、「選択肢が広がった」という気がしています。

あおとゴシック

大里 ウェイトが揃っている書体はやはり使いやすいですよね。このおだやかな感じや可愛らしさもいいですね。オンスクリーンだけでなく紙媒体でもかなり使われそうです。

伊達 あと、「Sharoa Proという欧文書体も良いですね。あおとゴシックとの混色を目的に開発されたそうで、和欧混植がきれいに組めるのではないかと期待しています。和欧の混植はいま私の中の課題の一つなので。もちろんこれまでも和欧のフォントを自分で組み合わせて使ってきたわけですが、そのまま組んで自然に見せてくれる書体というのもありがたいなと。

Sharoa Pro

大里 本文にも欧文が増えているし、和欧混植は今後増え続けるでしょうからね。

このように、年ごとに魅力的な新書体が続々とリリースされるという、近年の恵まれたフォント事情。その一方で、膨大なフォントの中からいかに適切なものを選ぶかという悩みも聞かれます。

伊達 今は、明朝・ゴシックのいわゆる基本書体でもかなりの数のフォントが揃っていますからね。どうやって目的に合ったものを選べばいいのか、「+DESIGNING Vol.52」の記事にもなっていましたが、改めて大里先生の書体の選び方をお教えいただけませんか?

大里 そうですね。まず本文であれば、読む人が「内容に沿った読み方」ができるものを選ぶというのが基本です。「+DESIGNING Vol.52」では、媒体が紙かスクリーンか、縦組みか横組みか、文章が長いか短いか、読者に与えたい印象は何かといった、媒体の条件や狙いに即してフォントが選択できるチャートの形でセオリーを紹介しています。
ただ、例えばこのチャートで「紙で縦組みのノンフィクション」は「游明朝体」となりますが、それが絶対というわけではありませんよね。游明朝体を一つの基準にして、読み味の違いなど細部までこだわって選んでいただけるといいなと思います。

本文書体の選び方チャート

伊達 私が本文系書体でおすすめしている方法も、基準になるフォントを何かひとつ持っておくことです。私自身は游明朝体を基準にしていて、そこから、時代感や印象をどうシフトしたいか、という選び方をすることが多いですね。基準にする書体は普段の仕事に応じて何でもいいのですが、何かしら基準があると選びやすくなると思います。

大里 自分の基準は大切ですよね。基準がないとどこにも歩いていけないです。自分の立ち位置があって、いろいろ歩いてくうちに「フォント地図」が広がっていくみたいなね。

ベーシックであるだけに選択に悩む本文系書体に対し、さらに幅広い選択肢のある見出し系書体。分類するのも容易でないほど百花繚乱のフォントを、「+DESIGNING Vol.52」では6系統に整理しています。その解説から、話は著名デザイナーのフォント選びのセオリーやTips、フォントの時代感覚にまで広がっていきました。

見出し・タイトル書体の選び方チャート

大里 チャートのように「硬い/柔らかい」「風格/身近」などの言葉だけでフォントを探すのは難しい面もありますが、慣れない人であれば、一番下の「スタンダード系」「しっとりにじみ系」「親しみ系」「かわいい系」「デコラティブ系」「筆文字系」の6分類を見るだけでも参考になると思います。あと見出し系は、やはりどれだけ人をひきつけるかがポイントですね。それだけに、例えば広告のジャンルでは新しいフォントを使おうという意欲が高いです。

伊達 私も「+DESIGNING Vol.52」の取材で複数のデザイナーさんにお話を伺いましたが、特にパッケージデザインをされる方は、新書体をすぐに取り入れるとおっしゃっていました。見慣れない書体が世に出たときの新鮮さを大切にすると。確かに、パッケージやタイトルには新しい書体というものは効果的かもしれないですね。

大里 それと同時に、奇をてらうのではなく、内容に合っていることも大事です。基本的にミスリードはしない。異なるイメージを持たれてしまうと、そこで失敗することがあるわけです。例えば商品のロゴが内容に合っていなければ、せっかくのお客さんが逃げてしまいますからね。

伊達 ワークショップのお題にもそんな要素がありましたね。背景や条件も細かく設定して下さっていたじゃないですか。私、書影のお題で「コメディタッチ」という設定を見落としていて、後から「あっ」と思いました。そういう、バックグラウンドや内容を知ることは、書体選びには欠かせない条件ですね。内容を知った上で、ではそれに合っているフォントかどうかというのは、どうやってチェックすればいいですか?

大里 第一部の私の話にも繋がりますね。形に何を感じるか、ということです。ジオメトリックなのか、オーガニックなのか。そういったことの積み重ねですね。

伊達 漢字がたくさん並ぶ場合とカタカナやひらがなが多い場合など、文字の種類によっても違ってきますよね。
今回の取材でお話をうかがった髙谷加代子さんの場合は、広告を中心に活動してらっしゃる方なんですが、MORISAWA PASSPORTのフォントはすべてインストールしておられるそうなんです。「毎回すべてのフォントを全部試します。これは無い、とわかっていても、一度は当ててみます」とおっしゃっていました。

大里 すばらしい。いまのフォントの数を考えると大変な作業ですけれども、当ててみたらがっかり、というのもやっぱりありますからね。

伊達 パッケージを中心に活動されている勝又弘充さんもやはり、全フォントを試してみるとおっしゃっていました。勝又さんはスタンダードな書体をきれいに組まれるのが得意なデザイナーさんだと思うんですけれども、それでもちょっと可愛いものとかも使ってみるし、違うかなと思う書体でも試してみるというお話でした。ちなみに、高級な商品だとパッケージにドーンと文字が入らず、小さい字を使うんですね。そういう場合に、特徴のある書体を使うと、ちょっと違う感じ、惹きつけられる感じがある、ともお話されていました。

大里 なるほど、勉強になりますね。

伊達 勉強になった取材と言えば、リリックビデオで活躍する成田雄輝さんです。成田さんには熱烈な「推しフォント」がある。それがリュウミンだとおっしゃるんです。私にとってリュウミンは、一番伝統的な、言い方は悪いですが、古い感じのする明朝体でした。でも成田さんは「古いとか歴史とかわからないけれど、とにかく歌詞がかっこよく見えるんですよ」と言われるんです。少しやわらかく言いたいときや湿度感のある歌詞にはA1明朝がいいけれど、他の歌詞は基本的にリュウミンが合うと。リュウミンのキリっと尖った感じが、ちょっとドライな今風の明朝体と捉えられるのかな、と思いました。
※成田さんのnoteは後日公開します

大里 リュウミンは、かなが伸びやかですよね。そういうスッとした部分に惹かれたのかな、とも思います。特に、リリックビデオは動かしますから。
私のように昔からデザインに携わっている人間は、フォントがどんどん増えてきた経緯も知っているし、昔からあるフォントは古いものだという既成概念ができていますよね。しかし若い世代の方は、大量にフォントがある時代からキャリアを始めているから、すべてのフォントを同条件で同時に俯瞰しているんですね。

伊達 昔からフォントを使っている方たちの多くが抱いているのとはまた違った捉え方、違う見せ方や表現をどんどん作っていただけるのは、本当に目からうろこだし、楽しいことですね。


視聴者からの質問にも答えていただき、まだまだお二人のフォント談義は尽きませんが、今回の「フォントの教科書 ~書体選びの基本とデザインのしくみ~」のレポートはこのあたりで。

魅力的な新書体も年々追加され、収録書体は今や1,500以上となり、「伝える」仕事を強力に文字で支えるMORISAWA PASSPORT。目的に合った最適なフォントを選び出すチカラは今後ますます重要になりそうです。皆さんもぜひ、今回紹介された基本の考え方やセオリーを、クリエイティブなフォントライフにお役立て下さい。

FONT COLLEGEはこれからも不定期に開催し、noteでレポートを掲載していきたいと思います。今後の掲載も、どうぞお楽しみに!

大里さん、伊達さん ありがとうございました


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